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タイ旅行記⑥【レモンソーダの風が吹く】

階段下では、寄付を募るブースがあって「タンブン」と声を掛けられる。ここで寄付をするなら、その分さっきの少年にあげれば良かったんじゃないかと思ってしまう。

素通りして参道を戻る。
私はこのお寺でぜんぜん徳を積めていないな、という気持ちになってくる。徳を積むために来たわけじゃないけど、人に対して良いことができていない…

赤い屋根の山門のような建物を、来たときとは反対方向に歩く。トンネルのようになっているのを抜けると、バイクタクシーと交渉してくれたお姉さんのカフェの前に出た。

さっきのお礼に何か飲んで行こうか。山登りして汗もかいたし、喉が渇いている。お姉さんはすぐに私の姿に気づいてくれ、笑顔で出迎えてくれた。

レジ兼キッチンのカウンターにあるメニューを見ていると、「タイ語のメニューしかなくて…飲みたいものを言ってくれたら作るから言ってくださいね」と言ってくれる優しさがとてもうれしく、心の中のモヤモヤしたものが晴れていくような気がする。

メニューにありそうなレモンソーダを注文。
「OK!どうぞ座って待ってて」テーブルや椅子のある方を目線で案内してくれる。

テーブルの数は6、7卓くらいだろうか。先客は1組。
カフェの建物は、屋根はあるけれど通りに面した2方向の壁がなく、オープンな造り。
外に近い席の方が気持ちよさそうだけれど、今日はいいお天気。昼下がりの陽射しはけっこう暑い。店の真ん中の、陽が入って来ない円卓に席を決める。
(実は、先客の1人が本を置いて場所取りしていたのを私が気づかずに座ってしまい、その人は大丈夫大丈夫と言って別の席へ移動してくれた)

ワット・プラプッタチャーイの参道入口にある、居心地の良いカフェ🪴

店内のテーブルや椅子はそれぞれデザインがバラバラで統一性がないが、それがなんだか落ち着く。木製で、使い込まれた感じだからかもしれない。
観葉植物も数多く置かれ、視界に溢れる緑が目に気持ちいい。
木と緑と、時折り吹き抜けていく風に心地よくなっていると、お姉さんがレモンソーダを持って来てくれた。

透明なプラスチックのカップに入ったソーダの炭酸が弾けているのが見える。ライムが浮かべられていて見るからに爽やか。
ひとくち飲むと、清涼感が全身を駈けていった。めちゃくちゃ美味しい🍋✨

清涼感が身体を駆け抜けていったレモンソーダ🍋

ソーダをすすりながら緑を眺め、あまりにもボーッとしている私をお姉さんは適度にほっといてくれる。(他にもお客さんが来ていたし)

あぁ、本当にホッとする。
今日一番、というか、もしかしたら今日初めてリラックスしたかも。

レモンソーダが美味しすぎてグビグビ飲んでしまう。もう少しここでゆっくりしていたいし、飲み終わるのももったいないし、後半はグビグビを我慢してなるべくチビチビとすする。

飲み終わったらバイクタクシーのおじさんに電話してサラブリー駅に行って…と、この後のことも考える。

サラブリー駅?
あれ?
サラブリー駅って言ったね、私。
サラブリー駅って言ったわ…

うわ、なんでサラブリー駅って言ったん?
滝じゃん!
これから行きたいの滝じゃん!
駅と滝反対方向じゃん…!

え、どうする?一回駅行く?
そっから滝行くの、またこっちの方に来ることになるんだし、意味なくない?
でも電話するって言っちゃったよね?
お姉さんが値段交渉までしてくれたのに…
行き先を滝に変更してもらう?
たぶん駅までよりだいぶ近い距離になっちゃうよね…

滝、やめる?
行くのやめて駅行って、ベトナムレストラン行って、アユタヤ行けばいいか?

…いや、滝行きたいよね?
お寺よりむしろ滝に行きたかったんじゃんね。
滝に行きたくて行き方調べたら、このお寺まではバスがありそうだからそれでお寺も行くことにしたのに、滝に行かないとかある?

うわぁー滝めちゃめちゃ行きたかったわ。
だって森の近くから引っ越してこの半年近く自然に触れてなくて、この滝をすごく楽しみにしていたのに。
心身ともに自然と水辺を求めているのに!

こんなに求めているわりには、間違えて「サラブリー駅に行きたい」って言っちゃってるけどね。

……ちょっとお姉さんに相談してみようか……
荷物を持って立ち上がった私を見て、椅子に座っていたお姉さんも立ち上がる。「タクシー電話する?」
え、もしかして電話してくれようとしてたりする?
優しい!優しいのに、値段交渉もしてくれたのに、ごめんなさい。
私行き先変えようとしてます…

言い間違えたことを説明すると話が長くなるので、予定を変えたい、できればここから滝に行きたい、とお姉さんに話してみる。

お姉さんは少なからず驚いて(そりゃそうだ)、「駅じゃなくて?さっきのドライバーに電話すれば140バーツで駅に行けますよ」
わかってるんですーほんと値段交渉もありがたかったし、駅に行くのがいいのかもしれないけど、
もしも、
できれば、
滝に、
行きたいんです。

「滝に、行きたいんですか?」考えこんでしまうお姉さん。

店の外に数歩出て行ってキョロキョロすると、「うーん、今いないな」と言いながら戻ってくる。
いないというのはどうやらタクシーやバイクタクシーのことで、お姉さんの視線の先は、お寺帰りのお客さん狙いのタクシーが待機する場所?お姉さんは説明しなかったけど、そんな気がした。
車をつかまえようとしてくれてるのかな。タクシーはGrabのアプリを使えばたぶん呼べるけど…でもお姉さんが何か考えてくれてるようだし、どうしようかなと思いながら

「歩いて行くのは難しいですかね…?」と聞いてみると、「ここから2kmありますよ」歩くのはちょっと現実的じゃないというような顔。
2kmなら歩けそうだけどなぁ、でも難色を示すということは道が悪いとか、単純に距離の問題ではないのかもしれない。

うーん、うーん、としきりに唸っているお姉さん。
私のうっかりと気まぐれと計画性のなさが、この人をこんなに困らせてしまっている…やっぱりもう駅に行くことにしようか…

レモンソーダ代を払っていなかったのでお会計をお願いすると、お姉さんはあぁそうか、という感じでレジの向こうへ行く。
お代をもらうことも忘れて、私が滝に行くにはどうしたらいいか考えてくれていたのだ。

お会計が済むと、「まぁそこに座って」と入口近くの椅子を勧めてくれて、また座らせてもらう。
お姉さんはお客さん対応か何かで私のもとを離れ、店の奥の方へと歩いて行った。

さぁどうしようかと悩む私のところへ、通りから犬がやって来る。
お寺の境内には何匹か犬がいたから、そのうちの1匹だろう。
犬を見ながら、やっぱり…と思い始める。お姉さんにもバイクタクシーのおじさんにも迷惑がかからないようにするには、駅に向かうのが一番いいんだ。
滝は…滝は…、滝は今ここで行かなきゃいけないわけじゃない。
日本にだって滝はあるんだ。わがまま言うのやめよう。
あきらめよう…
あきらめるぞ…
あきらめ…、たくないけど、あきらめ…😭

悩む私の横で一緒に悩んでくれてる(ようにも見える)🐕

「あのー…」
お姉さんの声が近くから聞こえる。すっかりしょぼくれていた私の背後に、いつの間にかまたお姉さんが来ていた。
よし、あきらめることを言うんだ!意を決して振り返ると…

(タイ旅行記⑦へつづく)

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