キラキラした『泥だらけのスニーカー』
幼稚園へと歩く道中、なんとなく母の服装が気になった。パーカーにジーパンにスニーカー。大きなリュックを背負って私の手をひく母は、テレビで見る綺麗なお姉さん達とは少し違う。なんとなく、キラキラしていないような…
でも、私が転ぶとすぐにパーカーのポケットに入っているハンカチで泥を落としてくれて、おなかが空いたと泣けばすぐにリュックからおやつとお茶が出てきて、猫を見つけて走り出す私を母はすぐに走って草藪の中まで追いかけてくれて、いつでもどこでも私を守ってくれて
母は私のスーパーヒーローだ。
小学校の授業参観で、真っ白なワンピースに黒いジャケットを羽織り耳元にパールのイヤリングをつけた母の姿を教室の後ろに見つけた時、私の心臓はドキドキした。
学校での私を見られているというドキドキとは違う。
ママがおしゃれしてる
ママがお姫様みたい
ママ、嬉しそう!
綺麗な装いに包まれた母自身の喜びが、私には堪らなくくすぐったくて、とても嬉しかった。
そういえば、昨夜の母は鼻歌を口ずさみながらグレーのハイヒールを丁寧に拭いていた。
毎日お姫様みたいにキラキラしたママでいたらいいのに!
そう伝えても、母は困ったような笑顔で私の頭を撫でるだけだった。
なぜだろう
キラキラなママのほうが幸せそうなのに
雨上がりの少し湿った砂場で大きな城を作る娘を見つめながら、母のあの笑顔を思い出す。
どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ。
せっせと城を築く娘の汗をパーカーのポケットに入っているハンカチで拭い、汚れた服の着替えを大きなリュックから出し、「黄色の電車が来た!」と突然走り出す娘のあとを泥だらけのスニーカーで追いかける私は、これまでのちっぽけで単調な人生を思うと結構キラキラしていると思うのだ。
守りたいものを守るためのファッション
今の私にフィットしたファッション
そして、娘を保育園に預けバタバタと出勤し会社の更衣室でヒールに履き替えパールのピアスをつける私も、やっぱりキラキラしていると思う。
仕事スイッチを入れるためのファッション
今の私にフィットしたファッション
若い頃の私は、子持ちの人達は嫌嫌ダサいファッションにしなくちゃいけないのだろうと思いこんでいた。
そんな可哀想な時期に突入する前に、独身の身軽なうちに思いっきり攻めたファッションを楽しんでおこうとまで思っていた。
でも、いざ娘を授かり
宝物のような日々を過ごし始めてみると
嫌嫌でも可哀想でもない
『今の私にフィットするファッション』がそこにあるだけなのだと気づいた。
スーパーヒーローになるファッション
お姫様になるファッション
[キラキラなママのほうが幸せそう]
ではなかった。
母は色々なキラキラと色々な幸せを持っていたのだ。
今まで私の選んだ服をおとなしく着せられていただけだった娘は、最近
「これ、イヤ!赤!」
「帽子、かぶる!」
と言い始めた。
娘の世界に、ファッションの花が咲き始めたようだ。
もう少ししたら一緒にファッションの話を楽しめるのかな
二人で雑誌を眺めたり、お買い物をしたり、服や小物をシェアしたりできるのかな
そのうちすぐに
もういつでも
揺れるピアスをつけて
白いスカートを履き
高いヒールを鳴らせるのに
あの日の泥だらけのスニーカーが
懐かしくて愛しくて
ひとりで涙を流してしまう
そんな瞬間が
来てしまうのかな
その日まで
あと少し
もう少しだけ
泥だらけのスニーカーを履いたママに
あなたのことを見守らせてね
あなたの好きなファッションが
あなたの心をキラキラさせてくれますように
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