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リチウムイオン電池工場で火災が発生した場合の発生ガス等、人体に与える影響について

様々な分野で利用されているリチウムイオン電池ですが、もしリチウムイオン電池の工場で火災が発生した時、人体に影響を及ぼす可能性があるガスや廃液、また高温下での化学反応についてまとめてみました。今回の情報を基に、工場運営や現場で製造に関わっている方々に、危険度を確認・評価や対策の参考にしてもらえれば幸いです。

リチウムイオン電池の工場で火災が発生した場合、製品の燃焼や発生ガス、工場廃液が人体に与える影響について、次のようにリストアップし、それぞれの危険度を評価してみましょう。
工場には、『有機材料』、『プラスチック』、『電解液』、『正極・負極』などが保管されています。
これらが火災による高熱と炎により様々な有害物質や液体が生成されてしまう可能性があります。

1.発生する可能性のある有害物質

1)一酸化炭素 (CO)

人体への影響の可能性がある素材:燃焼する有機材料、プラスチック、電解液など。
影響:短時間の暴露でも頭痛、めまい、吐き気、意識喪失、長時間暴露で死に至ることもあります。
危険度:高(一酸化炭素は無色無臭で検知が難しく、低濃度でも致命的な中毒を引き起こすため。)

2)二酸化炭素 (CO₂)

人体への影響の可能性がある素材:有機材料やプラスチックの完全燃焼。
影響:高濃度で窒息の危険、呼吸困難、意識喪失することが考えられます。
危険度:中(通常の換気で排出可能だが、密閉空間では危険です。)

3)フッ化水素 (HF)

人体への影響の可能性がある素材:リチウムイオン電池の電解液(特にフッ化物系の化合物を含むもの)。
影響:強酸性で呼吸困難、皮膚や目の深刻な損傷、長期間の暴露で骨への影響が考えられます。
危険度:高(低濃度でも人体に強い腐食性を持ち、迅速な対応が必要です。)

4)有機溶媒(エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど)

人体への影響の可能性がある素材:電解液の主要成分。
影響:吸入による中枢神経系の影響、皮膚や目への刺激が考えられます。
危険度:中(燃焼による有毒ガスの発生も懸念されます。)

5)リチウム酸化物 (Li₂O)

人体への影響の可能性がある素材:燃焼時にリチウムが酸化。
影響:吸入すると呼吸器への刺激、皮膚や目への刺激が考えられます。
危険度:低(主に粉塵としての影響でありますが、吸入しないよう注意が必要です。)

2.火災による廃液の化学反応とその影響

1)酸性液体(硫酸、リン酸)

人体への影響の可能性がある素材:工場で使用される化学薬品やバッテリー内部の電解液。
影響:皮膚や目への腐食性、吸入による呼吸困難、消化器系の損傷が考えられます。。
危険度:高(廃液が火災時に飛散することで直接接触の危険性が増加します。)

2)アルカリ性液体(NaOH、KOH)

人体への影響の可能性がある素材:一部の電解液や工場の洗浄剤。
影響:強い腐食性、皮膚や目の深刻な損傷が考えられます。。
危険度:高(酸性廃液と同様に、飛散した場合の危険性が高いです。)

3)有機化合物廃液(溶剤、洗浄液)

人体への影響の可能性がある素材:工場で使用される有機溶媒や洗浄液。
影響:吸入や接触による中毒性、火災による有毒ガスの発生が考えられます。。
危険度:中(揮発性の高い物質が多く、火災時に有毒ガスとして広がる危険性があります。)

3.総合評価と対応策

  • 高危険度の物質(CO、HF、酸性・アルカリ性廃液)は、迅速な避難と適切な防護装備(呼吸用保護具、防護服)の使用が必要です。

  • 中危険度の物質(二酸化炭素、有機溶媒)は、換気や消火活動の際の注意が必要です。

  • 低危険度の物質(リチウム酸化物)は、主に粉塵としての影響があるため、吸入を防ぐためのマスクが有効です。

火災時の初期対応として、以下の対策が重要です。

  • 迅速な避難:危険区域から速やかに避難し、指定された避難場所へ移動。(停電の恐れもあるので、予めの避難通路の確保や訓練が必要です。)

  • 換気の確保:有毒ガスの拡散を防ぐため、可能な限り換気を行う。
    (自動排煙窓や停電時のバッテリーで稼働する自動換気ファンなどの設置と定期的な動作確認が必要です。)

  • 防護装備の着用:消防隊や対応スタッフは適切な防護装備を着用して対応する。

  • 専門機関への通報:有毒ガスや化学物質の影響が懸念される場合、専門機関(消防署、化学物質対応部隊)に速やかに通報する。



リチウムイオン電池に用いられている主な素材や材料をリストアップして、それぞれの素材について、火災発生時にそれらが燃焼することによって発生する有害物質や、消化剤との化学反応が懸念されるシーンをできる限り詳しく纏めて、従業員への教育や避難訓練を実施することが大事です。

5.主な素材と燃焼時に発生する有害物質

リチウムイオン電池に用いられている主な素材や材料について、それぞれの素材が燃焼する際に発生する有害物質、および消火剤との化学反応について詳しく説明します。

1)リチウム金属またはリチウム合金

  • 有害物質:リチウム酸化物 (Li₂O)、リチウムハイドロキシド (LiOH)

  • 懸念される化学反応

    • 消火剤との反応:水やCO₂と反応して爆発的に水素ガス (H₂) を生成する可能性があります。

    • :Li + H₂O → LiOH + H₂↑
      (『↑』はH₂が気体として放出されることを意味します。)

2)カソード材料(正極)

  • リチウムコバルト酸化物 (LiCoO₂)

    • 有害物質:コバルト酸化物 (Co₃O₄)、酸化リチウム (Li₂O)

    • 懸念される化学反応:水と反応してリチウムハイドロキシド (LiOH) を生成し、これには腐食性があります。

  • リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物 (NMC)

    • 有害物質:ニッケル酸化物 (NiO)、コバルト酸化物 (Co₃O₄)、マンガン酸化物 (MnO)

    • 懸念される化学反応:酸化ニッケルや酸化コバルトは強い酸化剤であり、他の物質と反応しやすいです。

3)アノード材料(負極)

  • グラファイト(炭素)

    • 有害物質:一酸化炭素 (CO)、二酸化炭素 (CO₂)

    • 懸念される化学反応:高温で酸素と反応し、一酸化炭素や二酸化炭素を生成します。

    • :C + O₂ → CO₂、2C + O₂ → 2CO

4)電解液

  • 炭酸エチレン (EC)、炭酸ジメチル (DMC)、炭酸エチルメチル (EMC)

    • 有害物質:一酸化炭素 (CO)、二酸化炭素 (CO₂)、ホルムアルデヒド (HCHO)

    • 懸念される化学反応:電解液の燃焼によって有毒ガスが発生しやすいです。

    • :C₃H₄O₃ → CO + CO₂ + HCHO

5)セパレーター

  • ポリエチレン (PE)、ポリプロピレン (PP)

    • 有害物質:一酸化炭素 (CO)、二酸化炭素 (CO₂)、水素シアン (HCN)

    • 懸念される化学反応:プラスチック素材の燃焼により有毒ガスが発生します。

    • :(C₂H₄)n → CO + CO₂ + HCN

6)消火剤との化学反応

  1. 水 (H₂O)

    • リチウム金属と反応:爆発的な反応を引き起こし、水素ガス (H₂) を生成します。

    • 高温金属酸化物と反応:水蒸気と酸化物が化学反応を起こし、腐食性を持つ水酸化物を生成する可能性があります。

    • :2Li + 2H₂O → 2LiOH + H₂↑

  2. 二酸化炭素 (CO₂)

    • リチウム金属と反応:高温下でリチウムカーボネート (Li₂CO₃) と一酸化炭素 (CO) を生成します。

    • :2Li + CO₂ → Li₂CO₃ + CO

  3. 粉末消火剤(乾燥化学粉末)

    • 化学反応:一部の粉末消火剤(例えばリン酸アンモニウムベース)は、高温で分解し、腐食性ガスを発生させる可能性があります。

    • :(NH₄)₂HPO₄ → NH₃ + H₃PO₄

6.総合的な懸念

  • 有毒ガスの発生:上記の素材が燃焼すると、一酸化炭素 (CO)、フッ化水素 (HF)、ホルムアルデヒド (HCHO) などの有毒ガスが発生します。

  • 爆発の危険性:リチウム金属や合金は水や二酸化炭素と反応して爆発を引き起こす可能性があります。

  • 腐食性物質の生成:燃焼や消火活動中に腐食性の強い水酸化物や酸が生成されることがあります。

これらの情報を基に、リチウムイオン電池の火災時には適切な防護具の着用や換気の確保、適切な消火剤の選定が非常に重要です。また、専門機関への迅速な連絡も必須です。

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