BIM-FM奮闘記

※こちらは秘密結社xRArchiのAdvent Calendar 2019/12/23投稿分です。


閲覧ありがとうございます!伊勢フィーンド(@icefiend)と申します。寝ても覚めても建築学生です。余暇は旅行とかゲームとか色々してますが、今年はこっそりVRAA01に投稿してました。供養画像です↓

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xRArchiとの出会いは第0回VR建築コンテストで、そこからVRさざえ堂の縁などから加入させていただいております。

今年はFM(Facility Management: 施設マネジメント)の研究をしました。とは言っても経営の話はサッパリで、専ら建築に関わることだけやってました。そんなわけで今回はBIM-FM奮闘記と題して、私がやったことや調べたことをお話しできたらいいなと思います。しばしお付き合いください。

BIM-FM奮闘記1: なぜ私が興味を持ったのか

まずは私の話です。

元々やや心配性気味で、建築学科を選んだのも理系かつちょっとだけ絵が描けるのと「人口減で公共施設の維持がヤバいのでは?建物の強靭化・長寿命化で人命と財産を守らなきゃいけないのでは?」みたいな、いわば後ろ向きの理由でした。過去を見れば中三の時に3.11が来て学校に取り残された親友(今はVRCで女の子になってる)がいたとか、調べ学習で役所に行った時老朽化具合がずっと気になったとか、そういう所ばかり記憶に残ってしまってたんですね。

そんな人間なので大学ではやや浮きました。意匠設計の授業を楽しめなかったのは今でも心残りですが、環境・構造・都市計画の授業はかなり真剣に受けてました。言ってしまえば負ける建築学生、という感じです。研究室決めの時期になって構造系を志望しようかなと思っていたらFMの研究をしている所があったのでそこに決めた、というわけです。

誰もやりたがらないが、誰かがやらなくてはいけない。そういう意識で何かの分野に飛び込もうとずっと思っていました。自分でも他人でもなく巨視的な論理に依拠して行動していたせいか、ちょっとぐらい苦労してもへこたれずに済みました。少し変わった自分の在り方を、今後も守っていきたいです。


BIM-FM奮闘記2: なぜBIM-FMが必要なのか

いまの日本では、新築需要より既にある建築が増加し続けています。こいつら建築ストックの維持管理は急務です。老朽化したビルの中の労働者たちは突然おかしくなる老朽設備にうんざりしており、夏場に空調設備工事なんてやったらブーイングが来ます(こういう後手に回る保全形式を事後保全と言います)。本当は壊れる前に更新ができればいいんですが、適切な周期を正確につかめないのが現状です(先手をとる保全形式は予防保全と言います)。

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(深夜の保全業務の想像図)

しかし紋切り型に更新間隔を設定すると、実際の故障タイミングに前後した的外れの保全となってしまいます。機器の種類や設置環境条件の反映された周期を分析したくとも、設備の点検記録が紙媒体だったり、人の手ではとても処理しきれない膨大な記録が累積していってたら、分析用のデータを整備するのも一苦労です。法律で必ず点検記録をつけるように決められてるのは救いですが。

じゃあどうすればいいのか?という時に注目されたのが、BIMやインターネットのような情報技術なわけです。従来手法において限定的だったFMシステムの電子化が実現され、人的・時間的コストが減少していけば、FMer(施設管理者)はエネルギー効率や建物事後性能評価などの分析コストを軽減でき、単に労働環境の安定的保守だけでなく建物の価値向上などにも実効性のある戦略を実現させられる・・・という触れ込みで研究をやっております。


BIM-FM奮闘記3: 何が壁なのか

さて、前章ではBIM-FMの連携の必要性を示してきました。が、FM業務に設計施工BIMモデルを転用するというのは一筋縄ではいかないんです。原因の一つは、業種によって要求されるLOD(Level of Detail: 情報詳細度)がバラバラなことにあります。設計→施工の段階ではLODは増加するだけですが、施工→FMの段階ではLODは大幅に減少してしまうんです。

これの何がまずいかって、BIMの操作方法どころか建築系の授業すら受けていない場合もあるFMerがBIMモデルへFM向けの属性情報を追加しなきゃいけないんですね。極端な例ですが、FMerのBIMモデルに対するLOD要求は最低限の形状と備品の位置程度で十分なのに、備品の細かいパーツだのケーブル挿入位置だのといった施工向けの細かい不必要情報が残ってしまう場合を考えてみましょう。大まかに捉えたいパーツが細分化され過ぎていると、データ構造的にもBIMモデルの容量的にも、FM向けの属性情報を正しく付与できない可能性があります。これではスムーズな電子化業務達成に支障が出てしまいます。(この辺りはArchiFuture 2018の資料を参考に書いています) 

お金の話にはなるんですが、建築物のライフサイクルコストにおいて、設計施工コストより竣工後コストの方が5倍近くかかります。軽視することはできません。

というわけで、FMまで含めたBIMのワンモデル化は難しそうだぞ、ということを説明してきました。が、BIM-FMの連携による点検業務電子化の実現という目標は不変です。私(と研究室)なりのアプローチをしている最中なので、中身はこの辺でご容赦ください。対外的な発表は何年後になるやら。

実測も行いましたが、場所は海外でした。なぜわざわざ海外でやったのかって?悪い方向へのご想像が正解に近いと思います。実測の感想ですが、やっぱりBIMモデルが有ると色々楽だな、という所につきます。あと海外では食べ物に気を付けましょう(1敗)

BIM-FM奮闘記4: 展望

現状では難しい壁もありますが、維持管理需要の流れは来ていると信じています。いつか点検業務の電子化が達成されて、点検記録の蓄積が当たり前になれば、法定点検記録の提出手続がPC上で完結したり、施設の劣化予測が積極的に行われるようになったりする・・・かもしれないですね・・・。



そんなわけで劣化予測に挑戦しました。Pythonで。

番外編: Pythonで劣化予測したい

8月頭ごろ、土木系論文の中から面白いものを見つけました。論文で使われた具体的な手法を一文でまとめると、”ベイズ統計学の理論を用いて構造物の点検記録と交通量などの劣化を引き起こす要因の記録の関連性を調べる”というものです。

当初1ミリも理解できませんでしたが分析手法に興味を惹かれ、確率統計とPythonをゼロから勉強し始めたわけです。分からないことが雪だるま式に増えていった時期は中々しんどかった、うん。まず統計学における表記法を知らないので参考書すら読めないし、高校ではベイズどころか確率統計すら必修じゃなかったので勉強してこなかったし、確率密度関数?確率分布?尤度?マルコフ連鎖?てな感じで知らない概念のオンパレードでした。さっっっぱりわからん。

でも思ったんです。「ベイズ統計も単語は超有名じゃないか」「しょせん誰かの手で既に確立された手法で、土木分野や生化分野では常識レベルの扱いになっていてもおかしくない」と。一度こう思ったら馬鹿にされたような気がして急にムカついてきまして、絶対修得してやると意気軒昂して8月-10月の間大学で過ごす時間をほぼ全て確率統計とPythonにつぎ込んでしまいました。今思えば大博打でしたが、結果的には11月中旬頃にプログラム実装までの理解度へ到達することができました。

もっと効率的に学べた気もするんですが(結果を急ぐあまりアウトプットに固執した時期は盛大に時間を浪費しました・・・この世界、意味を理解できていないと何もできません)、おそらく未だかつてここまで本気になって何かを勉強したことは無かった気がします(大学受験はどうした)。いい経験でした。

まだまだ学ばなきゃいけないことが多い統計イチネンセイですが頑張ります。

おわりに

前半のBIM-FM奮闘記では、FM業務にBIMを用いる手法を考えた際の障壁を少し紹介しました。障壁を知り解決策を考えることで目標に近づいていく感じは面白かったです。来年以降も奮闘し続けます。

で、分析の話。確率統計とPythonの勉強は並行してやってよかったなと思います。ライブラリという悪魔の力に気づけた後は、統計の参考書や某校数学の美しい物語、そして"バーチャルデータサイエンティスト"アイシア=ソリッドさんの動画などで解説された基本概念をすぐプログラムに落とし込んで勉強できたのでかなり楽でした。論文目的となるとライブラリ扱うだけじゃなく数学的な意味が分かってないといけなくなるんですけどね・・・。

(この動画シリーズを見ておけば勝ちみたいな所あります)

(参考書は豊田秀樹著「基礎からのベイズ統計学」が生きて腸に届きます)

(あとjupyter notebookとjuliaはいずれガンに効くようになります)


秘密結社xRArchiの中でも全然xRしていないしArchiすら遠ざかりかけている私ですが、このような意見公開の場を用意してくださったxRArchiの皆様にはこの場を借りて厚く御礼を申し上げます(バリカタ謝辞)。xRArchiにいなかったらBIM Brastoで広工大の杉田先生とお話ししたりArchiFuture 2019に参加したりしなかったと思うので、間違いなく私の人生を変えてます。ありがたい。

来年はとりあえず都内のバスクチーズケーキを制覇したいです。白金高輪の某店が現状ベストです(広告じゃないよ!)。更なる実測とか更なる分析手法開発とかLCC算定とか、そういうのはまた別の話としましょう。

読んでいただきありがとうございました! (゜∀゜)ノシ

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