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ー安楽死を宣告された猫との35日間ー  最終日

BAKENEKO DIARY /DAY 35. 全快⁉のお墨付き

 朝起きて、Z動物病院に行く準備をはじめる。お正月をはさんだので、約10日ぶりの診察だ。

娘のSとミータと一緒に病院に着くと、コロナウイルス流行の再拡大で、年末とは待合室の様子少しが変わっていた。お知らせの紙があちこちに貼られている。

「待合室では最小限の人数でお待ちください。診察室に入るのはお一人でお願いします。」

Sも久しぶりに同行したが、車で待たせるべきだろうか。しかし待合室には他に一組しかおらず、すぐに順番が回ってきそう。どうする?と相談しているうちに「ミータちゃん~」と名前を呼ばれた。

とりあえずSに待合室で待つように言って、診察室に入る。ミータは前回までの診察時とは違い、看護師さんに触られることにおびえ、手足を縮こませている。この10日間の間で病院の記憶が薄れたのか、それとも元気になって場所に対する意識も戻ってきたのか。看護師さんに、よく食べるようになったこと、運動機能も飛躍的に改善したことを報告した。

「よくがんばりましたね。」
看護師さんが言ってくれた。
「はい。正直、もうダメかと思いました。」
そこにA先生が入ってきて、ミータの様子を観察し、チューブをはずした後の傷のチェックをする。脚や手の動きも確認しながらうなずいておられる。

「そうですね。かなり、よくなりましたね。チューブの傷は完全に毛が生えるまで注意してください。それでは…」
「先生! ちょっと待ってください。娘も状態を聞きたがって一緒に来ているので、呼んでもいいですか。」
「ああ、はい、いいですよ。」

クールなA 先生の表情が、ほんの少し緩む。診察室のドアを開けて、待合室のSを呼んだ。

「S、先生からお話があるから。来て。」
Sが来ると、A 先生は話しはじめた。

「これからは、おうちで様子を見てください。どこまで元に戻るかは、この猫ちゃん次第。猫にしかわかりません。ただ、外に出すとね、また何が起こるかわかりませんから、注意して。何か変わったことが起きなければ、もう通院は必要ないです。これで今回の事故の怪我の治療は終わりにしましょう。」

軽く胸が詰まる。

「先生、本当に、本当にありがとうございました。お世話になりました。」

Sとふたり、心からお礼を言う。特別な言葉は出てこないが、それがこの瞬間の本心だ。「生きている」ことの深さとかけがえのなさを実感した35日間。大切な、必要な時間だった。

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