ボイスドラマ視聴紀行 #31
今回ご紹介するのは、れいくさんが企画されたボイスドラマ『ヴィラン・プラス(全編)』です。
ご紹介に先立ちまして、本編は「声劇として収録し、公開されている作品であること」をお伝えしておきます。
声優陣が個別で収録したセリフをファイルで受け取り、それを編集するボイスドラマではなく、演技部分は声優陣が集まって読み合わせた際に収録した内容をベースにして作品の制作をされています。
再編集をされたと伺ってはいますが、そうした収録の都合上、どうしても整音の困難な箇所が稀に存在します。その点はあらかじめご了承の上、声劇のリアル感を楽しむ形でのご視聴をよろしくお願いします。
こちらの作品は「全5作品(1,2,3c,3e,4)」で構成されていますが、今回は「ヴィラン・プラス(全編)」をフルサイズで視聴した感想を書きます。
なお、私が視聴したのは「本編部分のみ」です。演技後のトークなどは未視聴ですので、あらかじめご了承ください。
再生リストは以下にリンクをご用意しますが、こちらは本編(全5作品)に加えて、CMを加えた全7本の構成となっています。各話はしっかりと分かれていますので、各1話ずつ聞き進めるスタイルでも存分に楽しめると思います。
本編はトータルで約157分、各話が約25~44分となります。少しずつ分割で楽しみたい方は、各話のリンクからご聴取いただけると幸いです。
ヴィラン・プラス(各話個別リンク)
全作品を聞いた直後の率直な感想
本作は、YouTubeで閲覧する場合は「視聴する方が聞きやすいかなー」と思いました。
ただ、コンセプトが声劇なので、聴取でもまったく問題はありません。私はほぼ聴取でしたし、画面を見たのは「ある要素を確認する時だけ」だったので、お好きな方法でお楽しみいただけると思います。
実は「市川智彦のボイスドラマ視聴紀行」で声劇ベースの作品を取り上げるのは、実はこれが初めてです。私もこういった形式で演技の臨場感を楽しむ方が一定数いらっしゃるのは、紹介記事を書き始めた早い段階で存じていました。
そういう意味では、そういった作品のご推薦を受けるのは遅いくらいなのですが、なぜか今まで存在しなかったというのが実情です。タイトルに「ボイスドラマ」と冠しているからか、今の今までご縁がなかったというのは個人的には驚きです。
ただ、その理由は至極簡単です。
単純に「ボイスドラマと声劇の母数の差が大きい」のでしょう。
無編集に近い形でお届けする声劇、編集ありきでお届けするボイスドラマを比較した時、やはり声劇の難易度はとても高く感じます。演者さんのプレッシャーも半端ではありませんし、収録や配信に携わる方も同様です。
どんなジャンルであっても「編集する」という行為は、視聴者や聴取者の皆さんに安定した作品を供給するために必須の作業です。それをあえてせずに「リアル感」を追求して声劇として公開するというのは、相当の覚悟がなければできないと思います。
本作は「声劇」というジャンルを加味しても、素直に「皆さんにご紹介したいと思えた」ので、紹介文を書いています。
なお、第3話が2種類(c,e)存在しますが、順番としては「3c→3e」でお聞きください。個人的に超オススメなのは「第3話」なので、ここまではたどり着いてほしいというのが本音です。
アメリカンジョークと善悪の境目で
本作は脚本家さんが「ヴィラン(悪役)を主軸にしたヒーローなどとの対比」を描いているため、タイトルを「ヴィラン・プラス」にしたのかなと推察しました。
舞台は「現代のアメリカ」で、独特の世界観で構築されています。
これを先に明言したのは、作中での明確な描写がやや後になるためです。
また、この部分をハッキリさせたのにも理由があります。それは「作中で、かなりアメリカンジョークが多用されるため」です。
そのため、先に「舞台設定がアメリカである」と明示しておかないと、視聴者や聴取者の皆さんが本作に触れた際の印象がブレてしまう可能性があると感じたので、この段階で明言させていただきました。
メインキャストはW主演のような形を取っており、どっちもヴィラン側の人物です。どっちも男性ではありますが、性格も能力もまるで真逆。声劇を意識したのか、単純明快なキャラ付けなのはとても親切だと感じました。
そんな彼らに関わる人々は立場こそ違えども、うまく世界観に溶け込んでいるあたりが秀逸です。ただ、癖の強い人が多いので、その点はご用心。
物語のベースとして「男が考える、男のバカ」がうまく描写されていると思います。ただ、作風はギャグというか、コメディーというか……どっちかというと「コントに近いノリ」なので、そこまで構えず気軽に聞くスタイルが適当だと感じました。
強いて言うなら、私が激推しの「第3話」は、かなりシリアスが混じってきます。私は「本作の魅せ場は、間違いなく第3話」と思っているので、第1~2話で世界観に慣れた後で、第3話(2部構成)を存分に楽しんでもらえると嬉しいです。
ヒーロー作品のようで、そうでもない不思議な作品。
街や人々を守るヒーローに対峙するヴィランが主軸に話が進むと書きましたが、とめどなく溢れ出るアメリカンジョークのせいか、明確なテーマ性を持たせずに曖昧に表現することで、不思議な魅力を持った脚本に仕上がっています。
最序盤から「マナー」という言葉が用いられますが、この定義が現代社会における一般常識では「それって、ルールなんじゃない?」と思わせる意味合いで頻出します。
これは徹底して「マナー」という表現で一貫されているので、意図的に誤用して違和感を持たせることで、聴取者を聞きに徹してもらっているのだと思います。声劇はリアルタイムで芝居を聞かせる意図があるので、明確なメリハリが必要なのでしょう。そのためのエッセンスとして機能させていると思います。
逆を言うなら「声劇として聞かせるべき点を明確にしておかないと、聴取者が聞きどころを見失うどころか、演者まで演技の方向性に迷ってしまう」ので、しっかりとしたト書きを入れたか、物語の展開内でメリハリをつけたか……
どちらにせよ、私は全てのエピソードがスッと頭に入ってきたので、聞かせどころの要所を抑えていたのだと思います。
本作で描かれるヴィランとヒーローの関係性は、スーパー戦隊などで描かれるような単純な二極構造ではなく、どちらかといえば「プロレスにおけるベビー(善役)とヒール(悪役)の関係性」に思えました。
それを強く意識したのが、第2話における一連のやり取りです。あれを「勧善懲悪のヒーロー作品」では語れません。なので、私は「一定のストーリーラインが存在するプロレスのブックに近い」と強く感じました。また、ヴィランとヒーローがガチでやり合ってるという世界観も「ブックなしで進行するプロレスのタイトルマッチ」のような印象を受けました。
ただ、第4話だけは完全に違う方向に行っちゃったので、そこは気軽に聞いていただければなーとは思いました。
声劇に挑む実力派の声優陣
破壊と力を求める野心的ヴィランであり、ランキング上位常連の戦闘狂であるグラスハンマー(CV:でぇちゃん)は、闇の力を用いた特殊な医療術を用いて仲間を救う医者のヴィランのナイトメディカ(CV:レイク)の診療所で入院する日々を過ごしています。
物語はこの2人を中心に回っていきますが、そこに割って入るのが新参者のヒーローであるサンバースト(CV:璃月なお)であったり、彼女の所属するタレント事務所「アーク」の社長にして自身もヒーローであるオニオン(CV:だね)であったりします。
この2人もなかなかに癖の強いヒーローですので、きっと皆さんを楽しませてくれると思いますよ!
その後はやけに訛りの強いヴィランのクラウン(CV:にっし~☆)が登場したかと思えば、今度はグラスハンマーとライバル関係にあった女性ヒーローのエコーブレイド(CV:Toto)がやってくるなど、物語の展開はめまぐるしく変わります。
第4話は凶悪なヴィランとして名を馳せるネプトゥーン(CV:タープ)が、ヴィランだらけのストーリーを引っ掻き回していきます。
いずれ劣らぬ個性派キャラですが、声優陣が魅力的に演じているのでとても聞きやすく、それでいてワクワクできます。声劇の臨場感や緊張感も楽しめますので、実力派の声優陣の競演はお聞き逃しのないように!
総評「ヴィランもヒーローもまた、ひとりの人間」
作中でのキャラの立ち位置が明確であるが故に、逆に「人間味に溢れたストーリーが際立つ」のが、本作の大きな特徴だと感じました。
いろんなヒーローとのやり取り、個性の強いヴィランの接触……手を変え品を変え、様々な見せ方が出てきますが、魅せ方の要所は抑えているので、とても気楽に聞くことができます。
個人的には「マジで聞き流すくらい、お気楽に聞いてほしい」と思うレベルです。今までの紹介記事の中で、実際にここまでの緩さを皆さんに要求することは本当に珍しいです。
あえて構えて聞いてほしいのは「第3話」ですが、それも「3e」だけかなぁーと思ってます。ここはいろいろな兼ね合いで聞きどころです。この物語をトータルで楽しむには、絶対に「3eにたどり着いてほしい!」と強く感じていますので、ぜひ最後までお聞き逃しなく!
なお、1本の視聴にかかる時間を正確に表記していますが、実は本編はそれよりも尺が短いです。
残った尺については、キャストトークなりNG集になっていますので、そちらでもお楽しみいただけると思います!
クレジット(敬称略・順不同)
▢キャスト
グラスハンマー:でぇちゃん
ナイトメディカ:レイク
サンバースト:璃月なお
オニオン:だね
クラウン:にっし~☆
エコーブレイド:Toto
ネプトゥーン:タープ
▢スタッフ
脚本:フミクラ (黄色の台本棚)
制作:レイク