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宮永愛子 - 僕の好きな藝術家たち vol.9

好きな藝術家について書きたいように書いてみるシリーズ。その藝術家についてのバイオグラフィとか美術史的意義とか作品一覧とかはインターネットで他のページを参照してください。


宮永愛子の作品には、流れ去るはずの時間を閉じ込めるという逆説で、時間というものの相貌を捉えようとする試みがある。

もちろん、絵画であれ彫刻であれ、静的な形質の作品はどれも、スタティックであるがゆえに時間性を剥ぎ落としたものとして、昨日も今日も明日も変わらないものとして眼前にある。長い目で見れば崩れ行くとしてもそれは経年劣化とでも言うべき事態であって、作者の意図とは無関係なはず。

宮永愛子の作品はしかし、単なる経年劣化ではなく、意図的に崩れ行くものとして構想され、昇華性の高いナフタレンという素材を選び取って、一見スタティックでありながら、絶えず少しずつ消え去っていくものとして存在する。

流れ行く時間を固定したかのように思わせて、その認識を裏切っている。その企みに満ちた構想力と、形になった作品のリリカルな美しさが、とても愛おしい。

ナフタレンのボストンバッグの中に鍵が閉じ込められているこの作品も、一見、閉じ込められた鍵はこのバッグを開けられないという逆説と思えるのだけれど、その実、いつかナフタレンの気化が進めば、この鍵は取り出すことができる。

しかしその時、この鍵で開けられるべきバッグはもう存在していないのだ。

何と言う矛盾、逆説。

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