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【鉄面皮日記】22/06/11. So What?

出稼ぎを始めそろり一ヶ月に迫ろうとしてる。

煙草をおしつける竜二

「アンタ、なかなかのワルやってたんだって?
 オレもね、むかし名古屋でうるさかったんだよ。18の時に少年院入って暗〜い人生よ。
 名古屋のクラタ組って知ってる? 
 そこの若頭でオサムさんってのがいるんだけど、そのオサムさんに可愛がられてよ・・・」
「どうしたんだよ、それが」と、
くわえていた煙草を相手の拳に、じゅっと押し付け言い放つ。

田舎の町はとても狭い。
この町の人口も3万人とちょっとで、言えば誰もが顔見知りというような感じである。
外に出なければまるで関係のないコトなのだが、外回りをするとどうしても同じような顔に出くわす。
一緒にクルマに同乗してる3つくらい年上のオジさん(オレもたいして違いはないジジィなんだけど)が、
対向車や歩行者を見かけては素っ頓狂な声を張り上げて、
「あ、アレはどこどこの会社の社長だ」だの、
「どこどこの銀行の頭取だ」だの、「娘の学校の先生だ」だの、煩くて持て余して困る。
オマエは、ウォッチメンか!
そりゃあ狭い町中、過疎の町、誰かしらに出くわすコト必至だろうよ。
最初は調子を合わせ相槌を打っていたが、だんだん腹が立ってきた。
So What? なのだ。
いったい何を期待してるのだろうか? 
自慢なのか、見栄を切っているのか、口癖か?
だけれどもそれも仕事の一環というコトとして遣り過ごすコトにした。
彼はそういった情報が有益だと思い込んでいるのだし、もしかしたら大切な交歓のひとつなのかも知れないし、そうやって互いに見張り合うのが村社会なのであろう。
誰々がそこに居たという情報が伝達して噂が立ち、火のないところにも煙が立っていく。
こりゃあ迂闊に立ち小便もできないなぁ〜と一人ごつ。
そんな些細な出来事が、労働にはついて回るものなのだ。

救出されたユッカ

観葉植物のリースは、まるで売春の斡旋に近いような気がしている。
植物も生きているので、結果同じようなものである。
一ヶ月間貸し出し、入れ替え戻ってくる植物の状態も様々だ。
貸し出し先の状況によっては、見るも無惨に枯れてしまっていたり虫が喰っていたり、光量不足だったり水やりがうまくいっていなかったり原因も色々だ。
行く先々で凌辱され帰ってきて安堵したのも束の間、直ぐに稼ぎに出なければならない場合もある。
ハウスで休息できる者はいいが、あまりにも酷使され醜くなってしまった者は廃棄の憂いに晒される。
ハウス脇には、廃棄され打ち捨てられた植物たちの残骸が山となっていた。
売春婦であり、セクサロイドであり、人間に奉仕し飽きられ捨てられたロボットの様でもある。
要は仕入れ率を消化し回転して稼ぎを弾き出せばもう用無しというワケで、レンタル業務の常であった。
そこに愛はなく、あるのは金という資本主義的見地なり。
僕が来たからにはそうはさせない、と廃棄される植物を救出するワケであるが、そこにも限界はある。
リサイクル屋さんをやった時も最初はそんな気概に溢れていたが、直ぐに頓挫した。
あまりにもスピードが速く、やってくる仕事量が多く、とても追いついていかないのだ。
それはまるでこの文明社会の縮図であり、エコロジーや自然環境と息巻いても空論に終わってしまうコトにも似ている。
変えなければならないのはシステムや制度であって、根本から立て直さなければ付け焼き刃で終わるんだ。
というようにグルグル旋回しながら、とりあえず目先のコトをやっつけるしかない。
僕の家は、使い捨てられたモノの慰安場所となりつつあった。

月末締め10日払い、昨日が初人給だった。
半月分なのでたいした額ではないが、家人への借材が少し減った。
今はただ囚人の如く、忍従の日々である。