サービスデザインでアンケート回収率100%を目指す。僧侶手配サービス「お坊さん便」の事業成長貢献の裏
「アンケート回収率を、ご利用者様とお坊さんのUXを踏まえたフローに整えることで5倍にできたんです。」
そう語るのは、葬祭分野におけるサービスを数々提供するスタートアップ、株式会社よりそう、お坊さん手配事業部部長の小野さん。ライフエンディングのITベンチャーよりそうが運営する「お坊さん便」は、お葬式や法事の際にお経をあげてくれるお坊さんを手配する僧侶手配サービスです。葬祭業界の中でもお坊さん手配のサービスを、いち早く提供してきました。
今回rootは、この「お坊さん便」のUX改善に取り組みました。UX改善は主に2つの狙いがありました。1つ目は「お坊さん便」の品質を損なわずにサービスをよりスケールさせられる手配の仕組みを構築すること、2つ目は顧客からの評価を回収する方法を改善することです。本座談会では、よりそうの小野敬明さん、rootの古里凌哉、古里祐哉で集まり、後者の評価回収の改善プロジェクトの振り返りを行いました。その後、よりそうの黒部侑希さん、瀬戸萌美さんも交えて、rootとプロジェクト行なったことで社内にどんな変化があったのかを伺いました。
決め手は事業内容への深い理解と積極的な提案
小野敬明さん(以下、小野さん):お坊さん便は、お寺とお付き合いがない方が、お坊さんを安心して呼ぶことが出来る僧侶手配サービスです。葬儀や法要、戒名の授与などの際に、依頼者(ユーザー)からお坊さん手配の依頼を受け、よりそうがお坊さんを手配します。お坊さんは依頼の当日に依頼者(ユーザー)の指定した場所へ向かい依頼内容(葬儀・法要等)を実施します。全国1,300名を超えるお坊さんと提携しており、24時間いつでも予約が可能です。
(よりそうの提供する「お坊さん便」ウェブサイト)
小野さん:お坊さん便を運用する中で、今後さらに良いサービスを提供する上で、複雑かつコストがかかっているオペレーションの改善が必須でした。しかし、他社を参考にしようにも、葬祭分野のスタートアップは少なく、適した事例が見つからない。そこで、共にゼロからサービス改善を担ってくださるパートナーを探すことにしました。相談できる会社を調べている中でrootさんを見つけました。
(株式会社よりそう お坊さん手配事業部 部長 兼 広報・PRグループ マネージャー 小野敬明さん)
古里(祐):とてもワクワクする内容でしたね。「アプリを作る」や「サービスを作る」など、やるべきことが決まっている依頼ではなく、解決策が見えていない課題に関する相談でした。事業を成長させる上での抽象的な課題を分解、整理し、企画の提案から具体的なアウトプットまでを一気通貫で担うのは、rootの得意領域です。すぐに提案書を作成しました。
古里(凌):基本的に、rootが一番お力になれそうと思った案件については、ご相談の段階で提案書を作成しています。今回であれば、ご相談をいただいたタイミングで、葬儀や法事などに関するインプットにとりかかりました。提案書には、与件整理、仮にプロジェクトが進行した場合のスケジュール、具体的に取り組むタスクなどを盛り込ませていただきました。
小野さん:実は、rootさん以外の他社さんにも、同様の内容でご相談していたんです。ただ、rootさん以上に僕らの事業領域を理解、共感し、相談の段階で仮の提案まで考えてくださる方々はいませんでした。提案内容も、私たちが抱えていた業務プロセスのUXに関する課題を解決するものでした。rootさんとなら、二人三脚で良いプロジェクトを作れると強く感じ、正式にご依頼させていただきました。
古里(祐):最初にご相談いただいた課題は、よりそうさんがお坊さんを依頼主に手配するフローの自動化でした。
小野さん:ご支援のおかげで、この課題に関しては解決の目処がついたのですが、その過程で、依頼主により良い仏事を提供するため、お坊さんの施行内容のフィードバックを集めることが必要だと気づきました。そのために、ユーザーからお坊さんへの評価のフィードバックを改善し、アンケートの回収率を100パーセントにする、と目標を設定し、ゼロからやり方を考えることにしました。一つ目の課題には期待したアウトプットを出していただいていたため、そのままrootさんに引き続き、二つ目の課題についてもご依頼させていただきました。
まだ「無い」ソリューションを生み出すために、多方面から情報整理を行なった
古里(凌):回収率を100%に近づけるために、まずステークホルダーの洗い出しと各ステークホルダーが持つ情報の整理から行いました。依頼主と喪主とが同じか否か、異なる場合は物理的距離と血縁的距離からさらに細かいパターン分けを進めました。どんなパターンのユーザーでもアンケートを回収できるフローを構築する目的で行いました。
(株式会社root UXデザイナー 古里凌哉)
古里(祐):調査を踏まえ、依頼主と喪主が分かれている場合は依頼主にアンケートをもらうことを前提として、ソリューションを考えました。回収率を100パーセントに近づけるために、「ユーザーが主体的にアンケートに答えたくなる動機づけ」と「お坊さんが確実にアンケートを回収する仕組み化」のふたつを考える必要がありました。ルールや規則などで縛るような仕組みだけを整えても、お坊さんとユーザーが主体的にアンケートを提出・回収する動機がなければ、両者にとって良いユーザー体験にならず、流出の要因となる可能性があったからです。
まずは動機づけの絞り込みから取り掛かりました。ユーザーとお坊さん、それぞれに対し動機づけのために利用できる賞罰を洗い出し、各賞罰に対する施策を考え、何が効果的かをroot内で精査していきました。
(お坊さんのアンケート回収への動機と施策)
古里(凌):このときは、お坊さんとユーザー両方とも適切な動機づけをしてあげるだけでアンケートを回収・提出してくれると考えていました。たとえば、「依頼主がアンケートを提出するとお坊さんからグッズがもらえる」や、「お坊さんがアンケートを回収できると依頼主からのお礼のことばが届く」など、どうしたら主体的に行動したくなるかをベースに考えていました。
ユーザー側も同様に、「アンケートを『お坊さんへの感謝の手紙』として書いてもらう」「アンケートに回答すると仏具用品がもらえる」など、さまざまな観点で動機づけができないか探りました。
こうして発散した施策を、「お坊さん・ユーザーがサービスを離脱しないか(罰則として厳しすぎる)」「長期的にコスト増加につながらないか」「サービス拡大時にも持続性があるか」のなどの観点から評価し、1回目の提案としてよりそうさんに提出しました。
「意味のイノベーション」で生み出したフィードバック獲得のための最適解
古里(祐):その案に対して、よりそうさんからいただいたのは、「この案では回収率30%程度が限界ではないだろうか」というフィードバックでした。
(株式会社root UXデザイナー 古里祐哉)
小野さん:提案いただいたソリューションは、今よりは回収率が上がる見込みを感じたものの、100%にはならないだろう、という直感がありました。
よりそうとしては、施行の品質向上のために確実にフィードバックを得られる仕組みを作りたい、そうrootさんにお伝えしました。
古里(凌):改めてユーザーの目線に立って考えると、依頼が済んだ時点でサービスの役割は果たし終えています。「アンケート」という言葉では、渡しても渡さなくてもいいという気持ちになる。そこでわたしたちが着目したのが、アンケートをお坊さんに対する「完了報告」という意味づけに変えることです。完了報告であれば、サービスを受けた後に必ず渡さなければならないものとできるので、100%に近い回収率を目指せる、と。
小野さん:アンケートの意味づけを変える施策であれば、ユーザーの任意や良心に頼ることなくアンケートの回収ができそうだと思いました。
古里(凌):その後、さらにワークショップを行い、フィードバックの送付手段や受け渡しタイミングなどを議論しました。ユーザーやお坊さんに近いよりそうさんの意見を取り入れながらアイデアを詰めていくほうが、より多くのインサイトを理解しながらアウトプットを出せると考えたからです。
古里(祐):最終的には、ご依頼をいただいた際にユーザーさんへ「完了報告書」と記載したハガキを送付。ご法要の当日に記載し、お坊さんへ手渡しするフローとしました。宅配便受け取り時にサインをするようなイメージです。手渡しであれば、わざわざ郵送する必要もなく、ユーザーが面倒に思うことも少ないと踏みました。当初はWebフォームやSNS上で回答できるシステムなども検討したのですが、Webに不慣れな方もいらっしゃるだろうと考え、ゼロからハガキを作ることを提案しました。
(実際に使われているハガキ)
小野さん:正直、プロジェクトの開始時にはこのようなソリューションに着地するだなんて予想していなかったので驚きがありました。自分たちではきっと考えつかなかっただろうなと。
小野さん:完成したハガキは6月末から実際に送付を始めていて、少しずつ戻ってきている段階です。現在、法要後のお坊さんからの回収率は65%ほどで、周知徹底しているわけではない段階にしては非常に良いスタートとなりました。今後強化すれば、十分100%回収を狙える数値なので、とても満足しています。
受発注の関係では無く、フラットな一つのチームとしてプロジェクトを推進
古里(祐):今後回収率を高めるために、サービスフローの改善もしていきたいと思っています。ここまで振り返ってみて、rootに期待されていたバリューは発揮できていたでしょうか。小野さんだけでなく、黒部さんや瀬戸さんにも伺えたらと思います。
小野さん:第三者の立場で目的をぶらさず、最後までプロジェクトをリードしてくださったと感じています。特に抽象的な目標に対して、課題や情報を整理する力に長けている方々だなと感じました。よりそう社内だけでは考えつかないところまで先回りして考えてくださったので、毎回の打ち合わせがすごくスムーズでしたよね。
(左:株式会社よりそう 瀬戸さん、右:株式会社よりそう 黒部さん)
黒部さん:個人的には、よりそう社内では試したことのないアイデア出しや情報整理の方法にたくさん出会ったことが印象的です。付箋やチャートマップの利用など、rootさんにとっては当たり前かもしれませんが、よりそうにとっては新鮮でした。
瀬戸さん:rootさんの情報整理術に感化されて、今は社内でも同じ方法を取り入れています。会議では付箋を使うことが当たり前になりましたし、チームで情報を管理・共有するために、情報管理ツール「Notion」も社内で使い始めました。
黒部さん:方法論の話からは離れますが、依頼主と外注先みたいな関係性にならず、全員がプロジェクトメンバーとして同等の立ち位置で話し合いができたのもすごく良かったです。
瀬戸さん:古里(祐)さんなんて、プロジェクトの終盤には「自分の会社のような気分で」と、PCを弊社に置いていってしまうこともあったくらいですし(笑)。
古里(祐):ありましたね(笑)。プロジェクトを成功させるためには上下関係を作るのは得策ではないと思っているんですよね。誰しもが同じように意見が出せて、所属先に関係なくプロジェクトの成功に向かって走ることができる。そういうチームだからこそ、良い結果が得られるようになるのではと思っています。一例ですが、実際のワークショップの場でもふせんを使うことで「誰が言ったか」よりも「何を言ったか」を重視して進めることができました。
古里(凌):rootとしても、ただUXデザインを提供することで完結するのではなく、それによって事業貢献につなげることをミッションとしています。今回のプロジェクトでは、まさに僕らが理想とする関係構築ができましたし、rootとして持っている価値も存分に発揮できました。
小野さん:お互いに良い関係性で進められたプロジェクトなので、すごく満足しています。rootさんと一緒に仕事をする中で学んだフレームワークやワークショップを社内に取り込んでいき、よりそうが提供するサービスをさらによくしていきたいと思っています。
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