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<有志翻訳>Vault of the Voidの日本語ローカライズ裏話

 Steamで公表発売中の「Vault of the Void」を有志として日本語ローカライズをさせていただきました、燻丸です。

 今回は開発記事の翻訳ではありません。なぜなら、記事を公表する前に原文のデータをいただいて翻訳しているのですから!開発記事はこちら
 今日は本作の有志翻訳がどの様にして行われたのかの経緯をつらつらと、長ったらしく、気の向くままに書いていきましょう。

 さて、経緯を説明する前に数多くの方々に感謝をしなければいけません。
まずは3名の有志翻訳者。𝗔𝗧𝗔𝗟𝗢𝗦𝗦さん、AgeBdeRさん、shinyaさん。
この度は有志翻訳にご参加いただき本当にありがとうございました。長期のプロジェクトとなると、途中で辞めてしまう方もいらっしゃるのですが、今回は最初から最後までかけることなくチームで翻訳を達成することができました。

 次に、本作の開発者である Josh Bruceさん。まずは本作を開発してくれてありがとう。そして、度重なる要望に対応してくださったり、ゲームに翻訳者モードを搭載してくれたり、おかげで何不自由なくローカライズをすることができました。

 <追記>ごめんなさい!感謝を乗せ忘れていました。それは、本作に実装した二つのフォントを作成してくださった方々です。
Mgen+ (ムゲンプラス):自家製フォント工房
ロゴたいぷゴシック-コンデンスド:フォントな
二つとも、ゴシック体のMplusfontを元とするフリーフォントとなります。無料だからと言って、それが当たり前になり感謝を忘れてしまったらいつしかその界隈は廃れてしまうでしょう・・・本当にありがとう!<追記終了>

 そして、ゲームメディアであるAUTOMATON様とその編集長であり、本作の記事を書いていただいた Ayuo Kawaseさん。
 実は私はAUTOMOTONの記事に"燻丸"の名前を刻むことが夢でして、先日ついに叶ってしまいました。

 そしてそして、本作の日本語化を期待してくれていた方々および、本作を遊んでいただいた方々全てに感謝を述べます。ありがとうございます。そして、ゲームを楽しんでください!

 他にも、「日本語化作業者互助会」の方々や、当初相談に乗ってくださった「Slay the Spire」の有志翻訳をされたGrezzzさん。本作とコラボしている「quantum protocol」の公式翻訳者であり、カード名日本語化MODを配布している、ゆず茶さん。プレスリリース送付の相談を聞いていただいた玉ねぎ習字さん。本当に多くの方々にお世話になりました!


 さて、話を軌道に戻しましょう。まずは私が本作を翻訳することになった経緯を話します。
 2021年12月、Twitterでとある方がVault of the Voidを日本語化したい旨をツイートをしていました。どうやら本作はGamemake:Studio2で作成されているらしく、偶然にも私はGamemake:Studio製のゲームをよく日本語化しているので、いい機会だと思い調査と解析に名乗り出ました。<追記>調査とは、他に日本語化プロジェクトが非公式、公式、で行われていないか、他の言語でMODが公開されていないかをネットの海から探し出す行為です<追記終了>

 当初、本作は日本語化MODとしての配布を検討していたのです。そう、GoogleDriveからZipをダウンロードして解凍、ローカルフォルダのどこそこにデータをコピーしてください。ゲームがアップデートされたら入れなおしてね!ってやつです。それだと確かに日本語では遊べるけど、ローカライズとは呼べません。

 GM:S製のゲームを改造するツールを用いて、ゲームに日本語フォントを入れた段階で、私は開発者であるJoshに連絡を行いました。
「本作はすごく面白いけど、英語以外の言語に翻訳する予定はありますか?もしよければ翻訳したデータを提供します。」と。すると、
「多言語化対応するつもりはあります。翻訳が実装できるファイルは作成中で、まだ時間がかかりそうなんだ。」と、返ってきました。

 その後も積極的にアプローチしたところ、紆余曲折あってローカライズチームを発足するに至ったのです。発足は2022年1月のはじめでした。本作は私が翻訳を志願する以前にも別の言語でローカライズの動きがありました。しかし開発途中でさらなるコンテンツ拡充が予想され、多言語化は先送りになっていました。
 つまり、私が多言語化への重い腰を上げさせたことになります。そっから濃密な2か月間が始まりました。

 まずは私のほかに有志翻訳を行ってくれる方を募集しました。なぜ他の有志翻訳者を募集するかというと、私一人では確実と言っていいほど挫折するからです。それに、複数人で翻訳したほうがよりよいものが仕上がることは経験則で理解していますから。

 まず声をかけたのが、Steamで本作の遊び方を解説する記事を日本語で書いてくれていたsinyaさんです。彼は有志翻訳を開始する以前にすでに200時間ほど本作をプレイしており、カードも全てアンロック済みでした。有志翻訳にとって、ゲームのLQAを積極的にしてくれる人がいるとすごく心強いです。私が有志翻訳を始めたときはまだ30時間ほどしか遊んでいませんでしたから、どの単語がどの場所で使用されているかが分からなかった。

 次に声をかけたのが、日本語化作業者互助会のDiscordサーバーです。私はこのサーバーでよく有志翻訳に参加してくださる方々を募集しております。そこで声をかけてくださったのが、AgeBdeRさんと、ATALOSSさんです。AgeBdeRさんは、よく一緒に有志翻訳しており、本作で3作品目の方。ATALOSSさんは前回の作品から引き続きで2作品目。
こうして私を含めた4名の有志翻訳者がそろったわけです。

 翻訳を始めるにあたり、shinyaさん以外はゲームをまだ完全には知りつくしたわけではなかったので、4人の翻訳者が全て同じ用語で翻訳する為、単語帳の作成から始まりました。

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 ゲーム内で登場する特殊な単語(約200)をピックアップし、その単語がどこで使われているかを全て記載。翻訳案を出し合い、最終的に決定していく。もちろんこの段階での訳は案であり、最終決定ではありません。その都度校正していきました。


 そして、翻訳自体はCrowdinと呼ばれるローカライズマネージメントツールを使用しました。

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 このサイトのおかげで負担が減りました。どれくらい負担が減ったかというと、ものすごくです。このサイトがなければおそらく私たちも開発者も、この作品のローカライズをあきらめていたでしょう。それほど便利なツールでした。(使い勝手はちょっと悪いですが)

 さて事務的な話は置いておいて、次は華やかな話をしましょうか。その前にコラムでも張っときましょう。

<コラム>有志翻訳者の一日
7時に起床。本業に出勤。17時に帰宅。寝るまでの6時間ず~と翻訳とLQA。
おわり。それが2か月間。

 さて華やかな話に行きましょう。

原文・初期翻訳案・最終翻訳

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 まず気が付くのが、カードの名称が日本語になっていますね。そして、テキストが英語と初期翻訳案では"中央ぞろえ"になっていますが、最終翻訳では"左詰め"になっています。
 そのほか 「4ダメージ 与える。」の”を"が抜けていることに気が付くでしょう。ひとつずつ追っていきましょう。

カード名称が日本語
 まず、私は当初カードやレリックの名称を翻訳せずに英語にのままにしようと考えていました。なぜなら、元の英語のフォントがかっこいいから。そして、英語でゲームを既に親しんでいた人が日本語になったときに元の言語で遊びたいと思ってしまうから。
 過去に「FTL:FasterThanLight」という作品があり、元の有志翻訳はテキストだけ翻訳し、固有名称は英語だったが公式に翻訳されたときに日本語に翻訳されてしまって、その時はがっかりした経験があります。(ところどころ名称が一致していないというがっかり翻訳だったからってのもあります)
 翻訳者を責めるつもりは一切ありません。インディーゲームの翻訳業界はまだ発展途上であり、ゲーム翻訳の依頼があったとしても全ての情報をもらえるわけではなく、時間も単価も限られている。そういった状況で有志翻訳と同等の時間を翻訳とLQA作業に費やせるわけではない。デッキ構築型ローグライトの本家である「Slay the Spire」も同様のトラブルがあったことは記憶に新しいでしょう。彼らが試金石となり、少しでも多くの作品で、素晴らしいローカライズが行われることを切に願います。

 そんなこんなでいろいろと思うところがあり、英語をそのまま採用して統一したいと考えていました。しかし、既に英語で本作を遊んでいる配信者に聞いてみたところ、日本語に翻訳してほしいという返答が返ってきました。
なぜなら、「日本語でないとカードの名称を覚えないから。」
日本人に覚えてもらうなら、固有名詞も日本語にするべきだと。その後、「Slay the Spire」の有志翻訳を行ったGrezzzさんにも、なぜ固有名詞を日本語に翻訳したのかを聞きました。その時から私の価値観は変わったのです。

テキストが中央ぞろえ
 これは日本語だけの仕様です。開発者に頼んで変更してもらいました。

4ダメージ与え
る。

 と改行されたら理解はできますが、そこでゲームへの没入が止まってしまいますからね。
 いかに違和感をなくすかが素晴らしいゲーム体験への小さいが確実な一歩だと考えています。

"を"が抜けている。
 これは、上記の、ゲームへの没入を阻害しない為の手法です。本来ならば「Slay the Spire」と同様の"ダメージを与える。"とするべきなのですが、本作はテキストの数値がゲームプレイ中にレイジ(攻撃力増加バフ)や弱体(デバフ)によって変更されます。つまりデッキの構成によっては文字が3桁になり、改行が発生してしまいます。そのため、"を"抜かざるを得なかった。

翻訳を

 個人的に難しいと思ったのがVoid Stoneです。カードやポップアップテキストに入れるにはあまりにも長すぎるため、仕方なく「虚空石」と翻訳させていただきましたが、できればヴォイドストーンと訳したかった。今ならどこにヴォイドストーンと表記されているか全て把握しているので訳せないこともないですが、こればっかりはどうしようもない。
 ゲーム翻訳は、行数や改行等の制約のなかで"訳をとるか"、"ゲーム体験をとるか"を常に試されているのです。もちろんゲーム体験が優先です。

 そういった感じで、膨大な時間と膨大な熱量と、本作をより多くの人に遊んでもらって楽しんでほしいという思いでローカライズをさせていただきました。ぜひ楽しんで頂けると嬉しい限りです。

 本作の開発裏話と、私がゲーム翻訳に抱いている思いだったりをもうすこし話したいところですが、また別の機会にしましょう。もちろん個別に聞いていただければ答えられる範囲で答えますのでお気軽に。

 Vault of the Voidの日本語ローカライズが公開されたことにより、このNoteは活躍の場を失うもしれませんが、はてなブログよりは書きやすい印象なので、本作のアップデートもしくは別の日本語化の話をするかもしれません。それではまたお会いしましょう。


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