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玉造魅須丸考


1 はじめに


この記事では虹龍洞4面で登場した玉造魅須丸というキャラが一体どのような意図で名前や服装をデザインされたのか、他キャラとの共通点は何か、旧作との繋がりはあるのか、スペカ展開時の謎の紋章は何なのか、何故霊夢や他の自機達のことを知っていたのかについて考えていきたい。私の考えを述べるにあたり、書物や原作での会話などからの引用を交えることも少なくはないため、その仕様上、どうしても本文が長く読みづらくなってしまうのは否めないが、予めご了承願いたい。途中に掲載している私のフォロワーの方のツイートに関しては事前にご本人から許可を得たものである。また、記事の見出し画像は私の自作のイラストである。

尚、私は原作者ではないし、東方projectについての全てを網羅しているというわけではない。その為、私がこれから述べることは必ずしも正しいわけではなく、間違いであるということも十分にあり得るのである。真に受けることなく、あくまで可能性の話として読んでいただければ誠に幸いである。


2  彼女の元ネタ的存在について


まず初めに、彼女の元ネタ的存在について考えていこうと思う。これついて、私は二つの説を唱える。一つ目は「日本の神話に登場する玉祖命本人である」とする説、二つ目は「玉造部の集団が死後、亡霊として一つになり神霊として崇められている」とする説である。


玉造魅須丸=玉祖命とする説

元ネタは日本神話に登場する神様の「玉祖命(たまのおやのみこと)」である可能性が高いと思われる。玉祖命は『古事記』において、天照大御神を天岩戸から連れ出す際の儀式の準備として、思金神の命により長い緒に通した勾玉である「八尺瓊勾玉」を製作した神様である。(知っている方も多いと思われるが、この「八尺瓊勾玉」は「草薙の剣」「八咫鏡」と並ぶ『三種の神器』であるとされている。)

さらに玉祖命は勾玉などの玉類の製作に従事していた「玉造部」の祖であるとも言われている。その名字と作中における「玉造部冥利につきます」というセリフからも元ネタとされている可能性は高いと考えられる。


「玉造部の集団が死後、亡霊として一つになり神霊として崇められている」とする説

こちらも可能性としては考えられるのではないだろうか。何故なら、おまけテキストによる彼女の種族は「神様」ではあるが玉祖命その人とは書かれていない(だからこそ一つ目の説もあくまで可能性の話なのである)。加えて、「神霊」や「八百万の神」のような具体的な表記ではなくただ、「神様」と書かれている。

申し訳ないがここで話題を一旦切り替え、東方世界における「神霊」の定義を振り返るとしよう。


求聞史記での神霊の記述(要約)


a  亡霊の内、神として崇められているものが神霊である
b  生きたまま神になった者と死後に神になったものがいる 
c  八百万の神との違いは供養されてもそのまま消滅することである 
d  普段は肉体を持たずに、神社や祠にいる    
e  神霊の力の源は信仰の力である。進行するものが増えれば妖怪や人間に対しての影響力も増すが、反対に信仰が減ると影響力は乏しいものとなる。なので基本的に他力本願である。【上記a~eの出典:東方求聞史記 101頁~102頁】


さらに、求聞口授での神奈子の解説にある記述からは、神霊は元々個人でもあり、集団であったとも考えられる。


彼女の種族は神霊に相当する。その為、昔は人間か何かだったと思われるが、それが誰なのか、個人なのかはもう判らない【出典:東方求聞口授 18頁】


私が特に着目したのがこの記述である。阿求の見立てでは神霊は個人も、集団もどちらも該当することになる。

魅須丸の「玉造部冥利につきます」という台詞であるが、これは複数の解釈ができるのではないかと私は考えている。この発言は①「玉祖神としての発言」とも、②「一介の玉造部の発言」とも、③「魅須丸を構成する神霊の)玉造部の代表としての発言」ともとれるのではないだろうか。そもそも「玉造部」というのは、大昔の朝廷に仕え、勾玉を始めとする玉類の製作に従事した人々のことである。なので集団を指す言葉であってもおかしくはない。

勾玉には人の魂が宿ること(後述)

・「みすまる」という名前の由来は「タマ」を”連ねた”モノである「御統(みすまる)」からの可能性もあること(これについても後述)

彼女の衣装には勾玉が連なっていること

これらの点から、太古の玉造部の霊の集団が「玉造 魅須丸」という存在を構成しているのではないのか、という説である。

自分で挙げておきながら、私はこの説は否定はしないものの、やや懐疑的である。何故なら、先ほど求聞史記での神霊の記述に挙げたように、神霊は信仰が拠り所の存在であるからだ。彼女は鴉天狗の大将である、飯綱丸龍ですら認知していなかった存在である。報道部隊である鴉天狗の上司たる人物が知らなかったということは、今までよほど表に出てきてはいないとも考えられる。

表に出ないだけで、存在は認知されているビッグネーム的存在ならば、今までの原作描写の中で名前ぐらいは一度は出てきてもよいはずである。だがそのような描写はゲーム、書籍でも見られない。また、そこまで有名な存在であるならば、自機キャラ達の方から「あっ..貴方はあの有名な」のような反応があってもいい筈なのだが、そのような描写はない。早苗にいたっては「誰?」と聞いているぐらいである。それ程認知されていない神霊(仮)が存在、力の源である信仰を今までどうやって集めていたのかは疑問である。


追記:2021/7/19

2021/7/17の東方ステーション時点でのZUN氏の発言によると、幻想郷成立よりもさらに古い時代に関係しているらしい。幻想郷の「成立」よりも古いとなると神代の存在である可能性がより高くなったと考えられる。


3 彼女の名前の由来を探る


名字は先ほど申し上げた通り、「玉造部」から来ている可能性が高い。では下の名前の「魅須丸」はどこから来ているのだろうか?私は魅須丸の「みすまる」という名前は、複数の勾玉を繋げたものである、御統(みすまる)、「五百箇御統玉(いおつみすまるのたま)」から来ている可能性が高いのではないかと考える。日本の歴史学者である喜田貞吉氏は、この五百箇御統玉の由来、さらには勾玉とよばれていたモノ=「タマ」に関して、非常に興味深い見解を述べられていたので、引用させていただくこととする。

本来タマなる名称は、孔を有して緒を通ずべき個々の物体そのもののことではなく、それはむしろ第二次的転用の名辞であって、当初はこれらの多くの個々の物体を、いわゆる「タマの緒」をもって連絡したものの名称であったと考える。古語にかかる連珠を、しばしば五百箇御統玉(いおつみすまるのたま)、あるいは八坂瓊珠(やさかにのたま)などという。【出典: 青空文庫,喜田貞吉 八坂瓊之曲玉考(底本 喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学 株式会社平凡社出版)1993(昭和56),7,30 初出:「歴史地理 第六一巻第一号」 1933(昭和8),1  入力:しだひろし 校正:杉浦鳥見 2020年6月27日作成 】
いわゆるタマが本来個々の有孔物体のことではなく、緒をもって多数にそれを連ねた全体の称であることは、上文すでに説述したところであるが、『古事記』『日本紀』などの古書には、そのいわゆるタマのことをしばしば「勾珠」または「曲玉」と文字に書きあらわし、古訓それを「マガタマ」と読ませているのである。試みにその用例を示さんに、『日本紀』天上誓約の条、および天岩戸の条等に「八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいおつみすまる)」といいーーー【出典: 青空文庫,喜田貞吉 八坂瓊之曲玉考(底本 喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学 株式会社平凡社出版)1993(昭和56),7,30 初出:「歴史地理 第六一巻第一号」 1933(昭和8),1  入力:しだひろし 校正:杉浦鳥見 2020年6月27日作成 】

喜田貞吉氏によれば、「タマ」というのは本来は、個々のモノを指しての名称ではなく、その穴を通して緒を用いて繋げたもののことであると言う。『古事記』などの大昔の書物には、その「タマ」のことを、「勾珠」(曲玉)と書き、「マガタマ」と読む。また、その「タマ」=緒を用いて連絡したモノのことを、「五百箇御統玉(いおつみすまるのたま)」ないし「八尺瓊珠(やさかにのたま)」というと言われている。

喜田貞吉氏が仰るように、八尺瓊勾玉の別称や、「マガタマ」と読まれたもの=緒を用いてタマを多数連ねたモノに「五百箇御統玉」という名詞が用いられており、その中に御統(みすまる)という言葉が含まれているのならば、勾玉職人である魅須丸の名前の由来がこの名称から来ている可能性も考えられるのではないだろうか。

また個々の物体ではなく連絡した「タマの緒」というのも魅須丸の衣装を連想させる。「連絡」という言葉は、今日では多くの場合「通信手段などで関係者に通知する」意味合いで用いられているが、根本的な意味合いとしては「関係があること」、「繋がりがあること」である。魅須丸の衣装に装飾されている勾玉は連なっているもの、すなわち連絡されているものの方が圧倒的に多いので、喜田貞吉氏が説明した「タマ」の定義にあてはまるようにも思える。なので、私は彼女の名前の由来が「五百箇御統玉」から来ているのではないかと考える。


4 他のキャラとの共通点


袿姫 (2)


皆様は魅須丸の服装を見て何か気づいた点はないだろうか?実は前作の6ボスである埴谷神袿姫と共通している部分があるのだ。そう、服に飾り付けられている勾玉である。袿姫は勾玉ではなく杖刀偶磨弓を始めとする埴輪軍団を造っていたが、彼女の衣装にも勾玉が装飾されているということは、何か関係があるのだろうか?埴輪と勾玉の共通点と言うと、古墳から出土したモノ同士である、という点が考えられる。古墳には副葬品の一つとして勾玉が埋葬されていたこともある。埴輪と勾玉について、先ほど引用させて頂いた喜田貞吉氏の文献に興味深い記述があったので、引用を交えつつ私の意見を述べようと思う。

貴き由来を有する神器の御事で、いわゆる八坂瓊または八坂瓊之曲玉とも言うべきものは、もとは単に連珠に対する普通名詞として、一般民衆までも往々これを服飾に用いたものであった。それは文献のこれを語り、実物のしばしば墳墓から発見せられるのみならず、埴輪土偶にも往々にしてこの形があらわれ、石器時代の土偶にまで、時に連珠、特にいわゆる曲玉を交えた連珠を帯びたもののあることによっても知られるのである。【出典: 青空文庫,喜田貞吉 八坂瓊之曲玉考(底本 喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学 株式会社平凡社出版)1993(昭和56),7,30 初出:「歴史地理 第六一巻第一号」 1933(昭和8),1  入力:しだひろし 校正:杉浦鳥見 2020年6月27日作成 】

喜田貞吉氏によれば、八尺瓊之曲玉というものは、「タマ」を緒で連ねたモノの一般的な名詞として、民衆が服装に装飾したものである。それは、墳墓から発見されただけでなく、埴輪や土偶にまでこの形状をもつものがあらわれており、石器時代の土偶にもそのように「タマ」を緒で連ねたモノ=曲玉(マガタマ)を帯びたものもあるとされている。

先ほど申し上げたように古墳などに、埴輪や土偶と一緒に「副葬品」の一つとして勾玉が埋葬されているというのが従来の私の中のイメージであった。日本史の資料集などで見たことのある方も多いのではないだろうか?しかし、勾玉、それも連なったものが埴輪や土偶に形として表れていたという記述は私は初めて見たので大変驚いた。形状そのものに関係性があるのであれば、これこそまさしく共通点ともいえるだろう。

著作権の関係で写真をここには載せることはできないが、実際に勾玉のようなものを身に着けた埴輪というのも確認した。面白いことにその埴輪が身に着けていた勾玉のようなものは一つではなく、それこそ喜田貞吉氏が仰ったような連結した形状となっていた。これらを踏まえると埴輪と勾玉にも深い繋がりがあるとも思えなくもない。袿姫と魅須丸のデザインに似たような装飾が施されているのも納得がいく。

また、他に共通点らしきものを挙げるとするならば、彼女(袿姫)も、元ネタの一つに波邇夜須毘売神(はにやすびめのかみ)という日本神話の神様が取り入れられている可能性が高いので、魅須丸と同じ神代の存在である可能性があることや、埴輪と勾玉、作るモノこそ違うが広義の意味ではお互い「職人」に該当しているともとれる。


5 神代要素を感じさせる彼女のキャラデザイン


玉造魅須丸、(いい意味で)とても奇抜なデザインをしたキャラクターである。飯綱丸の部下である典が「カラフルなやつ」と称するぐらいにはふんだんに色が使われている。特に勾玉に関しては、今作のタイトルや重要なテーマの一つに「虹」が含まれていることもあってか虹を思い切り意識したような色合いになっているようにも思える。そんな彼女のデザインについてだが、私のフォロワーの方が大変鋭い考察をなされていたので、この場を借りて紹介させていただくとする。また私自身「もしかして元ネタはこれなのでは?」と強く思うところがあったので、私の予想も併せて述べようと思う。(フォロワーの方のツイートに関してだが、ツイートを埋め込む形での引用ということで事前にご本人に掲載許可を頂いた。)


服の模様のアレ

魅須丸の服に描かれている謎の模様についてだが、私のフォロワーの方がこのような鋭い考察をされていた。



これが、非常に似ている。似ているのである。著作権の関係でここには載せられないが、「蔓草(つるくさ)模様」と検索して頂くとすぐにおわかりいただけると思う。私も魅須丸の頭についてるアレに関しては大方検討がついていたのだが(後述)こればかりは謎であった。この方のツイートを拝見した時「あぁ、これなのかもしれない!」と思った。抱えていたもやもやがスッキリした。

まだ蔓草模様で確定したという訳ではないのだが、高橋氏の仰る通り蔓草は日本の神話に登場するものであるので、神代に存在したものということになる。そして何の偶然か、魅須丸がボスの4面のタイトルは「伊弉諾物質」である。秘封倶楽部の方の「伊弉諾物質」のジャケットでも似たような蔓のようなものがある。これらは果たして本当にただの偶然なのだろうか?


頭の上にある謎の物体


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魅須丸の頭にあるこれ、歴代のキャラの被り物の中でもとりわけ奇抜であると私は思うのだが、気になったのは私だけだろうか?私はこれは「瑪瑙(メノウ)」なのではないか、と予想している。正確に言うと、瑪瑙そのもの、ではなく「瑪瑙で作られた何か」だと予想している。丸い髪留めについても同じく。

こちらも残念ながら著作権の関係上載せることはかなわないので、気になった方はGoogle等で「瑪瑙」と画像検索していただきたい。配色こそ違うが、似たようなものの画像がおそらくヒットすると思われる。この瑪瑙だが、翡翠や琥珀などと同じく、勾玉の原料として使われてもいる。ZUN氏が勾玉職人である彼女のキャラデザの一部として瑪瑙を取り入れた可能性も考えられるのではないだろうか?

*追記 2021/7/19

2021/7/17の東方ステーションにて頭の上にあるものが実際に「タマ」であることがZUN氏により判明した(玉なのか珠なのか他の字なのかわからないのでここでは敢えて”タマ”と表記する)。瑪瑙かどうかはわからないが「タマ」ではあるらしい。ZUN氏曰く、弾幕ゲームのタマの神様だから頭上にあるのも本物のタマらしい。本物となると普段の生活に支障をきたしそうだが、そこはあまり深く突っつかなくても良いだろう。



仮にだが、仮に服の模様が蔓草で、仮に頭の被り物が瑪瑙だとすれば(服の勾玉が連なったモノもあわせて)彼女の服装は神代に関連するモノづくしということとなるのではないだろうか。作中でも

龍珠とは、いにしえから伝わるいわばイザナギオブジェクト。人類の生まれるずっと前から存在する人知の及ばない鉱物です。【出典:東方虹龍洞 4面ボス 玉造魅須丸(全キャラルート共通)】
酸素とは、”失うと瞬時に死ぬ”という動物に掛けられた呪いです。【出典:東方虹龍洞 4面ボス 玉造魅須丸(咲夜ルート)】

と龍珠のことを「人類が生まれるずっと前からある鉱物」と言ったり、動物の構造の起源のようなことを言ってたりすることから、人間の時代よりも遥かに前の時代、即ち神代からいる存在であると思われる。これも私が彼女(の元ネタ)が玉祖神なのではないかと考える所以である。玉祖命は日本の神話に登場する神様なので、東方の世界と言えども遥か昔の歴史を知っていてもおかしくはないからである。


6 スペルカード展開時の背景の紋章



彼女のスペカ展開時に出現する背景の紋章だが、「九曜紋」と呼ばれるものにそっくりなように思える。(大きな丸の周りに八つの小さな丸がある紋章である。ダビデの星のような紋章ではなく。)

だからどうしたんだ、という話ではない。もしこれが「九曜紋」ならば、「陰陽」だけでなく、「星」の要素が関わってくる可能性もあると私は判断したからだ。このことに関して掘り下げていくと話が脱線し収拾がつかなくなる可能性がある。なので、公式から「九曜紋」であるとの確定情報がでるまで、私の方から余計に掘り下げておくのは控えよう。もし確定したのならば、その時はまた別に記事を作ろうと思う。

7 魅須丸から漂う旧作の香り?


陰陽玉の後継者


画像3


この台詞だ。私が個人的に4面タイトルの伊弉諾物質と並んで今作で衝撃を受けたものだ。霊夢が陰陽玉の後継者であるかのような台詞は、封魔録での「陰陽玉は博麗の家系であるあなたしかあつかえない」という魅魔のセリフ以来なので、やはり私を含む一部の方の間では衝撃が走ったと見受けられる。なんといっても約24年ぶりに出てきた設定である。画像の台詞だが、霊夢のことを「後継者」と言っている。これが「所有者」とか「使い手」などであったら不明瞭であるが、「後継者」というからには前任者が間違いなく存在しているのは間違いないだろう。原作においても霖之助や文、華扇から霊夢の前にも博麗の巫女がいたことを示唆する描写はある。

彼女が歴代の陰陽玉の所有者をずっと見てきたのか、霊夢のことをどれだけ知っているのか、見てきたのかは不明である。だが作中で魔理沙、咲夜、早苗と違い霊夢だけ「くん」づけはされいないし、「陰陽玉の継承者、博麗霊夢よ!」などという意味深な呼ばれ方をされている。また、自機が霊夢の場合、バトルに突入する際に、


「窒息死なんかで陰陽玉の後継者を失う訳にはいかない。どうせ失うなら私の手で!」【出典:東方虹龍洞 4面ボス 玉造魅須丸 霊夢ルート】


というまたもや意味深な台詞を言ってくるのである。もっとも、魅須丸は「止まりなさい」「この先は無酸素エリアだから人間の貴方は呼吸できなくなる」といった旨の警告を繰り返すのだが、当の霊夢は「その前に洞窟を調べ切ってやるわ!」と到底聞き入れない様子だったので致し方無い点もある。なので、こんなことで失ってなるものか!と止めにかかるのはわかる。

だが、問題はその次だ。「どうせ失うなら私の手で!」、「私の手で」だ。意味深にも程がある。よほど霊夢に対して思い入れがあるということなのだろうか?笑顔で言ってくるのもどこか恐ろしい。

「窒息死なんかで失うわけには」といっていることからして、魅須丸としては少なくともここで霊夢に死なれては困るということである。それほど「陰陽玉の後継者」は重要なのであろう。だがその直後に「私の手で」という。一見、どこか矛盾しているようにも感じる。これについては「窒息死は苦しいだろうからせめてもの私の手で介錯してあげよう」→「しかし、実際に戦ったら自分が思ったいた以上に陰陽玉を使いこなしていた。」という感じなのではないかと私は解釈している。なので、手加減はしていたかもしれないにせよ、試練を与えるというようには私は感じなかった。試練を与えるなら「乗り越えて見よ!」のような口上でボス戦に突入してもおかしくない筈である。


陰陽玉のメカニズム

継承されるもの、であることがわかった陰陽玉だが、依然としてその継承のシステムは謎のままである。失う訳にはいかないということは、生きてる間に行われないといけないということだろうか?原作で先代の巫女から霊夢へ直接継承される場面は現在ない。それどころか先代の巫女と霊夢との関係も不明であるし(これに関しては血縁関係であるとも、赤の他人であるとも言い切れない)、代替わりした理由や時期についても語られてはいない。今作で陰陽玉について判明したのは、龍珠とは違うものの、広い意味では陰陽玉も「伊弉諾物質」に該当するということだ。製作者である魅須丸が言うのだから間違いはないだろう。これは完全に根拠の乏しい私の憶測だが、陰陽玉は「二つの勾玉」から構成されているのではないのだろうか。陰陽玉の元ネタらしき「陰陽太極図」も勾玉を二つくっつけたような形をしている。


勾玉の「たま」とは人間の魂のことであり、故に人間の能力を封じ込め・・・・・・【出典:東方虹龍洞 4面ボス 玉造魅須丸(咲夜ルート)】


上記のセリフだけでなく、おまけテキストでの設定を見る限り、勾玉は生き物の魂を込める事ができるマジックアイテムである。僅かではあるが、能力や気質、記憶までコピーできる。また、勾玉に加工できる龍珠にも、加工前でもほんの僅かではあるが魂を込める効果がある。なので、龍珠も勾玉も全く同じではないにせよ、魂を込める効果があるというである。そう考えると、仮に陰陽玉が「二つの勾玉」で構成されているとすれば、陰陽玉には二つの魂が込められている可能性も考えられるのではないだろうか。「陰陽」と名前につくぐらいなのだから、「陰」の性質を宿した魂と「陽」の性質を宿した魂が合わさっている、といった可能性も考えられるのではないだろうか。では陰陽玉には一体誰の魂が宿っているのだろうか?謎は深まるばかりである。


「神玉」を冠するスペカ名


魅須丸のスペカの中でもとりわけ、ものすごく意味深なスペカがある。イージー、ノーマル、ハードでは同じ名前であるがルナティックになり初めて名前が変化するスペカである。それが玉符「陰陽神玉」だ。神玉である、神玉。これは「シンギョク」とも読めるのではないだろうか。東方でシンギョクといえば、靈異伝に登場する「SinGyoku」を思い浮かべる方も少なからずいるだろう。陰陽玉の後継者発言といい、スペカ名といい意味深なものが多いようにも感じる。


なぜ名前が魅須丸であって御統ではないのか

彼女の名前の由来で述べたように、彼女の名前の由来が「五百箇御統玉(いおつみすまるのたま)」から来ているとするならば、名前の漢字表記が「玉造 御統」であっても別に不自然ではないであろう。そこを敢えて別の表記にしている。しかも何の偶然か、魅須丸の「魅」の字は封魔録で博麗の家系と陰陽玉について言及した「魅魔」と同じ字が使用されている。偶然にしてはあまりにもできすぎているようにも感じるのだが..。


結局、彼女と旧作の繋がりはあるのか?

では彼女と旧作の繋がりは?彼女の登場によって旧作キャラが再登場することはあるのか?結論から言えばそれは不明である。答えがあったとしても、ZUN氏にしか知りえないことである。なので現段階で私から断定することはできないので、代わりにここでは私の解釈を述べようと思う。

私の解釈は、Win版では確かに設定などは一新されているものの、旧作の一部の設定みたいなものは、旧作とは全く違い繋がりもないが、メタ的な視点による「ファン目線」で似た時に旧作の名残を感じるようなWin版なりの形として全く新しい形として登場することもあるのではないか、というものである。つまり、魅須丸の「陰陽玉の後継者」発言も「陰陽神玉」のスペカ名も、かつて旧作で登場した設定がWin版の全く新しい世界観として変化して登場したものであり、両者は完全に別物であるというのが現時点での私の解釈である。なので旧作の人物や設定が「旧作のままの形」でWin版に登場したかというと、そうではないようにも私には思える。




8 彼女は如何にして自機達の情報を知り得たのか?


博麗の巫女であり、陰陽玉の後継者でもある霊夢は当然であろうが、何故か魅須丸は他の自機のキャラクター達の名前についても知っている。このことについて考えていこうと思う。


前置きとして、地霊殿での陰陽玉の役割について触れておく。下記の会話からもわかるように、地霊殿では、霊夢の陰陽玉に、紫の手により陰陽玉を通じて会話ができるように遠隔通信機能が施されていた。

紫 (..霊夢。聞こえるかしら?....) 
霊夢 「うぇ?ついに幻聴が。」          
紫 (...陰陽玉を通じて会話ができるようにしておいたわ。貴方がサボらない様に)【出典:東方地霊殿 博麗霊夢+八雲紫 1面の会話】


詳しいメカニズムは不明だが、陰陽玉には遠くから監視する機能をつけられる、ということだ。陰陽玉の製作者である魅須丸ならこの機能のことを知っていてもおかしくはなさそうではあるが。今まで言わなかっただけで、陰陽玉を通して霊夢のことは観察していた、という可能性はないだろうか?


今までの自機キャラ達の行動を見ていた、或いは活躍を聞いたという説


この場合、魅須丸の「そこまで強い方とは思いませんでした」、「私の造った陰陽玉をそこまで使いこなせているとは」といった台詞はどこか不自然であるように感じる。何故なら、彼女たちは今まで、スペルカードルールに基づいた勝負ではあるが、数々の強大な妖怪や神に該当する存在や、歴史上の伝説の人物などを相手に異変を解決してきたからである。

彼女の言う「そこまで」の基準がどれ程のものかは示されてはいないので、彼女が自機達を過小評価していた、とも(無理矢理ではあるが)考えられなくもない気もするが、今までの彼女達の活躍ぶりを見ていたにしては過小評価をするのは無理があるのではないだろうか。

また、陰陽玉に遠隔通信機能がついていたこともある霊夢ならまだしも、他の自機達の活躍を何処から、どのように見ていたのかという疑問点も残る。だが、彼女が自機達の活躍を噂程度で聞いた場合ならば、話は多少なりとも変わってくるのではないだろうか。噂程度であれば、彼女たちの活躍を直接見ていなくても名前程度なら知っている可能性もあるし、直接は見ていないので実質的な強さを理解していなかったことの証明にも繋がる。

例えば、「○○異変を▲達が解決した」という情報を噂程度で聞くのと、「▲達が○○異変を解決した」という場面を直接見ていたのであれば、だいぶ話が変わってくるからだ。なので噂程度で自機達の活躍を聞いたのであれば、自機達の名前を知っていたとも、実力を十分に見抜けなかったとも、やや強引ではあるものの、一応は筋が通るのではないだろうか?


勾玉の能力により情報を読み取ったのではないかとする説

まず初めにもう一度おまけテキストに書いてある勾玉の設定を振り返るとしよう。

・勾玉には生き物の魂を込めることができる。                   ・能力や気質、記憶も”僅か”ではあるがコピーできる            ・相手の情報も容易に読み取れる

最初の説よりも、こちらの考えの方が割とすんなりと納得がいくようにも思える。相手の情報を読み取れるので、彼女が勾玉の能力で自機達の名前を知ったとも考えられなくもない。面白いのは、(「陰陽玉の後継者よ!」などと思わせぶりな台詞を言った相手である)霊夢は除き、他の自機達に対して名前を知っているのに対し、案の定自機達から「何故私の名前をしっている?」という問いが(当然)飛んでくるのだが、彼女はそれについて一切答えずに別の話題に会話が切り替わったまま進行するので、この場で彼女が能力を用いて名前を知ったとも、その前から知っていたとも、どちらとも受け取れるということである。

龍珠から作ることのできる勾玉は、能力や気質、記憶をコピーするという性質を有してはいるが、テキストを見る限りだと万能ではないようにも思える。何故なら「僅か」という言葉が添えられているからだ。相手の情報も容易に読み取れるとはいっても、能力や気質を僅かにしかコピーできない以上、相手の名前のみならず、強さまで全て読み取るようなことができるとは到底思い難いからである。


8 おわりに


本記事では、玉造魅須丸の名前の由来や元ネタの存在を始め、他のキャラとの関係性や旧作との繋がりについてなど、彼女に関する様々な事柄について考察した。

その過程において、彼女の「魅須丸」という名前の由来を探る中で、「みすまる」という単語の起源や埴輪と勾玉の関連性を示す学術的見解に触れることができたのは私にとって大きな収穫であった。彼女の元ネタ的存在や、彼女の服装のデザイン、スペルカード展開時の紋章の元ネタに関しては、公式からの確定した情報が無いので、合っているとも、そうではないともどちらともいえない。何故彼女が自機達のことを知っていたのかについても同様である。噂で聞いたのかもしれないし、勾玉の能力を用いて知り得たのかもしれない。これらに関しては公式からの情報を待つばかりである。正誤の基準の話は置いておくとして、私の中の解釈の幅が広がったのは事実である。これもまた一つの収穫といえよう。

尚、彼女と旧作との繋がりに関しては、私は「彼女の後継者発言やスペルカードに”神玉”と含まれているのは、彼女が旧作の人物との関係があることを示したりするものではなく、私達の視点からはかつて旧作で登場した”ように見える”設定がWin版の世界観に沿った全く新しいものとして登場したものであり、両者は同一ではなく別物である。」という立場をとった。この考えの根底には、ZUN氏とファンの方との間の2003年8月の幻想掲示板内でのやりとりがある。しかし、その考え今のZUN氏の中でも活きているのかというと、その発言からだいぶ時が経っている為、その考えも今となってはZUN氏の中にあるのかは不明である。そもそも人間、時が経てば考え方も多少は変わるものである。1mmもブレることなく考えが十数年間も変わらない人はそうそういないだろう。

追及するべき課題はまだたくさんある。彼女のデザインについてや、彼女の元ネタと考えられる玉祖命及び玉造部に関しての歴史的研究などだ。今回の考察だけで、何もかも調べつくしたとは言い難いからである。

そういうわけで、本記事では学術的見解を本記事ではどちらかというと、元ネタ(学術的)的な考察というよりも、本編でのキャラの設定や会話の流れから推察したものが多いと思われる。もっとも、いくら説得力のある学術的見解や資料を引っ張ってきたところで、それは説得力が増すというだけであり、その考察がZUN氏が考えていることに結び付くとは限らない。一番重要な資料は東方の公式設定であり、ZUN氏の考え】に他ならない。何故なら、東方の設定はZUN氏が創られる際に参考にされた歴史や神話、民話などがあったとしても、それはZUN氏の独自の解釈というフィルターを通されたものだからである。それが私のスタンスである。公式からの新たな魅須丸の供給ができるだけ早く来てくれることを願いつつ、本記事を締め括りたい。

参考資料


・ 上海アリス幻樂団 「東方虹龍洞 ~ Unconnected Ⅿarketeers。」 2021,5,4

・ 上海アリス幻樂団 「東方鬼形獣 ~ Wily Beast and Weakest Creature.」 2019,5,5

・ 上海アリス幻樂団 「東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.」  2008,8,16

・ 中村啓信(訳注)「新版 古事記 現代語訳付き(角川ソフィア文庫)」  角川学芸出版 2009,9,25

・ 喜田貞吉 八坂瓊之曲玉孝 青空文庫、https://www.aozora.gr.jp/cards/001344/card49798.html 本文献の底本 喜田貞吉 「喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学」 株式会社平凡社出版 1993(昭和56),7,30 初出:「歴史地理 第六一巻第一号」 1933(昭和8),1  入力:しだひろし 校正:杉浦鳥見 2020年6月27日作成

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