カエデの冬支度

「わあ   綺麗だねえ」

「秋だねえ」

足元から声がする

ふと見下ろすと

目を細めて　くしゃくしゃっとしたまん丸な笑顔で

人間が二人 

ぼくを見上げていた

「見てみて     こっちは茶色だよ　大きな葉っぱだねえ」

あたたかそうな毛糸の服をきた人間がぼくの隣のブナを見上げる

「見てみて     こっちは深い紅だね」

もう一人の大きなカバンを背負った人間がぼくの足元に落ちていたぼくの一部を拾い上げる

「見てみて     形は似てるのにこっちの葉っぱは橙色だ」

二人は    ぼくの足元に埋もれていたコハウチワカエデの葉っぱに触る

「見てみて　あたたかい黄色」

二人は橙色に混じって雨にぬれたヤマモミジの葉に目を凝らす　

ああ　そうか

あなたたちは

いろづいたぼくたちの葉のことを

綺麗だと言っていたのだね

ぼくたちは

ぼくたちが冬を生きていくための準備をしていただけなのに

そんなぼくたちの葉っぱを

あなたたちは綺麗だと見上げていたのだね