ぼくが勉強から逃げてしまうのは ~HSCよもやま話①~
”HSC”は「ひといちばい敏感な子」と訳されている心理学の概念です。
今回は私が出会ったHSC(と思われる子)のエピソードを書きたいと思います。
この記事の内容は旧伊深塾ブログ(seesaaBLOG)の再掲載になります。
「負けず嫌い」の理由は?
伊深塾のオープン前、別の個別指導塾で教えていた時のことです。高い目標を持った受験生がいて、私がその子の国語の担当になりました。その教え子はなかなか難しい問題に立ち向かえず、模試の途中でもあきらめてしまうことがありました。
塾で問題演習する時も。
「難しい問題を解かなきゃいけない時、逃げたくなっちゃうんです」
とその教え子は言っていました。
「負けず嫌いなの?」
と聞いてみました。
「そうだと思います。負けるのが嫌だから、『じゃあ負けなければいい』みたいな感じで逃げちゃうんだと思います」
という答えが返ってきました。
そこで、さらにこんな風に聞いてみました。
「負けるのが嫌だなと思い始めたのは、いつから?何かきっかけとかあったの?」
すると教え子はこんな風に答えました。
「小学生の時に入っていたクラブチームの指導者が勝ちにこだわる人で、『いいか、絶対勝てよ』『負けるな!』っていつも言ってたんです。何度も強く言われたから、『負けるのは悪いことなんだ』と思うようになってしまって。
勉強も人に負けないように頑張ってきたけど、学年が上がるにつれて内容が難しくなるといつもそんなわけにはいかなくて。全然歯が立たない時は『負けるのがダメなら、逃げちゃえ』って思うようになりました」
自分の心の中で起きていることについて「こんなに詳しく洞察できているなんてすごいな!」と思って、ちょっとびっくりしました。そしてこの話を聞いて、「この子はもしかしたら、HSCなのかも?」と思いました。
みんなで怒られたら、圧倒されてしまう子もいる
HSCは刺激が強すぎると圧倒されてしまうことがあります。
たとえば学校でクラス全体が先生に怒られるということがあった時、HSCではない子どもはそんなに影響を受けていなくても、HSCの子どもは強く受け止めすぎてしまう、ということが起きるのだそうです。
そのような敏感な気質を持つ子どもが5人に1人の割合でいるのだそうです。
HSCについて最初に研究したアーロン博士の本を読むと、こんなふうに書いてあります。
この教え子の話もそうしたことの一例なのかもしれないと思いました。
そのクラブチームの指導者は、教え方がうまくて実力のある人だったそうです。でも敏感気質ではなかったのかもしれません。
「負けるな!」と伝える強さが、チームの5分の4の敏感ではない子どもたちにはちょうど良かったのかもしれませんが、あとの5分の1のHSCのメンバーにはもしかしたら強すぎたのかもしれません。
「いい」「悪い」で考えない
しかし「負けるな!」と強く言い過ぎたクラブチームの指導者が「悪い」ということでもないと思います。
アーロン博士の本にも繰り返し書かれていますが、敏感性にまつわる話は「善悪」で判断するようなことではありません。
集団に対してはたらきかけるのって難しいですよね。
私も塾講師になる以前は高校で教員をしていましたが、私の場合は逆に自分がHSPなので、伝え方が「弱すぎた」ということがあったと思います。「これくらいの強さで言ったら伝わるかな?」と思ってクラス全体に言ったことが、実は敏感ではない子たちにあまり響いていなかった、ということもあったかもしれません。
でも、それが「いい」とか「悪い」とかいう問題ではないのです。
負けず嫌いの教え子には
教え子が負けず嫌いになった経緯が分かったので、それ以降は問題を最後まで解かせるということにはこだわらず、中途半端になっても新しい問題に移るようにしました。
高い目標を持ってはいましたが、ここで「あきらめるな!」などと言っても意味がないどころか「逆効果になるだろうな」と思いました。逃げずに最後まで解けた時はフォローなどをしていくと、次第に力がついてきました。
人が負けず嫌いになる理由がこれだけとは限りません。伊深塾のオープン以来、この例とはまた違う「負けず嫌いになった理由」を語る生徒にも出会いました。同じ「負けず嫌い」でも、理由は人それぞれなんですね。マンツーマンの指導形態を生かして、負けず嫌いの子にもその理由に合わせた対応をしています。
参考資料『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン著/明橋大二訳
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