見出し画像

警備開始

警護業務実践③ 警備開始

前号で紹介したように、ボディーガードや警護チームが警備業務を開始する時は、遅くとも30分前までには、すべての準備が完了し、いつでも警護業務を開始することのできる状態、“クリア&スタンバイ”となります。このため、予定時刻よりも早くプリンシパル(Principal: 警備対象者)が自宅などから出てきても、すぐに警護を開始することができます。

(1) 挨拶・自己紹介

既に前日までに警護が始まっており、プリンシパルがボディーガードや警護チームのことを認識できている状況であれば、挨拶だけをして警護業務に入ります。警護業務初日であれば、プリンシパルはボディーガードの顔を知らないこともありますので、こちらからプリンシパルを見つけて近づき、自己紹介と挨拶をして、警護を開始します。この自己紹介や挨拶はできるだけ手短に済ませ、まずはプリンシパルを安全な環境下に置くことを優先して行動します。安全な環境になってから、改めて、丁寧に挨拶をし、自己紹介やチーム紹介などを行うようにします。

プリンシパルと合流した場所・時間が既に安全な環境下(例えば、プリンシパルの自宅内など)であれば、すぐに丁寧な挨拶等を行っても問題はありませんが、プリンシパルとの合流は、自宅玄関の外であったり、ホテルの部屋を出たところであったり、車を降りたところであったりと、安全な環境が確保されていないことも多く、中には、その日のスケジュールの中で、最も危険な時間であることも少なくありません。

身辺警護・要人警護業務では、『空気が変わる瞬間』『接点』が最も危険な時である、と言われます。例えば、自宅玄関を出たところやホテルの部屋を出たところ,車から降りたところなどは、屋内(車内)と屋外(車外)との『空気が変わる瞬間』であり、プライベート空間とパブリック(公共)空間との『接点』でもあります。多くの襲撃や攻撃は、この『空気が変わる瞬間』『接点』で行われ、監視行動や尾行活動も、この『空気が変わる瞬間』『接点』から開始されることが多いです。パパラッチやファンが著名人に向かって駆け寄ってくるのも、この『空気が変わる瞬間』『接点』であることが多く、警護業務では常に、プリンシパルの行動スケジュールの中で、どこに『空気が変わる瞬』『接点』があるのかを把握し、意識し、警戒します。この、最も危険な瞬間に、プリンシパルと合流し、挨拶などに集中してしまうと、警備力が落ち、結果的にプリンシパルの安全確保ができないことになります。プリンシパルには、「後ほど、安全な状況になりましたら、改めてご挨拶させていただきますので、まずはこちらへどうぞ。」などと言って、安全な環境に誘導していきます。

安全な環境になったところで、改めて、丁寧な挨拶や自己紹介・チーム紹介などを行いますが、その際に、いくつか併せて確認すべきことがあります。それは、

その日の行動スケジュールの再確認,
その日の体調確認
その日の特別リクエストの確認、

の3つです。

(A) その日の行動スケジュールの再確認
身辺警護・要人警護業務では通常、当日の行動スケジュールについて、クライアント(Client: 依頼者)やプリンシパルから事前に情報を頂き、その情報を基にアドバンス・ワーク(警護事前準備作業)を行い、準備します。しかし、前日の夜や当日の朝に、急きょ予定が変わることなどもあるため、行動スケジュールの再確認を行います。事前に知らせていただいた通りの行動スケジュールなのか、何か変更点や追加スケジュールなどはないか、などを確認します。

(B) その日の体調確認
行動スケジュール同様、プリンシパルの体調や持病,アレルギーや障害などの情報は、必ず事前に収集し、そのための準備を行っておきます。しかし、突然体調が悪くなったり、逆に良くなったり、前日夜に怪我をしてしまったり、家庭の事情などで精神的に滅入ってしまっていたり、と、人の身体や精神は簡単に変化してしまうこともあります。このため、当日、最初にプリンシパルに合流した際に、何か変化がないか、再度確認を行います。持病の今日の調子はどうか,以前痛めた傷は今日はいつもより痛むか,最近風邪などひいていないか,などの質問をしつつ、その応答を観察し、精神的な安定・不安定なども見ていきます。何か不安を抱えているような様子が伺える場合は、何かあったのか、率直に質問してみることもあります。プリンシパルの体調や精神状態は、警護業務にダイレクトに影響します。また、その日の体調などをしっかりと把握しておかないと、突然プリンシパルが倒れた時などに、なぜ倒れたのかわからず、処置が遅れてしまう恐れもあります。プリンシパルの体調・精神状態の把握は、プリンシパルの“セーフティ”の確保のために必須です。

(C) その日の特別リクエストの確認
これまでと同様、ボディーガードや警護サービスに対するリクエスト(要求)は、事前にその情報を得ておき、しっかりと準備をしておきます。しかし、突発的に追加されるリクエストや、その日だけ特別に必要とされるリクエスト,プリンシパルが急に思い出したリクエストやスケジュール変更等に伴うリクエストの変更なども起こりうるため、既にリクエストされている事項に変更はないか,何か追加の要求はないか、など、その日の警護が本格的になる前に、ボディーガードや警護チームに対するリクエストや、警護サービスに対するリクエストを再確認しておきます。

これらの情報は、プリンシパルと合流する前に、本人からではなく、クライアントやプリンシパル関係者(秘書や社員,マネージャーなど)などから得られることもあります。この場合、プリンシパルに対して多くの質問を投げかけなくても済むため、必要最低限の本人しか知り得ない情報のみ、質問から得るようにします。プリンシパルの中には、警護(ボディーガード)に対し、協力的な人もいれば、非協力的な人もいます。特に警護に非協力的なプリンシパルの場合、警護に必要だからといって、いきなり多くの質問を投げかけると、「面倒くさい」「鬱陶しい」などと感じ、余計にボディーガードや警護チームに非協力的になってしまいます。ひどい場合は、プリンシパルからの信用や信頼を失い、警護業務自体が遂行できなくなってしまいます。これでは本末転倒ですので、声の掛け方や質問の仕方,質問をするタイミングなどは、しっかりと見極める必要があります。

警護開始直後、これらの確認作業を経て、警護業務は本格的に稼働していきます。


次回は《警護業務実践④ 1/10の法則》について紹介します。


画像1

AISP/IBA国際ボディーガード訓練
http://blog.aisp.cc/



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?