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警護業務に存在する4つの時間

警護業務に就くボディーガードは、時間の流れに沿って、常に4つの時間(世界)を生きています。

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①過去

プリンシパル(Principal: 警備対象者)に過去に起きた事象(病歴,起きた脅威など)を常に把握しておき、併せて、自分たちが計画したこと・準備したこと、そして現在に至るまでに通ってきた動線,訪問したところなどを常に意識します。これは、過去が現在に及ぼす影響を意識するためで、例えば、現在自分たちがいる場所までの移動動線(軌跡)を意識しておくことで、尾行者や尾行車両等のチェックに繋がり、プリンシパルがこれまでに取ってきた行動を意識することで、この後取るであろう行動の予測ができることもあります。過去は現在までの軌跡で、現在への影響と、この後起こるかもしれない未来の事象の想定にも利用することができます。

②現在

「今、プリンシパルはどこにいて、何をしているのか」について、プリンシパルのそばで警護にあたるPES(Protective Escort Section: プリンシパル直近警護隊)は当然把握できますが、プリンシパルやPESから離れた位置で警戒や警備にあたるSAP(Security Advance Party: 先発隊)やVS(Vehicle Section: 車両隊),BS(Backup Section: バックアップ隊)は情報がなければ、把握することができません。事前に作成された警備計画に記載されている行動スケジュールである程度は把握できますが、細かいプリンシパルやPESの行動は、PESからの情報提供によって把握します。同様にPESは、近くにいない他のセクションの現在地や現在の状況を細かく把握できませんので、PESに宛てた情報提供も必要となります。護るべき対象は同じであるのに、お互いに離れた位置で警備にあたるため、警護チーム内での適切なコミュニケーションが、警護全体の成功の鍵となります。

③未来

ここで言う“未来”とは、現在の状況から、特に何事もなく、予定通り時間が進んでいった先にある“未来”を意味します。つまり、SOP(Standard Operation Procedures: 平時の行動手順)に則った自分たち及びプリンシパルの「予定通りの未来」です。この後プリンシパルはどこに向かうのか,そのために警護チームの各セクションまたは各ボディーガードは、この後どのような行動をすべきなのか、などを考え、予定通りの未来への準備をしておきます。

④未来‘

この“未来”は通称「未来ダッシュ」と呼ばれ、③の未来とは異なり、この後、何か突然予定していなかった事態が発生した先の「別の未来」を意味します。ボディーガードは常に、不測の事態を想定し、心の準備を含めた様々な準備を整えておく必要があります。予定していた未来が、予定通り来ることだけを想定して警備をしていては、緊急事態に即応することができません。もし、この瞬間地震がきたらどう行動するか,もしこの瞬間襲撃者が現れたらどう行動するか,遠くで様子を伺っているファンが近づいてきたらどうするか,突然暴走する車が近づいてきたらどうするか,など、その瞬間瞬間で、別の未来を想像し、その「未来ダッシュ」が起きた際の行動、つまりERP(Emergency Response Procedures: 緊急時行動手順)への備えをしておきます。


身辺警護・要人警護業務は、行き当たりばったりではできません。常に、時間軸に沿って、【過去→現在→未来】を想定し、都度自分たちの行動を評価・実行していきます。また同時に、【現在→未来‘】という「別の未来」への想定・準備も行なっておき、緊急事態に備えておく必要があります。


次回は《セキュリティ・フィルター》について紹介します。




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