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警備開始前準備

警護業務実践② 警備開始前準備

(1) 警備開始時間と業務開始時間

ボディーガードや警護チームによる警護サービスは、クライアント(Client: 依頼者)やプリンシパル(Principal: 警備対象者)が指定した日時に開始されます。これは、ボディーガードがプリンシパルと合流し、物理的な警護が始まる時間、つまり“警備開始時間”です。
これに対し、ボディーガードや警護チームが、警護サービス開始のため、その準備を開始する時間を“業務開始時間”と言い、“警備開始時間”とは区別されます。

例えば、警備開始時間を“午前10時00分”と指定された場合、午前10時00分にボディーガードたちはプリンシパルと合流し、そこから物理的な警護が始まります。しかしボディーガードたちは、この“午前10時00分警備開始”のため、もう少し早い時間、例えば午前8時00分に現場に集合し、使用車両や無線機等のチェック,警備開始場所周辺の安全確認,プリンシパル合流後の動線確認,行動スケジュールの最終確認,警備開始前ブリーフィングなど、様々な準備作業を行います。この準備作業の開始時間である“業務開始時間”は、警備規模や脅威の度合い,準備作業の量などで異なりますが、少なくとも、警備開始時間の30分前までにはすべての準備を完了し、いつでも警護を開始することができる“クリア&スタンバイ(準備完了&待機)”の状態とします。これは、余裕をもった準備を行うためだけではなく、直前の予定変更への対応や、プリンシパルが予定よりも早く行動を開始することなども想定した、“備え”の30分です。

先の“午前10時00分警備開始”の事例ですと、例えば下記のようなスケジュールとなります。

午前8時00分:業務開始(警護チーム集合),警護準備開始

午前9時00分:警護準備完了,警備開始前ブリーフィング

午前9時30分:クリア&スタンバイ(周辺警戒)

午前10時00分:警備開始(プリンシパル合流)

午前10時00分に警護が開始されるからといって、警護チームがその5〜10分前に集合していては、必要な準備ができません。警備・警護業務の成功の秘訣は、いかにしっかりとした準備を行い、様々な想定に対してどれだけ備えておくことができるか、です。“警備開始時間”と“業務開始時間”が異なるのはこのためです。

(2) 警備開始前準備作業

業務開始時刻に現場に到着したボディーガードや警護チームのメンバーは、その後、スムーズかつ安全に警護業務が開始できるよう、様々な準備作業を行います。この準備作業の目的は、警護業務開始後、『プリンシパルが置かれる環境をいかに安全にし、その状態を維持するか』であり、このゴール(目的)を見失ってはいけません。時に真面目な日本人は、作業を卒なくこなすことや、その作業を行うこと自体が、自分の行動目的であるかのように勘違いしてしまいがちです。警備業務内で行われる、ボディーガードや警護チームのすべての行動・作業は、最終的にひとつのゴールに向かっています。それは、プリンシパルのための『3Sの確保』です。つまり、“セキュリティ(Security)”“セーフティ(Safety)”“サービス(Service)”の3つを確保することで、包括的に警護サービスを成功に導こうとする行動です。

例えば、警備開始前準備の一つに、「プリンシパル合流後の動線確認」というものがあります。時間になり、ボディーガードがプリンシパルと合流した後、いかにスムーズに目的地に移動するか、またはスムーズに車両に乗せるか、など、合流後の円滑な行動のための確認を行う準備作業ですが、これは、「スムーズに移動させるための準備作業」ではありません。スムーズに移動させることが、結果的にプリンシパルの『3つのS(3S)の確保』に繋がるからこそ行う準備作業なのです。

警護業務では、プリンシパルの動きが遅くなればなるほど危険が増し、止まっている時が最も危険である、とされています。狙撃や誘拐,暴行などの行為は、動きが遅くなっている時や、止まってしまっている時に多く発生します。身体的な危害を加えられないような状況に於いても、例えば、しつこいファンやパパラッチに取り囲まれてしまう、などの状況もまた、プリンシパルの動きが遅くなってしまった時・止まってしまった時に発生することが多いのです。このためボディーガードは、プリンシパルの動きをできるだけスムーズにすることで、“セキュリティ”の確保に努めます。プリンシパルが車に乗る時や降りる時に、ボディーガードがドアサービス(ドアを開閉してあげる行為)を行うのも、ただの“サービス”ではなく、プリンシパルの行動をスムーズにすることで安全を確保しようとする警備行動のひとつなのです。

ただし、『プリンシパルが置かれる環境を安全にし、その状態を維持すること』が行動目的である以上、もし、スムーズに行動することが、逆に、安全の確保や維持に繋がらないようであれば、プリンシパルの行動をスムーズにしてはいけません。例えば、お年寄りで脚の悪いプリンシパルや、ハイヒールを履いた女性プリンシパルなどの場合、無理にスムーズに移動させようとすると、かえって転倒して怪我をしてしまうなど、セーフティ上の危険が増してしまうことに繋がります。「スムーズに行動させる」という“行為”そのものが目的になってしまうと、このような本末転倒な行動を取ることになります。なぜその作業が必要とされるのか、その行為の目的(最終ゴール)は何なのか、自分(たち)はなぜその行動を取る必要があるのか、など、常に“目的意識”“物事の本質”を考えて行動することが、ボディーガードには求められます。そしてその行動は、警備開始前準備作業の時から既に始まっているのです。


次回は《警護業務実践③ 警備開始》について紹介します。


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AISP/IBA国際ボディーガード訓練 http://blog.aisp.cc/

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