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ボディーガード 1/10 の法則

警護業務実践④ 1/10の法則

ボディーガードの世界には、【1/10の法則】という言葉があります。これは、『10回の脅威が存在するなか、そのうちの1回を護るのがボディーガードの仕事である。』という言葉に基づいた法則です。

これには2つの意味があります。

ひとつ目は、『10回の脅威(危険)が存在するなか、ボディーガードが護ることができるのは、そのうちのたった1回であり、それだけ脅威者(攻撃者)の方が有利である。』という【脅威者有利の原則】に基づいた意味です。

犯罪行為やテロ攻撃などの脅威が発生する際、その行動を起こす脅威者には、圧倒的な有利性があります。『いつ』『どこで』『誰を』『どんな武器を使って』『何名で』『どのように』攻撃するのか決めるのは、すべて脅威者側です。脅威者は、これらの決定事項に対し、しっかりと準備を整えたうえで、さらに自分たちの行為が成功する可能性が最も高いタイミングでその行動を起こします。つまり、準備も行動のタイミングも、すべてが脅威者に有利な状況で脅威(攻撃)は発生するのです。

そのような中、この脅威を受ける側(護る側)であるボディーガードが、プリンシパル(Principal: 警備対象者)を100%完璧に護るのは至難の業で、10回襲われる中、10回ともプリンシパルを護るのはほぼ不可能です。しかも、一度でも警護に失敗すれば、プリンシパルが命を落としたり、怪我をしたりしてしまう“被害”が発生してしまいます。

【1/10の法則】のひとつ目の意味は、『それだけ脅威者が有利である』ということを意味しています。

ふたつ目の意味は、『10回起こりうる脅威(危険)が存在する場合、そのうちの9回は未然に(事前に)防いでおり、どうしても防ぐことができなかった最後の1回をボディーガードは護るのである。』ということです。

前述したように、脅威者(攻撃者)側には圧倒的な有利性があります。この圧倒的有利性に対し、危険が起きはじめてからボディーガードが対処・行動したのでは、どうしても100%プリンシパルを護ることはできません。しかも、1回の失敗が命取りとなるボディーガードの仕事では、10回中10回とも護りきらなくてはならないため、“事後対処”だけでは到底太刀打ちできません。

そこでボディーガードは、情報収集や脅威評価,観察力や段取力,緻密で包括的な計画とマネージメントなどによって、できるだけ多くの危険発生の可能性を事前につぶしていきます。『危険が起きてから対処する』のではなく、『危険が起こらないようにする』というボディーガードの発想はここから生まれています。

しかし、10回起こりうる脅威(危険)のうち、10回とも未然に防ぐことができれば良いのですが、やはり人間は完璧ではなく、世の中に100%というものは存在しませんので、どんなに努力して危険発生の可能性を未然に防ごうとしても、残念ながら、どうしても発生してしまう脅威(危険)が10%ほど残ります。この『努力しても未然に防ぐことができなかった最後の10%(1割)を護る』のも、ボディーガードの責務です。

【1/10の法則】のふたつ目の意味は、『起こりうる10回の脅威(危険)のうち、9回は未然に防ぐ。』というボディーガードの“主たる責務”と、『どうしても防ぐことができなかった最後の1回もまた、しっかりと護りきる。』というボディーガードの“最後の責務”を表しています。

「身体が大きい」「腕力に自信がある」「格闘技経験がある」などといったボディーガードは、時に、この【1/10の法則】を無視し、『脅威者がきたら制圧すれば良い』『負けない自信がある』などの間違った考えで警護業務を行ってしまい、脅威者が複数で攻撃をしかけてきたり、高度な武器を使用してきたり、緻密な計画のもとチームで連携した行動してきたりした時に、まったく太刀打ちできず、プリンシパルを護ることができない=警護に失敗してしまう、という最悪の結果を生んでしまいます。

映画やTVドラマなどの影響から、一般的にボディーガードは、「強そう」「身体が大きそう」「闘っても負けなそう」というイメージがありますが、本来はそういう仕事ではありません。もちろん、【1/10の法則】を理解し、その職務の中でしっかりとした警護を行っている、「身体が大きく」「強く」「闘っても負けなそう」な本物のボディーガードも世界中には大勢います。しかし残念ながら、「身体が大きいだけ」「格闘技ができるだけ」「自信過剰なだけ」の“見せかけのボディーガード”も大勢いるのが現実です...。


次回は《警護チーム① PES(直近警護隊)》について紹介します。


AISP/IBA国際ボディーガード訓練


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