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警備業務手順4ステージ① 情報収集

身辺警護・要人警護業務を含むすべての警備業務は、依頼を受けてすぐに警備を実施できるものではなく、警備を実施するための準備などが必要となります。適正な警備を実施するためには、「何を護るのか」「何から護るのか」といったような情報と、「どのように護るのか」といった計画,そして警備実施に必要な準備と、実施中の調整・補正・改善などが必要となります。これらを時系列にまとめたものが【警備業務手順4ステージ】です。

警備業務手順4ステージ

ステージ1: 情報収集
ステージ2: 情報分析・脅威評価
ステージ3: 警備計画・警備準備
ステージ4: 警備実施・補正改善

これから数回にわたり、この警備実施に必要な4つの手順(ステージ)について紹介していきます。


【ステージ1:情報収集】

警備業務の依頼を受けてまず最初に行うのが、“必要な情報の収集”です。身辺警護・要人警護業務では、次の7つの情報を集めます。

①人に関する情報
②場所に関する情報
③時間に関する情報
④情報に関する情報
⑤ルーティーンに関する情報
⑥脅威に関する情報
⑦理由に関する情報

①人に関する情報

クライアント(Client: 依頼者・依頼企業)やプリンシパル(Principal: 警備対象者)に関する情報のほか、訪問先で接触する人物や、プリンシパルの家族・友人など、警護中に関わると思われるすべての関係者について、必要な情報の収集を行います。これらの情報は、この後の【ステージ2:情報分析・脅威評価】において、プロファイリングという分析手法を用いて警備業務に活かします。

②場所に関する情報

プリンシパルの自宅や滞在場所,職場や訪問先など、警護中に関わるすべてのロケーションについて必要な情報の収集を行います。場所に関する情報は、大きなエリア(例えば、プリンシパルの自宅が所在する地域など)の情報から収集し、徐々にその範囲を狭めていき、最終的にもっとも小さなゾーン(例えば、プリンシパル自身の部屋など)まで絞っていきます。これは、単に小さなゾーン(例えば、プリンシパルの自宅建物など)の情報だけを持っていても、その周辺の環境や地域の特性などの情報がないと、見落としてしまう脅威や、警備上警戒が必要なエリアに気づかない、などの問題が発生してしまうためです。

③時間に関する情報

プリンシパルが自宅を出発する時間,訪問先に滞在する時間など、具体的な行動スケジュールに沿った時間だけでなく、警備を実施する日,曜日,週,月,季節など、それぞれの特性を調べておきます。平日なのか休日なのか、月曜日なのか水曜日なのか,普通の日曜日なのか、それとも祝日なのか,普通の週なのか、それともなにか特別なイベントが開催される週なのか,夏なのか冬なのか、などの情報は、警備に様々な影響を及ぼします。

④情報に関する情報

ここでいう“情報”とは、既に公にされており、誰でも知りうる情報“Information”なのか、それとも、ある限られた人しか知り得ない情報“Intelligence”なのかを分類した上で、それらの情報が、どこまで公開されているのかを知る“情報公開度”と、どのような内容がどの程度漏洩している可能性があるのかを知る“情報漏洩度”について調べます。警護業務では、プリンシパルの身体を護る以上に、プリンシパルに関する情報を護ることが求められます。そのため、まずは、どのような情報があり、どのようなものが公開され、どのようなものが漏洩しているのか、を正しく知っておく必要があります。

⑤ルーティーンに関する情報

毎日の決まった行動パターンを“ルーティーン(Routine)”と言います。プリンシパルのルーティーンを事前に知っておくことは、警備上とても重要です。悪意を持った人物や熱烈なファン,しつこいマスコミなどが脅威として存在する場合、彼らの行動目的を達成するためにもっとも有効な方法が“待ち伏せ(Ambush)”です。この“待ち伏せ”が完璧に行われてしまうと、いくらボディーガードがしっかりとした警護体制をとっていたとしても、負けてしまう可能性が高くなります。なぜなら、相手は、しっかりとした準備を整え、心の準備をしてから行動できるからです。このため、警護業務では、様々な“待ち伏せ”を未然に防ぐ努力を行います。脅威者などが“待ち伏せ”を実行するためには、2つの方法しかありません。一つは、「事前に情報を入手すること」です。その日、その時間、その場所に、プリンシパルが現れるという情報を脅威者が事前に入手できると、相手は“待ち伏せ”ができるようになります。そのため、④で紹介した“情報に関する情報”をしっかりと収集し、事前に情報管理を徹底していきます。“待ち伏せ”を成功させるもう一つの方法が、「ルーティーンを知ること」です。プリンシパルの行動情報を得られなくとも、プリンシパルにルーティーン(行動パターン)がある場合、相手はそのルーティーン情報から、“待ち伏せ”の計画を作ることができます。
このためボディーガードは、プリンシパルの様々なルーティーンに関する情報を事前に集め、必要に応じて、これらのルーティーンを壊していきます。情報の管理とルーティーンの管理、この2つがしっかりとできていることで、脅威者たちは“待ち伏せ”ができなくなります。“待ち伏せ”ができなくなると脅威者は、プリンシパルとの距離を物理的に縮め、監視行動や尾行などの行動で、必要な情報を収集しようとします。この時に、プリンシパルのそばにいるボディーガードが、しっかりと周辺警戒を行うことで、これら脅威者の不審行動を見つけることができるようになるのです。
“待ち伏せ対策”が全くされていない状態で警護を行っても、その警護に意味はありません。ボディーガードっぽく見えるだけです。待ち伏せ対策のない警護はありません。

⑥脅威に関する情報

警護業務とは、プリンシパルに起こりうる様々な脅威に対し、対策を施すことです。そのため、当然ですが、脅威に関する情報も入手しておく必要があります。今どのような危険があるのか、ということだけでなく、過去にどのような危険があったのか、それは継続しているのか、現在はどのような危険があり、今後はどのような危険が想定されるのか、など、まずは時系列に沿ってインタビューで情報収集を行っていきます。クライアントやプリンシパル、関係者らからこれらの情報を収集したのち、ボディーガードのチームは、インターネットや書籍,聞き込みなどの手法を使って、さらに情報を集めていきます。ここで集めた脅威に関する情報は、次のステージである【情報分析・脅威評価】で、詳しく分析し、現実的に起こりうる脅威を洗い出し、その評価を行っていきます。

⑦理由に関する情報

ここでいう“理由”とは、なぜ警護が必要なのか,何が今回の依頼のきっかけになったのか,脅威が存在する場合、その脅威の原因や理由,脅威者が存在する場合、その人が脅威者となった原因や理由,訪問先への訪問理由,人と会う時の会う理由や目的など、依頼理由脅威理由行動理由などに分類して、クライアントやプリンシパルからその情報を集めます。これらの“理由”がしっかりと理解されていない状態で警護を行うということは、プリンシパルのライフスタイルを理解していないことでもあり、脅威を理解していないことでもあり、自分たちがなぜそのような警護体制を作るのか、という根拠もない状態で警備を実施するようなものです。すべての事柄には、“理由”と“原因”があります。そして、この理由と原因の先に“結果”があります。“襲撃”などの最悪の結果を生まないためにも、調べることのできる範囲で、できるだけ多くの“理由”と“原因”を探っていきます。

【ステージ1:情報収集】まとめ

これら7つの収集項目は、当然ですがすべてを完璧に集めることは不可能です。クライアントやプリンシパルに、十分なインタビュー時間を与えてもらえなかったり、十分な情報を提供してもらえなかったり、時にはクライアントやプリンシパルが必要な情報を隠したり、虚偽の情報を提供してくることなどもあります。ボディーガードは、「クライアントやプリンシパルはすべての情報を明かさない」ということを大前提に、可能な範囲で情報を集めていきます。

情報収集のステージでもっとも大切なことは、その情報の“信憑性”“正確性”です。昨今、インターネットを使えば、多くの情報が容易に入手できますが、その分、虚偽の情報(フェイク情報)も多く、情報一つ一つの信憑性や正確性を確認する作業の方にかなりの時間を取られます。たった一つの情報ソースからの情報を鵜呑みにすることなく、必ずその情報の裏取り(裏付け)をして、その信憑性・正確性を高める必要があります。

情報収集は、警備業務に入る前の最初のステージです。このステージでミスをすると、その後のステージすべてが無駄になり、場合によっては、現場のボディーガードたちを危険にさらすことになります。正確な情報の収集能力と、集めた情報の管理能力は、警護業務に必須の条件なのです。

次回は、『警護業務手順4ステージ② 情報分析・脅威評価』を紹介します。



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