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警備初日と第一印象

警護業務実践① 警備初日と第一印象

身辺警護・要人警護の依頼を受け、情報収集からアドバンス・ワークまで、実施に必要なすべての準備が整った後、いよいよ警備初日を迎えます。もちろん、一日だけで終了する業務もありますし、継続して何ヶ月〜何年も続く業務もありますが、この業務初日ほど緊張する日はありません。

(1) 第一印象

既に何度かご紹介しているように、身辺警護・要人警護業務では、クライアント(Client: 依頼者)やプリンシパル(Principal: 警備対象者),関係者などとの信頼関係がとても重要で、業務の質に直接影響を及ぼします。特に、この業務初日はとても重要で、警護員や警護チームの第一印象が悪いと、その印象を回復するのにとても長い時間と労力を要し、その間、間違いなく警備はやりづらいものとなります。仕事がやりづらいだけならば、努力によってどうにか改善できますが、良好な関係を築くことができない場合、クライアントやプリンシパル,関係者などからの協力を得ることができず、結果、警備上やるべきことができない・警備上やりたいことができない、という負の力が働きます。

“ボディーガード”というと、寡黙で余計なことは話さず、声をかけづらい雰囲気(オーラ)、という印象をお持ちの方も多いと思いますが、実際には、とても高いレベルのコミュニケーション能力を求められる仕事です。身辺警護・要人警護業務では、プリンシパルはもちろんのこと、クライアントや関係者,脅威者に至るまで、警護員が対応する相手は“人”であるため、様々な場面においてコミュニケーションが求められます。この時、相手に伝わるようなコミュニケーションを取ることができなかったり、正しい言葉遣いができなかったり、相手を不快に思わせるような言動があったりすると、信頼関係を築くどころか、逆に信頼を失墜させてしまったり、恨まれてしまうことなどもあります。

警護業務におけるコミュニケーション能力は必須で、人と接することが苦手な人や、コミュニケーションが苦手な人,自分の考えを上手にまとめることができない人,空気が読めない人,人の話しを聞かない人,自分のことばかり言う人,無駄な言葉が多い人,品のない言葉を発する人,正しい日本語が話せない人,選ぶ言葉や表現が幼稚な人,常に人を見下したような態度をする人,ビッグマウスな人(自身の能力以上のことをアピールする人),自己アピールの過ぎる人、などは、警護業務に向きません。優秀なボディーガードほど、謙虚で、品があり、話し上手で、聞き上手です。

ボディーガードの人間性や能力は、初日に見抜かれます。

警備業務初日 ― それは、クライアントやプリンシパルにとっても重要な日で、その日から付くボディーガードが優秀なのか,信頼できるのか,命を預けて大丈夫なのか,そばに置いておいて恥ずかしくないか,必要なスキル(能力)はあるのか,高い警備料金を支払うだけの価値はあるのか、など、とても厳しい目で警護員や警護チームを評価してきます。逆に、この日のこの厳しい評価に合格できれば、その後の警備はとてもやりやすいものとなります。身辺警護・要人警護業務においても、第一印象はとても大切なのです。

(2) 外見でなく内面を

世の中にはよく、これ見よがしに、鍛え上げた身体をアピールしたり、自分の強さを必要以上にアピールしたり、着用している高価な衣服やアクセサリーをアピールしたり、乗っている高級車を自慢したりする人がいます。もちろん、プリンシパルの中にもそういう人はいますし、ボディーガードにもそのような人はいます。しかし、そのような自己アピールは、自身が持つ何かしらのコンプレックスを隠すため、また自身を本来の姿よりも大きく見せたいという、劣等感を隠すための安易で幼稚な偽装行為であり、しっかりとした人間性を持ち合わせた人々には、すぐに見抜かれてしまいます。

プリンシパルの中には、身体の大きな筋肉隆々の黒人ボディーガードを付けたがる人たちがいます。彼らにとってボディーガードは、自分を護ってくれるセキュリティのプロではなく、自分を大物っぽく見せてくれる,VIPっぽく見せてくれる、高価な衣類やアクセサリー・高級車と同じ存在です。そのようなニーズに応えるためのボディーガードも大勢いますし、そのようなボディーガードたちを派遣する警護会社も多く存在します。ビジネスは需要と供給のバランスですので、これはこれで良いかもしれません。

しかし、本物のVIPたちはこれを極端に嫌がります。
以前、某国の王族の警護依頼が入った時、最初に言われたのが、「身体の大きな筋肉隆々な人はやめてもらいたい」「ちゃんと専門教育訓練を受けたプロを手配してほしい」というリクエストでした。
身体が大きいだけのボディーガードは、警護の専門教育訓練を受けていないことも多く、必要な警護スキルを持っておらず、周りの人たちに高圧的で、よくトラブルを起こします。品がなく、言動も粗雑で、近くにいるだけで不快で不愉快な思いをするだけでなく、そのような人がボディーガードとして自分に付いていることを本物のVIPは恥じるのです。

ボディーガードの世界でよく言われる言葉があります。

本物のVIPには、本物のボディーガードを。
偽物のVIPには、偽物のボディーガードを。

しっかりとした専門教育訓練を受けた本物のボディーガードたちは、セキュリティのプロとしての能力を持ち、そのことで自信が醸し出されます。わざわざ筋肉や高価な衣服,過度な自己アピールで自身を着飾る必要がありません。本物のVIPがそばに置いておいても恥ずかしくない、品行方正さや誠実さ,謙虚さやマナー,一般常識や高いコミュニケーション能力を持ち、すべての人々と良好な関係を築くことができます。優秀なボディーガードは、例外なく、高い人間性と道徳感を持ち合わせています。

警備業務初日は、外見だけでなく、内面を磨いたセキュリティのプロとして、良い第一印象を持ってもらうことが大切です。


次回は《警護業務実践② 警備開始前準備》について紹介します。


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AISP/IBA国際ボディーガード訓練 http://blog.aisp.cc/

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