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プリンシパル(警備対象者)

ボディーガードが護る対象となるのが、プリンシパル(Principal: 警備対象者・警護対象者)です。ボディーガードは、所属する組織や部署,会社の方針等で、警護の対象が異なってきますが、共通して言えることは、ボディーガードがプリンシパルを選ぶのではなく、“ボディーガードが選ばれる”という点です。
公的機関の警護であれば、法令や組織の上司などにより、警護内容に適正のある人物が担当ボディーガードとして選抜されます。民間であれば、プリンシパルやクライアント(Client: 依頼者)の意向によって、ボディーガードが選ばれます。そしてボディーガードは、自分が護りたい人を護るのではなく、仕事として、プロとして、どのような人であろうとも、護り抜かなくてはなりません。中には、断りたくなるプリンシパルや、やりたくない警護依頼などもありますが、プロとしてこの職業を選ぶ以上、相手がどのような人であろうとも、どのような依頼内容であろうとも、常に全力で仕事に臨むプロフェッショナリズム(プロ意識)が必要となります。

「人を護る」と一言で言っても、その「人」というのが多種多様で、その人の性格や年齢,性別や身体的特徴,政治思想や宗教思想,家族構成や交友関係,社会的地位や知名度,仕事の内容や趣味,傷病歴や持病の有無,警護に対する慣れや信頼、など、様々な要因でボディーガードの警護手法が変わってきます。人を護るための基本的な考え方やスキルは専門的な教育訓練を通して身につけることができますが、最終的にそのプリンシパルに適した警護を作ることができるかどうかは、ボディーガードの手腕と経験です。「十把一絡げ」な警護では、プリンシパルを護ることはできません。

多種多様なプリンシパルがいる中で、警護業務ではまず、プリンシパルを大きく6つのカテゴリーに分けて、その特性を考慮します。

① Dignitary (高位者)

対象:王族・皇族などのVIP,宗教指導者や聖職者,大統領や首相などの国の代表者,外交官や大使・大臣などの政治要人、など。
社会的地位が高いだけでなく、知名度もあり、プリンシパル個人に対する反感や敵意だけでなく、プリンシパルが所属や代表する国や組織,団体,グループなどに対する反感や敵意等からプリンシパルが狙われることもあります。他にも、社会的なインパクトを狙った悪意ある行為や、しつこい取材行為,野次馬,はずかしめなどが想定され、何かあった時の影響がとても大きい対象です。また、プリンシパル本人以外に、その関係者(家族や恋人・友人など)が狙われる可能性も高い警備対象で、包括的なセキュリティが必須となります。

② Judicial (司法関係者)

対象:裁判官,弁護士,陪審員,裁判証言者・目撃者、など。
日本でも、弁護士や事件の目撃者を狙った犯罪行為が時々起きていますが、海外では、犯罪組織が事件の目撃者や裁判での証言予定者を暗殺するなどの事件も起きています。裁判で証言されることで大きな損害を受ける犯罪組織やその関係者が行為者となるケースや、離婚調停裁判で負けたことを恨んで相手方の弁護士を攻撃する元旦那など、司法関係の事件は意外と多いです。

③ Military (軍関係者)

対象:将軍などの軍幹部,機密情報や特殊武器を取り扱う部署のリーダー、など。
軍は大きな権限を持っていることが多く、その幹部やトップが狙われることも多いです。軍の持っている大きな権限や特殊な情報等を狙った攻撃の他、敵国によるサボタージュ(Sabotage: 破壊行為)の一環として暗殺が行われることなどもあります。

④ Executive (企業要人)

対象:企業の会長や社長・役員などの企業要人、など。
企業間のトラブルや、乗っ取り,解雇されたことによる逆恨み,企業諜報活動(産業スパイ行為)などが原因になる他、身代金目的でプリンシパル本人やプリンシパルの関係者(家族・社員・友人など)を誘拐したり、ハニートラップからの脅迫など、企業要人には様々な危険が想定されます。

⑤ Celebrity (有名人)

対象:有名なミュージシャンや映画スター,タレント,スポーツ選手,ファッションモデル,ジャーナリストや作家、など。
著名人には多くのファンがおり、中にはノン・マリシャス・スレット(Non-Malicious Threats: 悪意なき脅威)として、プリンシパルへの好意が大きすぎるために迷惑行為をする者や、好意が自己中心的な解釈で逆恨みや妬みへと変化し、攻撃をしてくるケースも多数あります。他にも、スクープを狙うしつこいパパラッチによる尾行や盗撮,控室に忍び込んでプリンシパルの所有物を盗む行為,ステージに飛び上がって抱きつく行為,有名人の顔にパイを投げつけて目立とうとする人物など、様々な脅威が想定されます。

⑥ Personal (一般人)

対象:一般人
ストーカーや元恋人等による尾行や嫌がらせ,DV(家庭内暴力),反社会組織による嫌がらせや攻撃,恨みを持った相手からの嫌がらせなど、特定の相手から行われる脅威のほか、ひったくりや置き引き,詐欺や痴漢など、誰にでも起こりうる脅威まで、一般人であっても危険に晒されることがあります。


まずプリンシパルが、上記6つのうちのいずれに該当する対象者なのかを判断し、カテゴリー毎の警護の特性を理解します。その後、アドバンスワーク(Advance Work: 警護事前準備作業)と呼ばれる作業の中で、さらにプリンシパルに関する詳細情報を集め、現実的に起こりうる脅威を洗い出してから、それぞれの脅威を分析(脅威評価)し、警備計画に繋げていきます。

“何を護るのか”
“何から護るのか”

このふたつの情報は、すべての警備業務のスタート地点です。


次回は警護で行う“3つのS”を紹介します。


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