『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』

「女性アスリートは常に批判されている」。

 6月17日、18日にかなっくホール、19日~23日にはシネマ・ジャック&ベティで開催されるヨコハマ・フットボール映画祭2023で上演される『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』の中で印象に残る言葉がありました。それは米国サッカー協会への収入貢献では男子を上まわっているにもかかわらず、男子選手と同じ待遇を求めただけなのに「プレーできることに感謝すべき」で同じ待遇を求めるのは間違いであり、そもそも雇用主である協会相手に訴訟を起こすのはスジ違いだという批判が巻き上がったことに対し、「女性アスリートは常に批判されている」とため息交じりに語られた言葉。

 アメリカ女子代表チームはワールド・カップで4度優勝し、サッカー協会の収入では男子を上まわっているにもかかわらず、収入は低いままでホテル、移動手段などの待遇も大きく見劣りする状態が続いていました。そして、驚いたことに同一賃金同一労働「イコール・ペイ」は、大きく言えば前世紀1999年のワールド・カップ初優勝の時から求められていたんです。

 確かに、アイコンとなったミーガン・ラピノーなど一部は男子選手を上まわる収入得ている選手もいますが、世界の檜舞台でMVP級の活躍をみせた選手でも多くは苦しい生活を続けています。

 ミーガン・ラピノーの次に多く出演しているジェシカ・マクドナルドは毎年のように移籍しても年収は200万円程度で、息子エレミヤをベビーシッターに預けることもできず、練習の合間にオムツをかえるなど情けない思いを続けていたと語ります。そして、やっと生活が安定したのは住む家を開放してくれた家族が現れてからというつつましさ。

 息子につけた名前に由来する旧約エレミヤ書1:5「わたしはあなたを母の胎内に造る前から あなたを知っていた。 母の胎から生まれる前に わたしはあなたを聖別し 諸国民の預言者として立てた」(新共同訳)のタトゥーをみせてくれるジェシカは、イコール・ペイを阻むパターナリズム的な「父なる神」への母的な神からの静かな反論を試みているのかもしれません。

 一見、セレブなラピノーにしても兄は10歳で逮捕されるなど労働者階級のアメリカ家庭の現実を語ってくれています。

 それにしてもアスリートの40パーセントは女性なのに、メディアで取り上げられるのはわずか4パーセントという話しを聞いたことがあります。

 フォーブス誌が最も稼いだ女性アスリートのランキングを発表し始めた1990年以来、毎年そのリーダーはテニス選手となっていますが、この映画でも女性アスリートの「イコール・ペイ」を求めたビリー・ジーン・キングやセリーナ・ウィリアムスなど先駆者の話しも紹介されています。

 アメリカ女子サッカー代表チームは、同一労働なのだから男子チームと同一賃金を受け取ることができるという内容の団体交渉協定を米国サッカー連盟と締結することはできたのですが、実は先駆者だったテニスでも「一部のトーナメントでは、女性にはあまり報酬を支払わないことが文化となっている」という現実もまだあるようです。

 そうした見えない壁に対して23という素数(ワールドカップの登録選手数)で、絶対に仲間割れしないで立ち向かっていった選手には、ピッチ上でのパフォーマンス並みの拍手を送りたいと思います。

『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』上映スケジュール
6/17(土) 19:10-21:27
ゲスト:髙田春奈(WEリーグチェア)、能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN代表理事/FIFTYS PROJECT代表)、石井和裕(WE Love女子サッカーマガジン主筆)
6/22(木) 20:00-
シネマ・ジャック&ベティにて追っかけ上映

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