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『初歩からのシャーロック・ホームズ』

『初歩からのシャーロック・ホームズ』北原尚彦、中公新書ラクレ

 年末に公演予定の雪組公演『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル-Boiled Doyle on the Toil Trail-』(生田大和作)の予習をかねて、読んでみました。

 『ボイルド・ドイル…』は生田先生にとって二作目のホームズもの。

 作者のコナン・ドイルの前に“架空の存在にすぎない筈の”シャーロック・ホームズーが姿を現したら…という設定の物語らしいのですが、前作の『シャーロック・ホームズーThe Game is Afoot!-』の時は、それなりに読んできたのでわざわざ予習していくことないでしょう…とタカをくくって失敗したので、こんどはちゃんとざっくり予習しようと思って、宙組公演の劇評なども書かれていた北原尚彦さんの入門書を読んでみました。

 コナン・ドイル自身については、一通りは知っていましたし、ホームズもの以外でもチャレンジャー教授の活躍する『失われた世界』『地球最後の日』などは読んでいましたし、本来は歴史物を書きたかったというというも知っていましたが、改めて、ホームズもの以外の作品を数多く残していて、百年戦争時代のサー・ナイジェル、ナポレオン戦争時代のジェラール(『三銃士』のダルタニアンを思わせるガスコン生まれの剣士)などのキャラクターを生み出しているんだな、と。ドイルはキャラクー設定のうまい作家だったのかもしれません。

 そして最も凝ったのが心霊術というあたりは、生田先生の物語にも活かされたりして。また、ドイルはスポーツ好きで、ポーツマスAFCというサッカー・クラブでゴール・キーパーとして活躍していたというのは知りませんでした。ただし、当時のサッカーは労働者階級のスポーツだったため、A.C.スミスという偽名で試合に出ていたとか(p.171)。

 そのほか、日本語で「バリツ」と書かれている格闘技は、日本の武術とステッキ術を融合した「バーティツ Bartitsu」だったとかも知らなかったな。ずっと昔は単なる武術のスペルミスだとされていたから(p.37)。

 当時のロンドンで現在のタクシーの役割を果たしていたのが辻馬車で、乗合馬車はバスのようなものだったとかも、なるほどな、と(p.59)。

 The Game is Afoot!(獲物が飛び出したぞ)という台詞を口にするのは『シャーロック・ホームズの生還』の第十二話「アヴィ屋敷」だというのも忘れていました(シェイクスピアの『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』の引用)。

 ウィリアム・ジレットが演じて、以後のキャラクターを決定付けた無声映画『シャーロック・ホームズ』も今やBD化されたのを見られるということでしたが、Youtubeでも一部を見ることができて、ありがたい限り(p.151)。
 
 ブックガイドで紹介されていて、おそらく生田先生も読んでいるであろう『〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語』マティアス・ボーストレム、作品社なども読んでみようかな。

 とにかく肩が凝らず面白い本でした。

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