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『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』西田亮介

『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』西田亮介、日本実業出版社

副題は「17歳からの民主主義とメディアの授業」。著者は本来こちらをタイトルとして考えていたといいますが、今夏の参議院選挙でも10代は43.21%、20代では36.50%と投票率は低いまま(全体では55.93%)。こうした若い層に向けて、改めて投票や自由民主主義の価値などを平易に、しかもメリットやコストも含めてしっかり説明しながら語るという内容。

東洋経済書評欄の著者インタビューで「SNSは権力者の優位を強化し、告発のツールにはなり得ても監視はできない」「意見に偏りがあるとか、代案がないという批判を恐れるな」というあたりが面白かったし、日本全体で記者が全体で3000人減っており、権力監視機能が弱まっているという、新聞社への高い評価を前提とした指摘などが「バランスが取れているな」と感じて読むことにしました。

それにしても安倍政権から菅政権にかけて、公文書やデータの改ざんが平然と行われたのは、戦後政治の大汚点だったと思うし、なぜ日本社会がこうしたことに寛容なのか理解できませんが、参院選も結局は弔い合戦みたいな雰囲気になって与党が圧勝してしまったのは残念な限り(アベノミクスは戦後の経済政策で、所得倍増と並ぶ素晴らしい経済政策だったと思いますが)。そして、勝たせすぎたという意識が、現在の統一教会がらみの政権批判につながっているんでしょうが、3年間のフリーハンドを与えたことは後の祭り。

最初に《危機のときにも、政治や行政への関心や忠誠心が高まると言われています。旗下集結効果などと学説では呼びます。でもコロナ禍の日本では必ずしもそうなっていないのも興味深い》(p.3)という日本の政治風土から説き起こし《最近は「偏らない」ことに教育や若い人の関心が向いています。しかし、「偏らないこと」もまたある種の偏りを選択しています。そのことは忘れられがちです。本書はなるべく複数の議論を紹介しながらも、積極的に特定の立場を表明しています。多様な「偏り」こそ人間性の源》(p.6)なんだと批判そのものを肯定。さらに《多くの人が生活のことや仕事のことなどに集中できる社会は「幸せな社会」です。でも、自由民主主義の社会であるからこそ生じるコスト負担なしで、それを維持している国は歴史的にもほとんど見当たりません》(p.15)と、今ここにある自由民主主義の価値から語りはじめます。

《国によっては投票を「義務」と位置づけ、投票に行かないことに対して、罰則を課す国も少なくありません》(p.51)と投票価値を高く見積もり、それでも何か大きく変わるものではないかもしれないが《自由民主主義における政治はあくまで「皆で議論して定める」ことに価値を見出》し、《権威主義国家とか、独裁国家とか、そういった世界中の国々と比べてみると、確固とした自由民主主義というあり方自体が一つの貴重な価値》(p.57-)なんだ、と。

自民党の凄さについて多くの地方議会でも多数派を形成し、党の予定がホームページで公開されるなど勉強会の情報が一応公開され、朝から晩までいろんなことをやり続けている、なんてあたりや(p.95-)、PDFやExcelという形式にせよ、基本的な政府統計が継続して公開されていることも、それほど当たり前のことではないという指摘(p.112)も若い世代には貴重な情報だと思います。

個人的になるほどな、と感じたのは《自由とは、選択をしなければいけないということです。選択するということは、考えなくてはいけないということでもあります。だから選択できること自体が価値だと認識しにくいような状況下では、自由はコスト》(p.170)という流れからの《ぼくは、本当に豊かな社会とは選択肢が豊富にあって、その選択肢を実際に選ぶことができ、仮に選択を間違えた場合にもやり直すことができるような社会だと考えています。 多くの人が閉塞感を覚えるのだとしたら、日本の社会において選ぶことができる選択肢が少なくなっているのかもしれません》(p.175)というあたり。

また、ネットメディアの問題点は訂正記事などに熱心でなく、コストを意識するために品質管理がなされていなくて《玉石混淆で圧倒的に石が多いような状況が日本のネットメディアです。残念》という評価はクリアカットで納得的(p.211)。

著者の新聞社への評価は高いのですが《新聞社の経営が苦しいので、たとえば体力のあるIT企業が全国紙を買収するようなことがあるとおもしろいと思いますね。それで完全DXで復活させるとか。具体的には産経新聞や毎日新聞をYahoo!が買収してDXさせながら再生するとおもしろいですよね。まあ規模の割に利益率が低いので非現実的》と悲観的でもあります(p.246)。

最後のあたりに出てくる投票の価値の非対称性は面白かった。《ポイントは投票の価値は非対称的であることです。つまり一般的な有権者が体感できる利得という意味では、投票にはほとんど価値がありません。でも、政党と政治家は1票をめぐってしのぎを削っているわけです。だから彼らは票と票になる行為と機会をいつも求めています。彼らにとっては価値があります。有権者と政治家には、ものすごい非対称性がある》(p.326)と。あと《世論の反応や受け止められ方を分析して、コミュニケーション戦略を設計する専門家のことを「スピンドクター」などと呼》ぶというあたりとか(p.87)。

後で知ったのですが宮台真司さんが師匠というのは、なんか納得。若い世代向けへのお勧めですが『もういちど読む山川戦後史』は読んでみようかな、と。

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