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「カタールで日本が勝ち点4を持って三戦目に臨めば相手は韓国に敗れたスペイン」とトルシエ監督

10日まで開催されている「ヨコハマ・フットボール映画祭2022」の二日目、「サロン・ドゥ・トルシエ 言いたいこと全部言いますSP!」がかなっくホールで開かれ、2002年の日本代表監督フィリップ・トルシエが登場、「当時の日本代表選手はほとんどが国内でプレーしていたので毎月のようにミニ合宿を開き、1年で百人ぐらいの選手を試せたのはラッキーだった」「私はワールドカップ開催国の代表監督として、ほとんどサッカー大臣のような存在だった」「カタールでは日本がグループリーグで敗退するという予想が8割方だと思うが、ドイツといえども心理的なものが違う緒戦を引き分け、二戦目に勝ち、三戦目に勝ち点4を持って臨むことができれば、相手は日韓W杯で韓国に敗れたスペインだ」などとサッカーファンを前に熱く語った。

「サロン・ドゥ・トルシエ」はタレントの笹木かおりさん、サッカーライターの宇都宮徹壱さんの司会で進行されたものの、最初から「打ち合わせでも言ったが、サッカーは感情のスポーツで、私も感情的な人間だ。プランなどは関係なく喋りたいことを喋る」と宣言。

「日本代表監督になれたのは、私がフランス人で、98年大会にフランスが自国開催で優勝したというインパクトがあったから。もし無敵艦隊と呼ばれたスペインが優勝していたらスペイン人が選ばれていたかもしれない。また、当時、名古屋の監督として日本にサッカー哲学を伝えようとしたアーセン・ベンゲル監督とは一緒に監督講習も受けた古い友人で、『トルシエなら大丈夫』と太鼓判を押してくれたんだと思う。ここにいる若い人たちにも伝えたいが、人生はビジネスプラン通りには運ばない。出会いを大切にしてほしい」

「日本人は規律がしっかりしていて、人の話をよく聞くという印象だった。当時はU20も含めて、代表選考には3つのカテゴリー全てにディレクター、監督として関わった。当時、海外組は中田、稲本、小野ぐらいで、ほとんどの選手が日本国内でプレーしていて、招集も楽だったのはラッキーだった。日月火と三日間のミニ合宿を毎月のように開くことができて1年間で百人ぐらいの選手を見ることができた。また、若い選手には才能があった。1993年にJリーグが発足し、海外の有名な選手、監督を呼ぶことで若手の教育ができたのだろう。Jのクラブにも協力してもらったが、今のように60人ぐらいが海外でプレーしている現状とは大違いだった」

「(解任騒動について質問され)その前に言いたいのは、当時、私は監督以上の存在で、サッカー大臣のようなものだった。日本がW杯を開催するということは11人を選んでプレーさせるということだけではすまされない。世界中のサッカーコミニュニティをどう迎えるかなどの問題、スタジアム整備、交通アクセス、ピッチコンディションのあり方なども含めた巨大プロジェクトを成功させるという役割もあった。岡野さんや木之本さんとはプロ同士の話をしたが、契約は最初から2年だった。当時は無名監督とみられていたので、ベッケンバウアーやジーコ、マラドーナなどの有名人を監督として呼んだらどうだ、という話もあったろう。でも、『トルシエ・ジャパン』という名前をつけてくれて、横浜で開かれたキリンカップでピッチに途切れることなく「トルシエ・ジャパン」と大きな声を届けてくれたのはファンの皆さん。そのおかげで契約を延長することができた」

「日本のサッカーは知識レベルこそ高かったが、経験が少なかった。それが現れていたのが選手の決断力のなさ。リスクを犯して失敗し、それを批判されることを恐れる傾向が強かった。私は成功は勝利の原動力だと思うので、ミスをした選手とは『なんでミスをしたんだ』と話し合い、二度と同じようなミスをしないようにして再びチャレンジさせた。日本のマネージメントはリスト化。私はフィーリングで動く。ユースの若い選手に社会的な活動をさせたのも、壁を破って人間として成長してもらいたかったから」

「(中村俊輔選手を選ばなかった理由は?)いつもこの話しを聞かれる…選手としては評価していたが、スペイン合宿では1分も練習できず、練習試合にも出ることができなかったので三都主(サントス)を選んだ。代表23人のリストは3つのグループに分けられる。ベスト8までMAX5試合を戦うことを考え、そのための先発組は14~15人。残り1分しかない途中出場でも頑張って流れを変える選手は4~5人。ほとんどプレーできないかもしれないのが4人だ。中村俊輔を先発に使わないと、毎日試合『なんで使わないんだ』と会見で聞かれることになり、チームがもたない。選手は勝つために心も強くならなければダメだ。私はグループに柔軟性を求めた」

「カタールで日本は死のグループに入った。ここにいる皆さんでも8割はリーグを突破できないと思っているだろう。しかし、ドイツは1戦目だ。グループリーグの緒戦と3戦目は心理的なものが全く違う。それはドイツも同じ。しかも、今の日本はブンデスリーグでプレーしている代表選手が多く、コンプレックスもない。もしドイツと引き分けて2戦目に勝ち、勝ち点4を持って3戦目に臨むことができれば、相手は韓国に敗れたこともあるスペインだ」

「代表監督とは一人で決断しなければならない絶対的な支配者だ。檻の中でライオンを調教する調教師、オーケストラの指揮者、舞台の演出家ともいえる。ジミー・ヘンドリクスのような天才がいても、勝手に長いソロを演奏したら『ここはそういう場ではない』と言わなければならない。そのためには相手が認めざるを得ないオーラが必要だ。しかし、フィールド外では違う関係を持つ。サッカーは心を豊かにするものでもあり、サッカー文化を育てるのは重要だ。このイベントでも障害者のサッカー支援のためのTシャツが売られていたが、そうしたことによって、世の中さえ変えることができる」

なお、「ヨコハマ・フットボール映画祭2022」は6日から10日まではシネマ・ジャック&ベティ(中区若葉町3)で場所を移して行われる。入場料は映画上映1作品につき一八〇〇円。

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