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『経済評論家の父から息子への手紙』山崎元

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』山崎元、学研

 今年1月に亡くなられた経済評論家だった山崎元さんの最後の著書をKindle版で購入、読んでみました。

 東大の理系に合格した18歳の息子さんに宛てた手紙のうち、最後の経済的処世術みたいなアドバイスの部分を拡げて書き上げた1冊。新NISAで株式投資を始めたという方にもぜひ、これぐらい読んで、生前、著者が日本での普及につとめたインデックスファンドとは何かぐらいは勉強すると良いと思います

 著者の現代に経済・社会に対する見方は、生産手段(≒資本)の私有が許される資本主義経済においては、広い範囲の労働者から利益をピンハネできる「会社」の一部を権利として持つ資本家の立場が圧倒的に有利であり、株主になれば、将来の価値も手に入れることができる、というもの。

 《株式のリスクプレミアムは市場での株価形成の過程を通じて生じる。 以下、この事情を納得してもらおう。株式投資は、対象が高成長でも低成長でも同様に有望でありうる。 投資家が期待を託すべき相手は、「経済成長」ではなく、「市場の価格形成メカニズム」なのだ》(k.667、kはkindle番号)という視点もクリアカット。

 《資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。この点がよく分かったことは、今回この本を書いてみたことによる、父の個人的収穫であった。そして、利益を吸い上げる際に介在するのが「資本」であり、資本に参加する手段が現代では「株式」》(k.401)であるから、これからは昭和なリスクをとらないサラリーマン的な生き方ではなく、起業するか、ストックオプションで株式を得られる企業に入社するか、そうした企業に出資しろ、と。

 そうしたリスクをとる生き方が苦手な場合はインデックスファンドに投資し、《本当は教えたくないのだが、「絶対に損をしないお金」を別途確保しておきたい場合は、「個人向け国債変動金利型 10 年満期」にお金を置くと、低利回りだが安全で無難だ》(k.459)という実用的なアドバイスもついています。

 「オルカン」などのインデックスファンドは《現在、おそらく最善の運用商品が、運用資産100万円当たり年間578円以下の手数料で利用できるのだ。運用は、お金を増やそうとする行為だ。例えば、アクティブファンドに年率1%(100万円に対して1万円)もの手数料を払うことがどれだけアホかは、考えてみなくても分かるだろう》(k.554)と、証券会社が進める(個人的に詐欺にも等しいと感じる)アクティブファンドを切り捨てているのも心地良い。

 勉強会などの幹事には進んでなれ、そして場所を設定する幹事になった場合は、使用する店に必ず一度は行っておけなどのアドバイスも親身だな、と。

 《評論のコツは、自分の利害や好き嫌いを意識的に棚上げしてから、物事を眺めて、バランスの歪みを探すことだ。自分の損得や、生活実感、人や国の好き嫌いなどを棚上げするのは難しいが、慣れてくると面白くなる。君は、経済評論家にはならないだろうと思うが、伝えておく》(k.983)というのは、心にとめておきます。

 《自爆死するテロリストは、宗教に「洗脳」されて、「来世の幸せ」を信じて、自死をも 厭わずテロに及ぶと一般的に理解されるようだが、これは本当だろうか?  思うに、宗教の「効用」は、来世の幸福への期待になどあるわけではない。現世で仲間から得られる自己承認感にあるのではないか》《若者でも高齢者でもいい。孤独な人物を見つけたとしよう。彼(彼女)に「場」と「役割」を与えて、仲間内から評価されるような仕組みを作ると、いわゆるマインドコントロールはそう難しくなく可能なのではないか》(k.1059-)というあたりも面白かった。もう寿命が近いので炎上上等という気分が思い切って書いているのがすがすがしい。

 「私のモットーは、(1)正しくて、(2)できれば面白いことを、(3)たくさんの人に伝えることです」(k.1099)というのはいいな。ぼくも漠然と似たようなことを考えています(もちろん規模は小さいですが)。

 最後に、実際に息子さんに送った手紙で、本書の核になった部分は以下です。

《お金の稼ぎ方では「株式」に上手く関わることがコツになる。起業でも、ベンチャーへの参加でも、ストックオプションをくれる会社への転職でもいい。  私の時代は、出世したり専門家になったりして「労働時間を確実に高く売る」のが無難な道だったが、時代は変わった。株式性の報酬が有利だ。 「自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ」ことを目指す古いパターンよりも、「自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る」のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった。  仕事で株式性のチャンスに恵まれない場合は、インデックスファンドの長期投資が効率のいい株式リスクとの付き合い方になる。これは、凡人でもできるけれども、一見偉そうな他の投資よりも優れている。お金にも働いて貰うといい》(k.1196)

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