見出し画像

国際バカロレアとは? #02 〜IBの授業づくり 「探究」「概念」「教科をこえた6つのテーマ」〜

 IBが注目され、広まりを見せている背景には大きく2つがあります。

 英語・フランス語・スペイン語に限られていたディプロマ(IBの大学入学資格)の試験に、2016年から日本語が追加され、2015年の教育再生実行会議では、2018年までにディプロマ・プログラムの学校を200校に増やすという内容が盛り込まれました。   
 IBの指導法のワークショップの参加費を国が負担したり、IBを広めるイベントが各地で開催されたりするようになりました。国の後押しが加速したのです。
 そこには、IB校を増やし、その取り組みを参考にすることで、日本の学校改革・授業改革に役立てようとする国の意向があります。今回の記事では、IBの授業づくりの根幹をなす「探究」「概念」「教科の枠をこえた6つのテーマ」について解説します。

 2023年4月1日より海城中学高等学校校長、IB教育の国内第一人者として知られる大迫弘和さんは、著書で以下のように述べています。

・「探究」は方法です。「概念学習」は内容です。
・IBにおいて「探究」とは、生徒が新たな理解を得る目的として、問題を認識し、それを明確に提示し、それらの問題について問いを立てるよう促す学習方法であると考えられています。
・IBにおいて「概念学習」が行われる理由は ー IBが「世界標準プログラム」として作られたものだからです。世界標準のプログラムであるためには「世界のどこでも通じるもの」を内容としなくてはなりません。すなわちそれが「概念」になるのです。IBの概念学習はIBが世界標準プログラムであるために必然的に生まれた学習と言えるのです。

『アクティブ・ラーニングとしての国際バカロレア:「覚える君」から「考える君」へ』日本標準
大迫弘和(2016)


1.探究

 探究は、2022年から実施の新学習指導要領の改訂でも掲げられているキーワードです。特に高校では、「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「理数探究基礎」「理数探究」「理数探究基礎」という7科目が新設されました。その他、今までの「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に換えて導入されます。この科目は必修科目となります。

 総合的な探究の時間の学習指導要領では、生徒の学習の姿が上記の図で示されています。探究的な学習とは、日常生活や社会に生起する複雑な問題について、その本質を探って見極めようとする学習のことで、問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学習活動。その過程の中で、実社会や実生活と関わりのある学びに主体的に取り組んだり、異なる多様な他者との対話を通じて考えを広めたり深めたりする学びを実現することが大切とされています。

2.概念

 IBに取り入れられている重要な理論のひとつとして、リン・エリクソンの概念学習(Conceptual Understanding)があります。学習者は、概念のレンズを通して探究を進めます。
 特に教科の学習では、単元や内容ありきではなく、学ばせたい概念から指導案を練り上げて行い、指導を行います。そうすることで、逆向き設計のバックワードの授業デザインを意識できます。
 概念をバランスよく指導計画に配置していくことで、全人的な学びを構築することを目標としています。また、この概念は全教科に共通し、教科横断的な指導計画にも活用できます。

 3歳から11歳までを対象としたPYPのプログラムでは、7つの概念(2018年までは+振り返り)が定められています。

 1 特徴:Form(どのようなものか)
 2 機能:Function(どのように機能するのか)
 3 原因:Causation(なぜそうなのか)
 4 変化:Change(どのように変わっているのか)
 5 関連:Connection(どのようにつながっているのか)
 6 視点:Perspective(どのような見方があるか)
 7 責任:Responsibility(どんな責任があるのか)

 概念は質問の形にすると、オープンエンドな探究学習のツールとしてそのまま使用することができます。
 例えば、社会や算数について、具体的な問いを考えてみました。

社会

1. 特徴(どのようなものか)
  問い: この地域の文化はどのような特徴がありますか?
2. 機能(どのように機能するのか)
  問い: 法律が社会の秩序をどのように保つ役割を果たしているのですか?
3. 原因(なぜそうなのか)
  問い: この国の貧富の差はなぜ存在するのですか?
4. 変化(どのように変わっているのか)
  問い: 近年の都市化の進展によって、都市の生活はどのように変わっていますか?
5. 関連(どのようにつながっているのか)
  問い: 地域の歴史は現在の文化とどのようにつながっていますか?
6. 視点(どのような見方があるか)
  問い: 世界の異なる地域からのメディアが同じ国際ニュースをどのように報道しているかを比較し、それぞれの視点がどう違うのかを考察してみてください。
7. 責任(どんな責任があるのか)
  問い: 市民として、私たちには何に対して責任があると感じますか?

算数

1. 特徴(どのようなものか)
  問い: 立体図形の中で、球の特徴は何ですか。
2. 機能(どのように機能するのか)  
  問い: 足し算や引き算は、日常生活の中でどのように役立っていますか?
3. 原因(なぜそうなのか)
  問い: このデータの分散が大きい原因は何だと思いますか?
4. 変化(どのように変わっているのか)
  問い: この方程式で一方の変数が減少すると、もう一方の変数はどう変わりますか?
5. 関連(どのようにつながっているのか)  
  問い: 割合とパーセントはどう関連していますか?
6. 視点(どのような見方があるか)
  問い: この問題を解くために、どのような異なる方法が考えられますか?
7. 責任(どんな責任があるのか)
  問い: 数学的なエラーが現実の状況でどのような影響をもたらす可能性があると考えますか?」

3.教科の枠をこえた6つのテーマ

 また、探究の単元では、以下に示す、教科の枠をこえた6つのテーマを探究することで課題解決の力を養います。

開智望小学校 ホームページ『はじめての国際バカロレア』より

①私たちは誰なのか(Who we are)
②私たちはどのような時代と場所にいるのか(Where we are in place and time)
③私たちはどのように自分を表現するのか(How we express ourselves)
④世界はどのよう仕組みになっているのか(How the world works)
⑤私たちは自分たちをどう組織しているのか(How we organize ourselves)
⑥この地球を共有するということ(Sharing the planet)

 これらの「教科の枠をこえた6つのテーマ」は、1つのテーマについて2か月程度一定期間かけて取り組み、1年間をかけてすべてのテーマを学習します。 そして学年が1つ上がると、同じテーマについて今度は別の観点や切り口から探究します。同じテーマに基づいて前年度より高度で発展的な内容や題材に取り組むことで、系統的な学びを行うことになります。

 各教科(次回の記事で詳しく説明)、探求の単元それぞれでこれらの概念や教科の枠をこえたテーマに沿って学習を進めていくことが、IBの教育の軸となっています。

 次回の記事では、IBの教科の枠組みや、学習を通して児童生徒が獲得するスキルについて説明します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?