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すぐに正解が出ないことに向き合う力

  4年ほど前から生け花を習っている。習い始めて1年がたち、2年がたち、3年がたち、時間はどんどん過ぎるのに、自分の技術はなかなか向上しなかった。週に一度のレッスンで花を生けるたびに、自分が生けた花と、先生が生けた花を比べて落ち込む日々。先生にあって、私にないもの。考えても見つからない答えを探して、レッスン帰りはいつもうだうだと悩んでいた。


 そんな、数年考えても見つからなかった問いの答えが、21_21 design sightで開催されている㊙展で見つかった。

 この展覧会で見られるものは、絵画や建造物といった所謂完成品ではない。代わりに、作品が生まれるまでに描かれたラフスケッチや設計図、プロトタイプや模型、そして、直接作品に関わりはなくとも、クリエイターが日々残しているメモ書きやイラストなどが展示されている。それらが、参加クリエイター26名分、会場一面に並べられているのだ。

 1つ1つのラフやプロトタイプを見るだけでも、クリエイター達の几帳面で丁寧な仕事ぶりを感じることができる。けれど、それらが時系列で並べられたり、総量を一度に見せられることで、「優れた」と形容される人々が優れている理由を目の当たりにさせられる。彼らが優れているのは、素晴らしい発想や生み出された作品のためではなく、物事をよく見つめ、深く思考し、手を動かし、たった一つの正解を求める、その行為によるものなんだと。

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 この展示を見ながら、生け花のことを思い出した。そして今なら、先生と私の作品にあれだけの差が出る理由が分かる。それは、センスなんて言葉で片付けられるものではなく、圧倒的な手数と思考の差。先生は、自分が生徒としてレッスンを受けていた時も、花を生業としている今と同じくらい花を触り、花を見て、何度も花を生ける経験を積み重ねたそうだ。対して私は、月に3~4回のレッスンの時だけしか花に触らず、生けたものに指摘を受けたら、そこで落ち込んで終わりだった。どうすれば先生に近づけるのか思考を重ねることも、より良い作品を目指して訓練を重ねることもしなかった。

 私は「優れた」人ではないので、なかなか芽が出ないことに耐えられず、半年ほど前から生け花をお休みしてしまっている。けれど、正解を追い求める探求心と辛抱強さを携えて、もう一度、生け花に向き合いたいと思った。

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 ㊙展に行った後に友人と食事の約束があり、そこで展覧会で見たものについて話をした。それを聞いた友人は、

「ネタバレのようなことして、クリエイター達は大丈夫なのかな。」

と、とても心配していた。

 心配なんて必要ない。きっと、展覧会で展示されているような探究心があれば、ネタバレなんて見なくたって、とっくに別の優れた人になっているはずだから。


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