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アソシエーションの挫折

 池田信夫さんの「資本主義の正体 マルクスで読み解くグローバル経済の歴史」を再読してみたのですが、その中で、「アソシエーション」に関する解説が示唆に富むので、その抜粋を備忘録として残しておきます。

・アソシエーションは、資本家の専制を倒して労働者の共和制をつくろうという運動だった。その元祖は、ロバート・オーウェンである。

・労働時間を短縮したり職場環境を改善したりして工場の評判はよかったが、経営は順調とはいえなかった。労働者が経営に参加するのでモチベーションは上がるが、福利厚生施設などに投資が行われて資本が浪費されたので、出資者との紛争が絶えなかった。

・労働者自主管理が国家レベルで実験されたのが、ユーゴスラビアだった。ここでは企業の最高決定機関は労働者評議会で、いわば労働組合が取締役会をかねていた。

・しかし取締役会で日常的な意思決定ができないのと同様、労働者評議会がすべての経営を行うことはできないため、自主管理は形骸化し、結果的には単なる官僚機構になった。

・労働者管理は資本を労働者が共有する共同所有権であり、誰がコントロール権をもつかが不明なので、普通は最適にはならない。全員一致でしか投資ができないと、誰かが損をするような投資はできず、企業行動が過度に保守的になるからだ。アソシエーションでは資本蓄積ができないだけではなく、資本家が決めて労働者に命令する資本主義のメリットがなくなり、「決められない組織」になってしまうのだ。

・アソシエーションは、人々が現状を維持して平和に暮らすのには向いているが、戦争には弱い。それが歴史上のアソシエーションが、大きな組織としては全滅した原因である。

 この本を読まなければ、「アソシエーションって言葉は昔世界史の教科書で見たかな」という程度で職業人生を終えてしまったかもしれません。良い本を読むということは、膨大な知の世界にショートカットでアクセスし、それを自分が思考する際に参照する引き出しの一つに入れることなんだなと実感しました。

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