中国BL小説『殺破狼(シャポラン)』 第一章 日本語訳

初めにお読みください
※これは中国の『晋江文学城』というサイトで販売されている『BL小説・殺(杀)破狼』の私訳です。中国語の勉強のために訳したものをupしてます。翻訳の範囲は無料で公開されている部分のみです。素人の訳ですのでご了承ください。

『殺破狼』の設定⋯⋯古代中国を舞台にしたSF風ファンタジーBL

キャラクター
攻め⋯⋯長庚(チャングン) この一章では14歳。大人びた雰囲気の少年。かなりのイケメンだと思われる(ここではまだ容姿の描写はなし)
受け⋯⋯沈十六(シェン・シリュ)一章ではこの名前だが実は? 22歳ぐらい?目と耳がかなり悪い。今まで誰もみたことがないレベルの美貌の持ち主。



殺破狼(シャポラン)ー第一章ー

 国境近くの田舎町『雁回(ヤンフィ)』には不気味な場所があった。
 背の高い人ならば頂上を見ることができるほど低い丘で、幽霊が出るという噂がある場所だ。自然にできた丘ではなくて、大梁王朝が戦いに勝ったのがきっかけでできた。
 大梁王朝が戦いに勝ったのは十四年前で、その時に『玄鉄軍隊(ブラックメタル)』は北部の十八の蛮族(マンズゥ)を根こそぎ制圧した。兵士たちはこの村を通った時に、血に染まった鎧や兜を捨てていった。その鎧や兜が、長い年月の間に風雨にさらされて完全な荒れ地となり、今ではゾッとするような雰囲気の場所になってしまったのだ。
 丘は『将軍塚』と名付けられた。
 今、この将軍塚に10歳ぐらいの子供たち二人がそっと近づいている。日は沈み、あたりは真っ暗。丘には不気味な雰囲気が漂っている。
 二人の子供のうちの一人は背が高く痩せている。もう一人は背が低くて太っている。まるでお椀と箸のような組み合わせの子供たちだ。
 痩せている方は女の子の服を着ているけれど、よく見ると男の子だとわかる。彼の名前は曹娘子(カオニャンジ) 占い師が「長生きさせたかったら娘として育てよ」と告げたので、生まれてからずっと女の子として暮らしている。
 太っている子の名前は葛胖小(ジーパンシャオ)だ。肉屋の息子で、全身が分厚い脂肪に覆われている。
 幽霊が怖いので、二人は将軍塚に登ることはできずにいた。葛胖小のプクプクとした小さな手には 「千里眼」が握られていて、首を伸ばして将軍塚を見上げながら呟いた。
「大哥(兄さん)はまだ戻らないのかな? このままじゃ⋯⋯えっと⋯⋯こういう時、なんて言うんだっけ?」
「ほんとにあんたって、バカだよね! お尻の下に針を置かないと眠っちゃいそうだって言うのよ。ねえ、それ私に貸して」
 この偽の小さな女の子は親の言いつけ通りに「女の子」として振る舞っていたけれど、しとやかとはほど遠い。
「気をつけろよ! 千里眼を壊したら、父さんに肉団子にされる」
 千里眼は5匹のコウモリの模様が刻まれた小さな銅管だった。内側には透明なガラスの層が貼り付けられていて、十里ほど離れたところにいるウサギの性別すらもはっきりとわかるほど高性能だった。
 曹娘子は千里眼で星を見た。
「すっごい良く見える!」
「あれは暁の明星だよ。長庚(チャングン)ともいうんだ。大哥(兄さん)と同じ名前なんだ。沈(シェン)先生が教えてくれたよ」
「だから何よ? 自分だけが教えてもらったって威張る気? ⋯⋯あ、ちょっとまって。彼が来た!」
 剣を持った少年が、将軍塚からゆっくりと降りてきた。小太りの葛胖小(ジーパンシャオ)は幽霊の恐怖などすっかり忘れて走り出した。
「大哥!(兄さん) 大哥!」
 あまりに急ぎすぎたので、太った身体は倒れてコロコロと転がり、剣を持った少年の足元で止まった。葛胖小は土で汚れた顔を上げてニヤッと笑った。
「えへへ⋯⋯。大哥、俺、ここでずーっと待ってたんだぜ!」
 長庚(チャングン)は危うく子供を踏みそうになっていた足をゆっくりと戻した。丸々と太った葛胖小が土まみれになった姿は、つい笑い出したくなるほど滑稽だったけれど、年齢よりもはるかに大人びた長庚は笑ったりはしない。本当の兄のような優しさで助け起こすと、葛胖小の衣の汚れを払ってやった。
「気をつけないとダメだろ。どうしたんだ? なんでそんなに慌ててるんだ?」
「長庚大哥、大哥の父さんがもうすぐ戻ってくるだろ? ねえ、もう勉強に行くのは止めて俺たちとおいでよ! 『雁食』を取るために戦わなきゃ! あの猿どもをやっつけてよ!」
 長庚の父は実の親ではない。2~3歳の頃、未亡人となった母・秀娘は親戚を探してこの村に来た。けれどもその親戚はすでに引っ越してしまっていて、母子が途方に暮れている時に、官兵である徐百户と出会ったのだった。
 徐百户は今、周辺の蛮族の見回りと税の徴収に出かけている。部下の兵士たちと一緒に村に戻ってくるのは2日後くらいだろう。兵士たちは村に戻ってくるたびに、蛮族のチーズや干し肉を持って帰ってきた。そしてそれを道端に撒いたので、子供たちは歓声を上げてわれ先に食べ物を奪おうと争った。この兵士が道に巻く食べ物が『雁食』だ。
 村はいつも貧しく食べるものにも事欠いていたので、『雁食』を手に入れるために子供たちは必死だった。この子供達の戦いはいつしか『雁食戦』と呼ばれるようになった。
 葛胖小はこの戦いに味方になってもらうために、不気味な将軍塚まで長庚に会いに来たのだった。
 長庚は毎晩一人で将軍塚で剣の練習をしていて、その腕前は相当のものだった。雁回(ヤンフィ)は国境に面しているので、多くの軍関係者が住んでいる。その子供たちはすべて剣を習っていたけれど、長庚よりも強い子供は一人もいなかった。
 長庚は14歳ですでに30キロの重い剣を片手で持つことができた。けれども彼は自分の強さをよくわかっていたので、小さな子供たちの戦いや格闘に参加することはない。それでももし長庚が『雁食戦』に参戦したら、小さな猿のような村の子供たちは皆恐れをなして一目さんに逃げ出したことだろう。
 長庚は笑いながら言った。
「俺は子供じゃないんだから、『雁食戦』には参加しないよ」
 葛胖小は諦めない。
「大丈夫だよ、大哥! 沈(シェン)先生にはちゃんと話したからさ。先生は許可してくれたんだ。だから大哥もちょっとは遊ぼうよ!」
 長庚は取り合わずに、 両手を後ろに組んで、重い剣を足にぶつけながらゆっくりと歩き出す。
「待ってよ、大哥! 沈先生は十六叔(シリュおじさん) の薬を変えるって話してたから、もしかしたら薬草を買いに街に行ってしばらく帰らないかもしれないよ? ねえ、たまには楽しいこともしようよ!」
 これを聞いて、長庚は立ち止まった。
「十六(シリュ)はまた具合が悪いのか?」
「えっと⋯⋯。よくわからないよ。⋯⋯たぶん、その⋯⋯。違うんじゃないかな?」
「十六(シリュ)の様子を見に行かないと⋯⋯。おまえたちは早く家に帰れ。夕食に遅れたら、また殴られるぞ」
「え? ⋯⋯ちょ、ちょっと待ってよ!」
 葛胖小は叫んだけれど、長庚はあっという間に遠くまで行ってしまった。
 葛胖小は大きなため息をついた後で、横でぼんやりと立っている曹娘子を睨みつけた。
「なんで黙ってたんだよ!」
 曹娘子は真っ赤になっている。ほんの数分前のヤンチャな姿はどこにもなく、両手で胸を押さえて、「⋯⋯私の長庚。私の長庚は歩く姿も誰よりも素敵⋯⋯」と呟いた。
「はあ?」
 葛胖小には返す言葉も見つからなかった。
 三人が話している沈(シェイ)先生と十六(シリュ)叔というのは、長庚の隣に住んでいる兄弟のことだ。
 長庚がこの兄弟に出会ったのは二年前の12歳の時。長庚は村の城門からこっそり出て一人で遊んでいた。不幸なことに彼は迷子になり、オオカミの群れに襲われた。そこにたまたま通りかかったのが沈兄弟だった。
 沈兄弟はある種の薬で狼を追払い長庚の命を助けた。沈兄弟が定住先を探していると聞いた義父の徐百户は、義理の息子の命を救ってくれたことへの感謝の印としてただで家を貸しているのだった。
 沈兄弟の兄の名前は沈易(シェイ・イ)と言い、どうやら昔は都で学者をしていたらしい。まだ若いけれど全てを諦めたような顔をしていて、まるで隠者のような生活ぶりだった。村人は彼のことを先生と呼んでいる。医者としての「先生」書道家としての「先生」村の教師としての「先生」他にも「手の長い先生」という意味もあった。
 沈先生は、負傷者の世話から陣痛中の馬の助産までにあらゆることができた。昼間はたくさんの子供たちを教える寺子屋を開き、夕方になるとすぐに子供たちを追い払った。それから彼は袖をまくり上げて、蒸気機関、鎧、そして練習用ダミーなどのことをじっくりと考え始めるのだ。沈先生は世の中で一番忙しい『隠者』だった。
 沈先生が金を稼ぐことから家事まで全て一人でこなしていたので、弟の方はなにもする必要がなかった。弟の名前は沈十六(シェイ・シリュ)生まれた時から病弱だったので、家族が名前を付けなかったらしい。正月から数えて16日目に生まれたので、『十六』と呼ばれそれが名前になったらしい。
 十六(シリュ)は本当に一日中なにもしなかった。仕事はもちろん、勉強も、読書すらもしなかった。もし食事中に食卓の上の油瓶が倒れたとしても、それすら手を伸ばすことなく放っておいた。たぶん彼は人生で一度も労働をしたことはないのだろう。彼がしていることはぼんやりと歩き回ること、そして酒を飲むことだけだった。まさしく彼は役立たずで、褒めるところは一つとしてなかった。
 ⋯⋯その美貌以外は。
 十六(シリュ)の美しさは、村で最も年長の老人ですら『未だかつて見たことがない』と言わしめるほどのものだった。けれどもそれほどの外見の美しさを持っていたとしても、十六は怠け者であること以外にも大きな問題を抱えていた。彼は小さい頃に高熱を出し、そのせいで重度の障害が目と耳にあるのだ。彼の目は10歩離れればもう男か女かがかろうじてわかるぐらいしか見えなかったし、耳は大声で怒鳴ってやっと聞こえるほどだった。
 村人たちは兄弟の家の前を通るたびに、兄が弟に話しかける『怒鳴り声』をしょっちゅう耳にしていた。
 それでも彼ほどの美貌があれば、人々は彼にちやほやとするはずだった。けれどもこの雁回(ヤンフィ)村は非常に貧しかったので、たとえ美の女神が降臨したとしても誰も彼女に興味を示そうとはしないのだった。
 そんな村だったけれど、受け継がれた伝統はいくつかあり、その一つが『もしあなたが誰かに大きな恩恵を受け、お礼として彼らに十分な金銀を渡せる余裕がなかったならば、あなたは彼らを家族として敬い生涯面倒をみなくてはならない』というものだった。
 長庚(チャン・ゲン)は狼に食べられる寸前で命を助けられたので、当然、彼らに家族と変わらぬ情を示すことを誓った。
 兄の沈易(シェン・イ)は慌てて「その必要なない!」と長庚と親子の契りを結ぶことを拒んだけれど、十六(シリュ)は違った。長庚の前に歩み出ると、「我が息子よ⋯⋯」と彼に呼びかけたのだ。
 こうしてこの怠け者の十六は大きな魚を釣り上げたわけだった。たとえ十六  が残りの人生をぶらぶらと遊んで暮らしたとしても、息子である長庚は生涯にわたって彼の世話をしなくてはならなくなったのだ。
 長庚は自宅に着くと家の中には入らずに、そのまま庭を通り過ぎて、隣の沈兄弟の家に行った。兄弟の家には女性はいなかったので遠慮する理由もなく、声をかけることもなく門をくぐる。薄暗い庭に入っていくと薬草の匂いがして、かすかな埙(シュイン。オカリナのこと)の音も聞こえてきた。
 庭の隅では、眉をひそめた沈先生が薬を煎じている。学者のように見える若い男で、長衫(チャンシェン。ワンピース型の長衣)を着ている。まだ若い男だったけれど、眉をひそめた姿はまるで、風化したようにカサカサに乾いて見えた。
 埙(シュイン)の音は明かりのついた家の中から聞こえ、埙を奏でる優雅な影が窓辺に映っていた。演奏者の腕前はかなりひどく、長庚(チャン・ゲン)はどんなに考えてもその曲名がわからなかった。音は時々外れて曲調が浮つき、聞いている者をいらいらさせた。
 ⋯⋯葬式の伴奏にはなるかも。
 と、長庚は思った。
 沈易(チン・イ)は長庚(チャン・ゲン)に気がつくと顔を上げて微笑んだ。それから「神よ、どうぞ我らをお許しください。どうしてこんな音をお聞かせになるのですか、苦しくて仕方ありません⋯⋯」とふざけて言った後で、「長庚(チャン・ゲン)が来たぞ、十六(シリュ)!」と家の中に向かって怒鳴った。
 家の中からはなんの反応もなかった。たぶん聞こえなかったのだろう。沈易は苦い顔をした。
 けれども、たとえ聞くのが苦しいほどの曲だったとしても、演奏者が元気なことは間違いなかった。だから長庚は心からホッとして、沈易に聞いた。
「葛胖小(ジーパンシャオ)から聞いたんだけど、十六(シリュ)の薬を変えるの? また具合が悪くなった?」
 沈易は薬をかき混ぜながら答えた。
「大したことはない。ただの季節性のものだよ。あいつは繊細だから季節ごとに違う薬がいるんだ。そんなことより、十六がこっそり何かを買ってたぞ。明日の朝一番におまえに見せるって張り切っていたけれど、せっかく来たんだから、見せてもらっておいで」

二章につづく


訳した感想

殺破狼は専門用語が難しいという噂をネット上でチラホラと見かけたのですけど、読んでみた感想としてはたぶん『スチームパンク(SF)』が難しいのかな⋯⋯と、思いました。

一章では出てきませんが、徐々にスチーム(蒸気)を利用したアイテムが出てきます。でもそのアイテムの名前と雰囲気さえ乗り越えれば、すっごく楽しい義父(シフォ)受けだと思います。私実はSFも好きなので、そのへんの説明も含めて訳してみようかなあ(無料のとこまで)と思ってますけど、どこまで続くかな?

ドラマのメイキングの写真を見ると、琅琊榜っぽい衣装なので三国志ぐらいの時代背景だと思いますが、原作はもっと昔のイメージでした(衣服が漢服みたいに上下が別れてなくて、ストンとしたワンピースっぽい感じ?『衫(シェン)』がそれです)たぶんですが、作者様は『ゲド戦記(ル・グィン作の小説)』のイメージでお書きになったのではと感じました。かなり似てます。

舞台設定としては⋯⋯
国名は『梁(リャン)』漢民族と思われます。
主人公たちが住んでいる村は『雁回(ヤンフィ)』かなり貧しい辺境の村。
十四年前に戦ったという『蛮族(マンズゥ)』は外敵の意味で一章ではまだ名前は出てきませんでした。

主人公たちの名前にカタカナをつけるかどうか悩んだのですが、一応、つけました。でも多少の表記の揺れはあると思います。ピンインのカタカナ化って難しいですね!

この後の二章でやっと受けの『十六(シリュ)』が出てきます、めちゃめちゃ美人さんですし、長庚(チャン・ゲン)が見惚れた挙句にしでかすアレも楽しいです。なるべく早く訳したいと思いますが、いつかなあ⋯⋯。

あと、色々間違いは絶対にあります! それから意味を分かりやすくするために書き換えした部分(意訳? 悪訳?)ありますのですいません!! 

ぜひ皆様と一緒にドラマ『(殺破狼改め)烽火流金』で萌えたいという執念で訳しました!!

では、また!

注)殺破狼は烽火流金の名前でドラマ化されましたが、現在(2021/6/24)の時点では公開されていません。


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