中国BL小説『殺破狼(シャポラン)』 第三章 日本語訳

初めにお読みください
※これは中国の『晋江文学城』というサイトで販売されている『BL小説・殺(杀)破狼』の私訳です。中国語の勉強のために訳したものをupしてます。up範囲は無料で公開されている部分のみです。素人の訳ですので間違いあるかも(絶対あるね!)です。

設定⋯⋯古代中国を舞台にしたSF風ファンタジーBL
攻め⋯⋯長庚(チャングン) この一章では14歳。大人びた雰囲気の少年。かなりのイケメンだと思われる(ここではまだ容姿の描写はなし)
受け⋯⋯沈十六(シェン・シリュ)一章ではこの名前だが実は? 22歳ぐらい?目と耳がかなり悪い。今まで誰もみたことがないレベルの美貌の持ち主。
沈易(シェイ・イ) 25、6歳? 十六の兄ということになっているが⋯⋯ 沈先生


 第三章 ー名将ー

 雁回(ヤンフィ)の村はとても貧しかったけれど、長庚の家は村の中では裕福な方だった。
 長庚の母と再婚した徐百户は先祖から少しの土地を受け継いでいたし、徐百户自身も軍人だったからだ。だから家には家事や料理をする老婆も雇っていた。
 義父の夢を見たこの日の朝、長庚の部屋の扉を雇い人の老婆が叩いた。
「若さま、朝ごはんができましたからおいでなさいませ。お母様もお待ちですよ」
 熱心に書を書き写していた長庚は手を止め、丁寧に答える。
「母は静かな朝が好きだから、僕はこちらで頂きます。朝の挨拶とともにそう伝えてください」
 母と子はいつもこうだったので、老婆は長庚の言葉には驚かなかったけれど、心の中では本当に奇妙な母子だと思った。この家の母と息子が同じ食卓について食事をし、挨拶をかわし、会話をするのは義父の徐百户がいる時だけだなのだ。徐百户が仕事へ行くとすぐにまた、母と息子は見知らぬ他人よりももっとよそよそしい態度に戻る。
 長庚は正門すらも使わない。横の入り口から出入りして隣の家に行ってしまうので、もしかしたらもう何ヶ月も、母と息子は会ってもいないかもしれない。長庚が命を落としかねない重い病にかかった時すらも、母親の秀娘(シューニャン)は全く心配する様子を見せず、無関心にチラリと視線を投げただけだった。結局その時は、隣に住む十六が長庚を自分の家に運んで看病した。
 もしかしたら長庚は秀娘の実の息子ではないのかもしれないと勘繰ったりもしたけれど、二人の顔はとてもよく似ていて、血のつながりがあるのは間違いない。
 秀娘のように身寄りもないか弱い女性が、なぜ実の子でもない少年を手元に置いているのだろう? 老婆はそれが不思議でしょうがない。そんなことを考えながら老婆は朝食を長庚の部屋に運び、「今日ははやく帰ってくるようにと、お母様がおっしゃってましたよ」と伝えた。
 長庚は母親が何を言いたいのかすぐに理解した。今日は徐百户が戻ってくる日なので、仲の良い母息子を演じなければならない。長庚は老婆に頷いて朝食に手を伸ばしかけたけれど、パッとその手を引っ込めた。器の縁に長い髪の毛がついていることに気がついたからだ。
 老婆の髪は白いし、徐百户はまだ帰っていない。だとするとこの髪の毛は母親の秀娘のものだ。長庚にはちょっと変わった潔癖症を持っていた。⋯⋯母親が触ったものがだめなのだ。隣の義父の家では、義父の食べ残しでも全く問題なく食べることができたけれど、自分の家では母親の手が触れたものには一切口をつけない。
 老婆は長庚のこの奇妙な癖を知っていたので、黒い髪の毛を取ると笑顔で言った。
「偶然お母様の髪の毛が落ちただけでしょう。誰も器に触ってはいませんから、大丈夫ですよ、若さま」
 長庚は笑みを浮かべて穏やかな口調で答えた。
「今朝は隣の沈先生にちょっと聞かなきゃいけないことがあって⋯⋯。だからイフォ(義父)と一緒に食べます」
 さっきまで文字を書き写していた紙を抱え込むと部屋を出、裏口に下がってる重い剣を掴んで隣の家に向かった。
 沈兄弟の兄、沈易は鉄の鎧を解体している最中だった。袖を捲り上げて鎧に油をさしている。
 鋼鉄の鎧は軍の将校や兵士が持ってきたものだ。雁回(ヤンフィ)にはもちろん軍の鎧を修理する『长臂师』たちもいたけれど、修理をしなければいけない鎧が多すぎて手が回らない。そこで緊急を要する時には、技術を持っている村の住民に頼むのだった。
『长臂师(チャンベイシ)』というのは鉄製の鎧や機械を修理する人々のことで、火机(ダァー フゥオ・炎を出すバーナーの事)を使って作業をするメカニックだ。けれど一般の人々から見れば、散髪屋などとあまり変わらず、食うには困らないけれど高等な職業とは思われていなかった。
 沈易は学位を持つ学者だったのに、その彼がどうして『长臂师』の技術を持っているのかは誰も知らなかった。時間を見つけては重たい鎧を弄り回していただけでなく、この技術で金を稼いでもいたので、村人は学者らしくないと眉をひそめていた。
 明け方に10代の少年の夢に入り込んでしまった弟の沈十六の方はというと、長い足を投げ出してぼんやりと扉にもたれかかっていた。まるで体に骨が一本もないような姿だった。隣には空になった薬の器があり、片付けることもしないでそのまま放り出している。長庚に気がつくと身体を起こし、弱々しく手を振った。
「我が息子よ、酒瓶を持ってきてくれないか?」
 沈易が機械油で汚れた手を拭きながら、「こいつを気にするな。朝メシは食ったのか?」と聞く。
「まだ食べてない」
「十六、薬の器を片付けて、長庚に粥を炊いてやれ」
「え? なに?」
 十六は首を傾けて耳が聞こえない素振りで聞き返した。
 長庚はこの二人のやりとりに慣れていた。
「俺がやるよ、どんな粥にする?」
 これは聞こえたらしく、十六は眉を上げる。
「子供に作らせる気か? おまえがやらないのか?」
 いつも礼儀正しくて優しい沈易だったけれど、毎日繰り返される怠け者の十六との会話にうんざりしたのだろう、顔を顰めた。
「十六、おまえが聞こえないのは仕方がないが、何度約束しても守らないのはどういうことだ!」
「え?」と十六は首を傾けてから長庚を見上げた。「あいつは何を叫んでるんだ?」
 まるで心底そう思っているかのような口調だった。
 長庚は言葉も出ない。
 十六は実に便利に聴覚が不自由なことを利用するのだ。
「沈先生が言ってるのはさ⋯⋯」と言いかけた長庚は、十六の揶揄うような視線に一気に朝方の夢を思い出してしまった。喉がカラカラに乾いてくる。必死でなんでもない風を装った。
「はいはい、お二人は何もなさらなくて結構です⋯⋯、ったく、大人げないな」
 沈十六はこの朝はまだ酒を飲んでいなかった。なのでほんのわずかな良心が残っていたのだろう、微笑んで長庚の手を取った。少年の力を借りて立ち上がると、親しげに彼の頭を撫でて、つまずきながら台所へ行った。
 驚くことに十六は本当に朝食作りに取り掛かった。仕事をしている十六は百年に一度あるかないかの珍しい姿で、鉄に花が咲くぐらい驚くべきことだ。
 長庚が急いで追いかけると、彼のイフォ(義父)は乱暴に米を掴んで鍋に放り込み、水を入れ、水滴をあたりに飛び散らかせた。十六はなんと「体を曲げ(こんな労働を彼がすることは滅多にない)」2本の指で鍋の中の混ぜて米を洗い、濁った水を捨てると大声で言った。
「沈易、交代だ!」
 沈易は沈黙で答える。
 十六は卓上の酒瓶に手を伸ばし、頭を後ろに傾けて一口飲んだ。酒瓶を取る彼の動きは滑らかで正確だった。こういうのを見ると、もしかして十六は本当は目がはっきりと見えているのではないかと疑いたくなる。
 沈易は負けを認めた。もう無意味な議論をするつもりもなく石鹸で手を洗うと台所に急いだ。鍋を沸騰させ、十六のせいで散らかった台所を片付ける。
 朝食の準備が整うまでの間、長庚はさっき書いていた文を出して沈易に見せた。沈易がそれを読んで感想を言い終わったら、紙をかまどに入れて火を起こす燃料にした。
「上達したな、長庚。努力の結果がちゃんと出てる。残りのこれは⋯⋯安定侯顾昀(アンディンホウ・グー・ユィン。安定侯爵のグー・ユィン)の長亭帖を書き写してるのか?」
「うん」
 隣でうとうとしていた十六がさっと顔を上げると、表情を硬くした。
 沈易はうつむいたまま続ける。
「安定侯は15歳で軍を引き継いで、彼の最初の戦いは輝かしい勝利で終わったんだ。17歳で指揮官になり、皇帝の命令で西へ遠征した⋯⋯。軍隊が西凉のそばを通過しているときに、古代の歴史的な遺跡を発見して、そのかつての王朝の名残りに感動した安定侯が書いたのが『長亭帖』なんだ。それを侯のまわりにいたごますり連中が石碑に刻んだ⋯⋯。もちろん顧昀の字は鴻儒陌森先生に教わったものだからいいところもあるけど、これを書いた時はまだまだ若い⋯⋯。長庚? どうして古帖を使わずに現代の人を選んだ?」
 長庚は練習で使った紙を丸めてかまどに投げ入れながら答えた。
「みんなが言ってるのを聞いたんだよ。玄鷹と玄甲、それに玄騎ってすごいって。三つの隊をまとめた三大玄鉄大隊が北の蛮族と戦って勝ったって⋯⋯。その三大玄鉄大隊は若い安定侯に引き継がれていて⋯⋯だから、思ったんだ、そんなすごい三つの隊を率いてる総司令官の字って、どんなんだろうなって。別に安定侯の字が好きだったわけじゃないよ」
 沈易はぼんやりと粥の鍋をかき回していた。視線はどこか遠くを見ているようだった。しばらくして、ゆっくりと話し出した。
「安定侯は性を顾(グー)名を昀(ユィン)⋯⋯字は子熹(ヅゥシィー)という。先帝の皇女と侯爵の一人息子だったけれど、両親は侯がまだ幼い頃に亡くなった。帝は彼を哀れに思われて、宮殿に連れて行った。だから彼は宮殿で育ったんだ。帝は安定侯に爵位もお与えになった。本当なら遊んで暮らせる身分なのに、彼はわざわざ砂嵐が吹き荒れる西武へ行った⋯⋯。英雄になる必要なんてないのに⋯⋯。俺にはわからないけれど、たぶん安定侯は頭が悪いんだな」
 沈易の白く長い衣の裾は機械油で汚れていて、古びた前掛けを首にかけていた。この家には気を遣ってくれる女性もいなかったので、前掛けは元の色がわからないぐらい汚れてだらしなかった。
 けれども沈易の顔は違う。
 鼻梁は高く、笑ったり話したりしていないときの彼の顔は、畏敬の念を起こさせるほどに禁欲的にすら見えた。その彼の瞼が突然震えた。
「前侯爵が亡くなったあと、玄鉄大隊の大きな功績があった者は上に対して反発し、さらに朝廷では媚びへつらう者ばかりが増えていて⋯⋯」
 その時、今まで一言も口を開かなかった十六が突然割り込んできた。
「沈易⋯⋯」
 かまどの前にいた二人は同時に振り向いた。十六は扉の横の小さな蜘蛛の巣をじっと見つめていた。酒を飲むほどに白くなる顔だった。酔いが顔に出ないのだ。気持ちの変化はわずかに視線に現れるだけではっきりとは見て取れない。
「でたらめ言わないでくれたまえ」
 十六は低く言った。
 沈兄弟の間に遠慮はなく、いつもならば弟は兄を軽くみていたし、兄は弟のあらゆる気まぐれに応えていた。朝から晩まで大声で議論していたけれど、二人の仲はとてもよかった。
 長庚は今まで十六がこれほど真剣に、そして堅苦しく話すのを聞いたことがなかった。いつもと違う状況だということはすぐに察したけれど、意味がわからずに眉をひそめた。
 沈易の口元が一瞬引き締まったけれど、長庚の視線に気がつくと笑みを浮かべた。
「少し言いすぎたな⋯⋯。だけど宮廷を侮辱したわけじゃない、ただの世間話だ。なんとなく言ってみただけだ」
 長庚はぎこちない雰囲気を感じて、話を変えようと口を開いた。
「北蛮族の鎮圧から十年後が西への遠征だろ? その間の十年間は、誰が総司令官だったの?」
「誰もいなかった」沈易は答えた。「北の蛮族と戦ったあと、玄鉄大隊は寂れて行った。兵士たちの中には去る者もいたし亡くなった者もいた。年配の軍人たちはそれをひどく残念がっていたよ。十年の間に鎧や他の武器もすっかり錆び付いてしまった。だけど数年前に突然西で反乱が起こったんだ。宮廷は他に解決策を持っていなかったので、安定侯が名乗りをあげた。そして、玄鉄大隊の総司令官になったんだ。だから、安定侯が隊を引き継いだと言うよりも、新しく精鋭部隊を作り上げたと言った方が正しい。もし機会が有れば今の安定侯の字をお手本にしてごらん」
 長庚は驚いた。
「先生は侯爵の本を見たことがあるの?」
 沈易は笑った。
「たまにだけれど、市場にも二、三冊見かけることがあるよ。本物かどうかはわからないけれどね」
 粥が炊き上がり、沈易は白い蒸気を上げる器を食卓に並べ始めた。長庚は礼儀正しい少年だったのでもちろん手助けをした。器を持って十六のそばを通っていた時、十六が肩を掴んできた。
 長庚は同い年の少年たちよりも成長が速く、もうすでに若いシフォ(義父)の背に追いついていた。だから、頭を少し傾けるだけですぐそばから十六の瞳を覗き込むことができた。
 十六は目は特徴的で、桃花眼と呼ばれる大きくて美しい形をしていた。けれどもそれがはっきりとわかるのは十六が何も見ようとしていない時だけで、焦点を合わせようと目を細めてしまうと、瞳の奥深くに潜む、どこまでも深く暗い雲だけしか見えなくなってしまう。
 思いがけずに十六の桃花眼を正面から見つめてしまった長庚は、心臓がドキドキと激しく打ち始め、慌てた。普段は使わない『イフォ(義父)』という言葉を口にして、
「イフォ⋯⋯。どうしたの?」
 と聞いた。
 十六は軽い口調で話し始めた。
「子供は子供らしくしてろ、長庚。英雄なんてつまらないぞ、最後はみんな悲劇だ⋯⋯。家があって食べ物があったら十分に幸せだろう? 金が少々足りなくても、働き詰めでもいいじゃないか」
 沈十六という男はいつもふざけたことしか言わなかったし、真面目な話をすることは滅多になかったけれど、この言葉を聞いた瞬間、長庚は頭から冷水をかけられたような気がした。
 十六自身は病弱で目はほとんど見えず耳も機能していない。だから人生の計画や野心はないだろうし、決意を秘めるなどということももちろんないだろう。けれどもわざわざ若い者の意欲を削ぐようなことを言うなんて⋯⋯。
 馬鹿にされたような気がして、長庚は苛立った。
 ⋯⋯あなたは毎日ただウロウロしているだけじゃないか。毎日稼いで食べさせているのは誰だ? ったく、言うのは簡単だよな。
 そう思いながら十六の手を振り払い、ボソリと言った。
「ほら、粥は熱いから危ないよ。そこをどいて⋯⋯」

四章につづく


感想

 美貌以外取り柄のない病弱でわがままで怠け者の十六が、実はめちゃめちゃかっこいい伝説の総司令官?⋯⋯というとこに萌えました!! 長庚は夢精した後なので、そりゃあドキドキするよねえ、この時まだ14歳ですからww 


※ここから、この後の展開に少し触れてます。


 この夢・精は一回目でこのあとまた夢に見ちゃいます。2回目はどうやら本当に無体なことをシフォ(義父)にしちゃう夢らしいですww  
 一章からこの三章までは『夜から次の日の朝まで(間に夢精シーン挟む)』でしたが、次の四章から十一章までは『とてつもなくハードな半日』です。大型戦艦(空を飛びます)を見学に行った長庚と十六のシーンから始まり、人混みで十六を見失う、母親の秘密が明かされる、長庚が実は誰かがわかる、そして十六が正体を明かして長庚の前にひざまづく(かっこいい!)などなど怒涛の展開です。間に激しいバトル(狼族登場!吠えます!!)が入ります、すっごいです!乞うご期待!!(いつ訳せるかな?)
 この十一章ぐらいまでが、この物語の序章らしいです。その後に都に行ってから、そして長庚が青年になってからが本編らしいです。たぶんドラマだと、十一章ぐらいまでが二話目ぐらいに短くまとまるのかも?

では、また!

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