中国BL小説『殺破狼(シャポラン)』 第四章 日本語訳

初めにお読みください
※これは中国の『晋江文学城』というサイトで販売されている『BL小説・殺(杀)破狼』の私訳です。中国語の勉強のために訳したものをupしてます。無料で公開されている部分のみ訳していきたいと思ってます。素人の訳ですので間違いあるかも(絶対あるね!)です。

設定⋯⋯古代中国を舞台にしたSF風ファンタジーBL
攻め⋯⋯長庚(チャングン) この一章では14歳。大人びた雰囲気の少年。かなりのイケメンだと思われる(ここではまだ容姿の描写はなし)
受け⋯⋯沈十六(シェン・シリュ)一章ではこの名前だが実は? 22歳ぐらい?目と耳がかなり悪い。今まで誰もみたことがないレベルの美貌の持ち主。


第4章 ー巨鸢鳶ー

 沈兄弟の家は、「食事の時は静かに、寝る時も静かに」といった決まり事に厳しくなかった。だから朝食をとりながら、沈易は長庚に『大学(儒教の教えの本)』について教えていたけれど、だんだん話がずれていって『冬場にいかにして鋼鉄の鎧を維持するか』の講義が始まってしまった。
 沈易は雑学に詳しくて、どんな話題でも説明することができた。馬の病気と予防法について話だした時などは、耳の遠い十六ですらうんざりして「もう黙れ」と止めたほどだった。
 朝の講義を終えた後、話足りなそうな顔で器を洗っていた沈易が聞いた。
「こらから鎧の修理をしないといけないんだ。ちゃんと整備してないせいで錆だらけだ。そのあとは薬草を買いに行く予定で、葛胖小(ジーパンシャオ・一章に出てきた子供二人の太った方)たちは今日の勉強は休みだけれど、長庚は? 何か計画があるのか?」
「俺は将軍塚に行って⋯⋯」
 剣の練習をする、と言いかけた時に、十六がさっと壁にかけてある長庚の剣を取った。
「我が息子よ、巨鸢を見物に行こう!」
「シフォ(義父)、俺ちょうど今、剣の練習をするって言いかけた⋯⋯」
「ん? なに?」
 ⋯⋯ああ、またこれかよ。
 巨鸢が戻ってくるのは毎年のことだった。長庚は何か目新しいことがあるとも思えなくて断ろうとしたけれど、その前に十六は長庚を半分引きずるようにして外へ連れ出した。
 この夏の朝、気温はぐんぐん上がり人々は薄手の衣を着ていた。十六が全身で長庚の背中にしがみついてくるので、ほろ苦い薬草の香りが長庚のまわりに漂う。
 今朝方の夢の中と同じ香りだ⋯⋯。
 長庚は急にいたたまらない気持ちになった。義父から体を離そうと頭を下げ、手で顔をおおってくしゃみをするふりをする。
 十六がにっこりと笑ってからかい始めた。
「誰かがおまえのことを噂してるんじゃないか? もしかしたら、王さんのところの可愛い丸顔の娘じゃないか?」
 長庚は顔を顰めた。
「イフォ、息子に言うべき言葉じゃないよ」
 十六は気にした様子もなくニヤニヤ笑う。
「父親になったことがないからわからないなあ⋯⋯。けど、まあ、これからは気をつけるよ」
 彼と会話をしようとすると誰でもが、かなりイライラとさせられる。長庚はこの下品な男の手を自分の肩から振り落として先を歩き出した。沈易が家の庭から声をかける。
「薪を割る仕事があるから、早く帰って来いよ、十六!」
 十六はさっさと歩き続けながら、「え? 聞こえないなあ⋯⋯」といつものようにぬけぬけと言い放った。十六に押されて長庚は早足になる。
「シフォはいつから聞こえなくなったの?」
 十六は答えずに薄く笑った。
 長庚の家の門の前を通っていた時、軋んだ音を立てて門が開いて、中から白い衣の女性が出てきた。彼女の顔を見た途端、長庚の表情が消える。まるで冷たい水を頭から被ったように、彼の体の熱量がすべて消え、目は窪み活気がなくなった。
 女性は長庚の母、秀娘だ。
 若くはないけれどそれでも十分に美しい。朝日の当たる姿はまるで繊細な筆さばきで描かれた絵のようで、たとえ未亡人だったとしても、こんな田舎に嫁いでくるには似つかわしくない姿だ。
 秀娘は襟元を整えると、両手を合わせて丁寧な礼をした。
「十六様⋯⋯」
 沈十六は沈易に対しては態度が悪かったけれども、女性に対しては違った。礼儀正しく、正面から秀娘を見ないように少し横を向くと、丁寧で洗練された挨拶を返した。
「徐夫人、私はこれから長庚を遊びに連れていくところです」
「ご面倒をおかけいたします⋯⋯」
 秀娘はわずかに微笑んだ。長庚に小声で、「紅を買ってきてちょうだい」と、柔らかいすぐに空気に消えるような口調で言った。長庚が答える前に十六が答える。
「徐夫人、私が承りました。ご安心ください」
 長庚は黙ったまま、義父の「聞こえる、聞こえないの規則性」について考えていた。十六は兄の沈易が言った言葉は全く聞こえない。長庚や他の人の言葉は聞こえたり聞こえなかったりする。だけど、綺麗な女性の場合はたとえその声が蚊が鳴くような微かな声だったとしても、はっきりと聞こえるのだ。
 十六は怠け者なだけでなく女好きなのだ。『金玉外、败絮(外は金でも中身はボロ)』という言葉そのもののような男だった。

 村に『巨鳶』が戻ってくると、村人は見学に集まった。人が集まると商売をしようという輩ももちろん出てきて、「雁子集」と呼ばれる市場が立つ。
 十六は他の人間の気持ちなど考えたことがないような男だったので、義理の息子の不機嫌な様子には全く気が付かずに、ワクワクと市場を歩き回る。
 長庚の方は少しも気が抜けない。目と耳が不自由な義父が次から次へと店々を回るの後を追いかけ続けた。
 ここ数年、世の中は不安定で人々は貧しかった。市場で売られているのもほとんどは地元の農民が作ったものだ。特別に美味しいものがあるわけではなく退屈な場所だ。貧困の理由は戦争で、人々が国に納める税金は年々重くなっていっていた。
 大梁はまず北を征伐し、さらには西も傘下に治めた。負けた部族からの貢物が届くはずなのに、なぜこんなに貧しいのだろうか? 民がどんどん貧しくなっていく理由は誰にもわからない。
 長庚は本当に退屈していた。十六がさっさと帰る気になってくれたら、沈易が鎧を修理する手伝いができるのに⋯⋯。
 十六は塩豆を買うと、歩きながら食べ始める。長庚の前を歩きながら、ひょいと豆を後ろに投げると、豆は正確に長庚の口の中に入った。
 不意をつかれて口の中を噛んでしまう。「痛ッ!」と叫んで十六を睨んだ。
「花は散ってもまた咲くことができるが、人の若さは二度と戻らないっていうだろ? 楽しめよ、長庚」
 十六は前を向いたままそう言った。信じられないほど白く、細く、美しい指が一粒の豆をつまんで太陽にかざす。何もしたことがない若者の手だった。書物を持つべき手が、黒い豆を摘んでいるのがひどく不釣り合いに見えた。そんな手の持ち主、十六は世の中の全てを知っているかのような口調で続けた。
「この豆をご覧、長庚。大人になれば自分が若かった時の時間は、この豆のように小さくてあっという間に消えてしまったって気がつくよ。その時にはもう取り戻すことはできないんだ、ただ悔やむだけだ」
 長庚は黙っていた。十六が何を言いたいのか全くわからない。毎日無駄な時間を過ごしている男が、こんなことを話すなんて⋯⋯。
 その時、村を囲む城壁のそばで人々が歓声を上げ始めた。ほとんど見えない十六ですら、遠くから『巨鳶』が下りてくるのがわかった。
 『巨鳶』には無数のヒレが付いていて、そこから白い蒸気が一斉に吹き出している。下から見上げる『巨鳶』はすっぽりと蒸気に包まれ、まるで空から大きな綿雲が落ちてくるようだ。
 しばらくすると、その白い煙の中から巨大な戦艦が姿を表し始めた。戦艦の正面には生きているように精巧に作られた八つの龍の頭がついていて、蒸気の雲を切り裂きながら堂々たる姿で進み続ける。
 沈十六は一瞬驚いて、それから耳をすました。耳たぶの血のように赤く美しいホクロが輝く。眉をひそめると低い声で言った。
「今年の巨鳶はどうしてこんなに軽いんだ?」
 彼の声は、雷鳴のような『巨鳶』の爆音と群衆の歓声にかき消される。すぐそばにいた長庚ですら、十六の言葉は聞こえなかった。
 小さな竹かごを握りしめた子供たちが、『巨鳶』の兵士たちが投げ与える菓子や食べ物を手に入れようと、押し合いながら前へ移動していく。
 村を囲む城壁の上には、将校や兵士たちの隊列が急いで出てきた。『巨鳶』の到着を知らせる兵が、『咆哮』の後ろに立ち命令を待った。『咆哮』は大きなラッパで、城壁に横たわるように配置されている。青銅の錆が花模様の彫刻を施したように浮き出ている。その後ろにいた兵は大きく息を吸うと、『咆哮』に向かって話し始めた。反対側から出る兵士の声は何十倍にも大きくなって、村の隅々まで響き渡る。
「雁、帰還! 運河、開けー!」
 上半身裸の兵士たちが二列に並ぶ。鍛え上げられた筋肉が盛り上がり、兵たちは力を込めて巨大な木製の車輪を回していった。山のような車軸がギシギシと音を立てて回り始めると、連動した多数の歯車も動き出し、城楼の下の大通りがゆっくりと割れていく。ついには雁回(ヤンフィ)の村の地下深くを流れる深く暗い河が現れた。
 『咆哮』から低く大きな音が出て村中に響き渡り、『巨鳶』も同じく『咆哮』で応えた。そのすぐ後に無数のヒレから炎が上がり、白い蒸気が吹き出した。
 着陸の準備は整った。
 一回目の“雁食”が始まり、空からチーズや食べ物が落ちてくると、子供たちは我先に飛び出して袋に飛びついた。『巨鳶』は河の中央、見物人たちの目の前に誇らしげな姿を見せつけるようにしてゆっくりと着水した。
 巨大な戦艦は厳かで、冷たい鉄の体からは殺気すら漂っている。艦が鳴らす汽笛は悲しげで恐ろしく、まるで何千年の間に戦いで命を落とした兵士たちの魂が目覚め、一斉に叫び出したようだった。その声に共鳴したかのように、雁回(ヤンフィ)の村全体が震えた。
 『巨鳶』が暗い河を進み、水面を切り裂いていくと、艦の中から兵士が合図を送った。
「火を落とせ!」
 戦艦の二つの翼の炎はすぐに消えた。あたりには、爆竹を鳴らした後のような焦げ臭いにおいが残る。戦艦の龍の飾りは別の時代の象徴のようで、悪魔的な雰囲気を醸し出していた。
 群衆の中にいる長庚は、じっとその姿を見つめ続けた。もう何度も経験したことのある『巨鳶』の帰還だったけれど、こうして目の前で見ると戦艦の巨大さに圧倒された。
 北部の小さな村の戦艦がこれほどだったら、大漁の国軍である三大玄鉄大隊はどれほどの規模なのだろう。小さな村の片隅に住む少年の長庚には、どんなに頑張ってもその姿を想像することはできなかった。
 『巨鳶』がゆるゆると水路を移動して近づいてくると、多数のヒレから出た熱波が長庚の顔まで吹き込んできた。長庚は無意識に腕を伸ばしながら、
「戦艦が着陸したよ。ここは人が多すぎるから、少し後ろに下がった方がいい」
 と声をかける。
 けれども、手には何も触れない。
 驚いて振り向くと、長庚の厄介なシフォが消えていた。

第五章に続く

感想

この小説「殺破狼」は中国の古代を舞台にしたスチームパンク(SF)風ファンタジーだと思うのですが、スチームパンクも中国古代もなかなか想像が難しいですww ドラマが始まるとイメージも固まると思うのですけど⋯⋯。そこで、写真を貼ってみました!

まずは『鋼鉄の鎧(よろい)』です。
沈易お兄ちゃんが修理しているのがこれですね。六章からはこの鎧が大活躍なのですが、原作では顔を覆う部分を開けるとシューっと白い蒸気が吹き出します。ドラマではどうなってるのかな?(メイキングの写真です💕)

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続いて『巨鳶』が降りたってきた城楼です。古代の中国では、万里の長城のような壁が村を囲んでいて、要所要所にこういう城楼があるんですね。日本は城壁文化がないから(九州にはあった)なんとなくわかりにくいです。ここがブワッと開いて水路が出てきて、そこに戦艦が降り立ったのでしょうか? スペクタルですねww ドラマでは間違いなくCGでしょうか?(中国風景写真から)

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戦艦は全く資料がないのですが、下の写真は『スチームパンク』のマニアの方が作った模型です。 拾ってきました。 「2枚の羽と炎と蒸気が吹き出す無数のエラ」って言われてもよくわからない⋯⋯。龍の頭が八つあるそうです。ドラマでは戦艦もCGでしょうね、楽しみです!

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山河令がWOWOWに8月に来るそうですね! 殺破狼もがんばれー!!

次回の五章は「必死で十六を探す長庚くん」です。めちゃくちゃ健気⋯⋯。もうこれからずーっと彼は健気なんですよお! それでもちゃんと攻めちゃうからさすがです、頑張れ長庚くん!!

では、また!

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