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渡辺一樹選手インタビュー④〜渡辺一樹選手について〜

※はじめに:このインタビューの動画をYouTubeにアップしておりますので、ぜひそちらもご覧ください!

https://youtu.be/swuWUnumoWA


渡辺一樹選手Twitter: https://twitter.com/kazuki__26


渡辺一樹選手instagram: https://www.instagram.com/kazuki__26

渡辺一樹選手YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCjjaBlQFdcygbF6-FKgp4OA



こんにちは、Ami.Uです!


この記事は、主に日本国内のレースでご活躍されているヨシムラスズキモチュールレーシングの渡辺一樹選手にインタビューさせていただいた内容を文字起こししたものです。
大変お忙しい中、このようなインタビューに快く応じてくださった渡辺一樹選手、マネージャー様、本当にありがとうございました。

このインタビューは
全日本ロードレース選手権について

鈴鹿8時間耐久ロードレースについて

ヨシムラスズキモチュールレーシングについて

渡辺一樹選手について(今回)

の4弾に分けて公開させていただきます。

今回はその第4弾、「渡辺一樹選手について」。今週末鈴鹿サーキットで開催される、全日本ロードレース選手権最終戦のMFJ GPのJSB1000クラスにスポット参戦する渡辺一樹選手ご自身について教えていただきました。ぜひ最後までお読みください!



Q1.バイクに乗り始めたきっかけとプロを目指したきっかけを教えてください

 自分の親がモトクロスのレースをやっていたのでバイクというものが身近にある環境だった、というのが一番大きいです。上に兄弟が2人いるのですが、その2人もバイクに乗っていました。小学校4年生くらいの時に小さいバイクに少し乗らせてもらい、そこで「あ、こんなに楽しい乗り物があるんだ」と思ったのがスタートです。正確には覚えていないのですが、その時乗ったのはQR(注1)より少し大きいギア付きのバイクだったと思います。危なっかしいスタートをして、見ていてとても怖かったというような話をされたことがあります。土の上のレースの方が身近だったので、最初に乗ったのはオフロードバイクでした

 プロを目指したきっかけというのは、正直すごく難しいです。自分の中でも「この日からプロを目指し始めた」という明確な日付が決まっているわけではないので。ミニバイクに1年半くらい乗って、そのあと大きいサーキットでロードレースを始めたのですが、意識し始めたのはそのくらいからですね。まだその頃は「プロになろう」というより楽しくバイクに乗るのがメインでしたが。

(注1)QRはホンダが製造していた子ども用の50ccのオフロードバイク。小さな子どもが初めてバイクに乗る時に選ばれることが多い(筆者が初めて乗ったバイクもこのQR50でした)。


だいたい何歳くらいでロードレースを始めたのですか?

 16歳ですね。14歳くらいからミニバイクに乗り始めて、最初は駐車場みたいなところでギアの変え方やクラッチの使い方から覚え始めました。その後16歳で筑波選手権に出始めました。


筑波からのスタートだったのですね。

 そうですね、筑波が出身のサーキットですね。関東圏から一番近い大きなサーキットで、僕の出身の山梨県からも一番アクセスが良いので。未だに筑波がホームコースだという意識がありますし、初優勝、初表彰台など、なにかと節目になっているサーキットでもあります。色々な思い出が残っているコースですね。



Q2.ライダー人生で一番思い出に残っているレースはどのレースですか?

 色々な思い出があるので1番を決めることは正直できませんが、一つ挙げるとすると筑波選手権の最後のレースですね。GP250(注2)というクラスに出ていて、翌年から全日本に上がることが決定していた時でした。この頃、筑波でラップタイム1分を切るというのが一つの目安としてあったのですが、まだそれができていなかったんです。この頃は1日で予選と決勝があって、最後のレースということで気合をめちゃくちゃ入れて走っていたのですが、それまでの練習でも予選でも、なかなか1分を切ることができなくて。予選では何周目かで転倒してしまって、そのまま予選が終わってしまいました。トップタイムではあったのですが、1分は全然切れなくて、納得できないまま決勝に行きました。決勝も本来であれば結果を残すことがメインですが、あくまでもタイムというものを追いかけていたら、レース前半でまた転びました。バイクのダメージがそんなになかったので再スタートしたのですが、そのとき何故か「まだ勝てる」と思っていたんです。普通だったら一回転んだら終わりなので、どういう考えをしていたのか未だによくわかりませんが。再スタートして、またラップタイムを追って走っていたらまた転びました。だから1日に3回転んだということになりますが、すごく必死だった1日でしたね。その時は周りにもすごく支えられました。予選で転んだ後、ヤマハのサービスの方やチームの色々な人に手伝ってもらいながらバイクを直して…というのはすごく印象に残っています。

 それ以外でも、勝ったレースとか、自分がJ-GP2クラス(注3)で全日本チャンピオンを取った時など、どのレースも思い出に残っています。

(注2)GP250は2ストローク250ccのバイクで競われていたクラス。全日本では2009年に開催終了。

(注3)J-GP2は4ストローク600ccのバイクで競われていたクラス。全日本では2010年に設置され、2019年に開催終了となった。


筑波の最終戦の話は、この間のヘレスでのマルク・マルケス選手(注4)のような感じだったのでしょうか?

 心理的な状況で言うと近いかもしれません。マルケスが実際どんな心理で走っていたか僕はわかりませんが。焦ると言うか、多分違うスイッチが入るんですよね。結果どうこうではなく、「やれること全部やったろう」みたいな心理的状況になるのかなあ、と僕は想像しています。「必死」っていうワードが当てはまるようなスイッチなのですが、他のことを全部忘れちゃうような感じです。必要な部分であると同時になってはいけない部分でもあり、難しいところです。

(注4)今年のMotoGPクラスの開幕戦、スペインGPで首位走行中にコースアウトし順位を大きく落としたのち、怒涛の追い上げを見せて表彰台圏内までポジションを戻すが、レース終盤に転倒して大怪我を負った。



Q3.普段はどのようなトレーニングをしているのですか?

 今年はコロナの影響でイレギュラーなことがたくさんありましたが、実は今年から改めてトレーナーさんをしっかり付けてトレーニングをやり始めました。これまでもトレーニング自体は当然してきていましたが、自分1人でやっていたので、明確な目標を持ってトレーニングをしているか、と言われると割とぼんやりした感じになってしまっていました。今年、色々なきっかけがあって、体づくりというもののしっかりとした方向性が見えてきたので、今はトレーナーさんに協力してもらいながらトレーニングをしています。


具体的な方向性はどのようなものなのですか?

 耐久レースによりフォーカスしたもの、という言い方になります。バイクに乗る筋肉というものがもちろん必要になるのですが、それをより耐久力重視で付けていく形になります。長時間戦うことを考えながらトレーニングをしています。


そこはまたスプリントレースと違うのですね。

 短い時間のレースだと、気持ちで何とかなっちゃう部分も結構あるんですよね。全日本のレースは45分~50分くらいなのですが、耐久レースはより長い時間集中していかなければなりません。そのためには、体力が十分だと足りないんです。十二分にないと、長い時間常に集中力を保つのが難しくなることがあります




Q4.レースの時のルーティーンは何かありますか?

 ルーティーンは、あることにはあります。他のライダーと、ルーティーンのタイミングややることなどを話したことがあるのですが、割と他のライダーがやるルーティーンは緊張をほぐして、「これをしたから自分は大丈夫」というふうに考えるためにやるものが多いです。でも自分は、どちらかというとテンションを上げるためにルーティーンをやります。音楽を聴いたりするほかにもいくつか細かい動作があります。過去に冷静すぎる状態でレース直前まで行ってしまったことがあって。シグナルが点いて初めて「あ、やっべ、レースじゃん」ってスイッチが入ったんです。「それはやばいな」と思い、今は自分を緊張させて、「もうレースだよ」っていうテンションにさせるためにルーティーンをやっています。


聴く音楽はいつも同じですか?

 毎回必ず同じ曲を聴いています。何の曲かは内緒ですが(笑)。




Q5.渡辺選手にとってのレースの魅力を教えてください

 とにかく僕はバイクに乗るのが楽しくてレースをしているみたいなところがあります。この「バイクに乗るのが楽しい」という気持ちは、バイクに乗っている人なら皆同じだと思いますが。僕の場合、それをたまたまレースやサーキット走行という形でより楽しめる環境にいるので、レースも楽しんでやっています。


仕事というよりも楽しいという気持ちの方が大きいですか?

 もちろんしんどいこともありますが、そこだけは忘れないようにしています。


それが「速く走りたい」という気持ちに繋がるのでしょうか?

 そうですね、モチベーションの根幹になっています。なので、自分の中で何となく「あ、バイクに乗るのが楽しくないな」と思ったらレースを続けるのは難しくなると思います。




Q6.渡辺選手にとってのレースを一言で表してください

 「音楽」というのが自分の中ですごく当てはまるというか、共通点が多い言葉かな、と昔から思っています。以前ヘルメットのデザインに五線譜を入れていたことがあるのですが、バイクに本当にうまく乗れている時って、楽譜にのった音をひたすら忠実にフォローするよう感じなんです。正確にこのタイミングで何をする、という意味で、やるべきことを淡々とやっていくと、一周がとても楽しく、音楽のように美しくなります。そういうことにつながってくるという意味で、「音楽」というのが自分の中でしっくりきます。あまりこういう表現は他で聞いたことがありませんが。「音を楽しむ」と書く、というところも似ていると思います。バイクに乗ることを楽しむ、ということを大事にしているので。


このタイミング、このポイントで何をする、というのを忠実に行うという…。

 そうですね、でもその中でも、本当に乗れている時は何も意識していません。演奏しようと思ってしていないんです。ただ無意識の中にその世界が広がっている、みたいな状態に入ることがあります。いわゆる「ゾーン」のような話なのかもしれませんが、そういう時は違う世界にいるような感覚ですね。




Q7.渡辺選手が考える、ライダーに必要な資質は何ですか?

 そうですね、それがあるんだったら教えて欲しいくらいですが(笑)。自分の話になるのですが、僕は秀でた才能があるからバイクで速く走れているというわけでは正直無いと思っています。なので、昔から考えることをよくしていました。他の人の場合が分からないので、あくまでも自分の中での基準ですが。バイクに乗っていない時は、どうやったら速く走れるか、ということやバイクの仕組みについて考えたり調べたりすることが多くて、そういうところが今になってもすごく活きています。ただ感覚に頼って走るのではなく、道具を介して速く走るスポーツなので、その道具の仕組みを理解してその道具を使っていく、ということはすごく大事なことだと思います。


ではメカニック的なことも色々考えたりしているのですか?

 それこそサスペンション(注5)やタイヤなどといったところも、あくまで概念的に理解しているという感じではありますが、考えています。さすがに「ここをこうしたい時はどうすればいいのか」というところは専門のエンジニアの方にお任せするのが1番ですが。でも、基本的な部分というのを理解できていないとエンジニアさんともそういう話をできませんし、逆に理解できていれば、自分から「ここもしかしたらこうすればこうなったりしませんか?」というような聞き方もできるので。ただ単純に今起きている事象を伝えるだけで解決策が出てくる、というとやっぱり相手頼みになってしまいますが、そこを少しでも自分で理解できていればアプローチが変わってくると思いますし、そういう意味でも理解しておくのは大事だな、と思います。

(注5)サスペンションはバイクの車体とタイヤをつなぐパーツ。バイクの振動や衝撃を抑えるために重要となる。




Q8.ライダーという職業の楽しいところと大変なところを教えてください

 さっき「楽しむことを忘れないようにしている」という話をしたばかりではありますが、正直苦しい部分が90%とか、98%とかで、しんどいことの方が多いんです。それはバイクに乗ること以外の部分で、例えば環境作りだったり、道具を使ってレースをする上で、どうしても結構たくさんかかってしまうお金の面だったり、というものです。昔からずっとそういうところに苦労してきているので、そういうところは苦しいと感じることが多いですね。ただ、プロライダーを名乗るのであれば、そういった環境を整えるということも、やっていかなければいけない仕事の一つです。

 それでも、逆に残りの数%、純粋にバイクに乗るということは本当に夢のようなことです。数十人、時には100人を超えるような人数の人が、ただ自分を速く走らせるためだけに働いてくれている、という環境でレースができるというのは本当にやりがいがあって楽しいですし、それが結果という形に現れた時というのはとても嬉しいです。それはほんの数%の部分かもしれませんが、その数%の重みというのは、それまでの90%の苦しさをひっくり返しても有り余るくらいのものだと思います。


その環境というのは渡辺選手の努力の賜物ですね。

 自分としては、1人でできていることというのはとても少なくて、周りの人に支えられている部分が大きいです。親には今でもお世話になっていますし、それ以外にもミニバイク時代や、ロードレースに上がった直後から長いことサポートしていただいているスポンサーさんもいます。やっぱりそういう人たちがいないとなかなかここまでやってこられなかったという実感はすごくあります。なので環境というのは、自分でも整えようとはしていますが、それ以上に周りの本当に色々な人が協力してくれて今があるという感じです。


レースを走るのは1人ですが、周りに本当に色々な方がいらっしゃるのですね。

 レース自体も正直1人ではないです。本当に最後の部分、サーキットに出てからの数十周というのは1人になりますが、それはリレーをつないでいる最後の一手というだけで、その前がいないとその場にはいれません。




Q9.何か常に心がけていることはありますか?

 楽しむことっていうのは何よりも大事にしたいところです。少し変な方向の話になってしまうのですが、感情ってバイクに伝わってしまうんです。メカさんと喧嘩した直後とか、精神的に不安定なタイミングで乗ったバイクっていうのは必ず裏切るんですよね。当然自分が間違ったことをしているから転ぶというのはありますが。なので「楽しい」って思いながら乗っていると、仮に勝てるようなスピードではなかったとしても、楽しく乗らせてもらえます。逆に怒ったり、感情的になったりしている時にバイクに乗っていい思いをしたことは、過去を振り返ってもあまりないですね。




Q10.今の目標を教えてください

 今年に関してはヨシムラというチームと、開発ライダーという形で契約していて、フォーカスするポイントとしては耐久レースというものがメインになっています。スプリントレースでは自分に合わせたバイクに乗るので、複数人が乗るバイクを作るというのは今までにやってきていません。なので、ある意味誰が乗っても速く走れるバイクを作るというのが自分の中での目標になっています。


やはり自分だけが乗りやすいバイクとみんなが乗りやすいバイクは違いますか?

 今はまだ8耐の相方が決まっていません。それが決まればまた変わるとは思いますが、今は誰が乗るか分からないバイクを作っている状態で、「万人向け」の「万人」って何?と、ぼんやりしたイメージになってしまいます。なので今、自分の中にもう一人、違う乗り方をするライダーというのを作ろうとしています


それでテストの時に乗り方を少しずつ変えてみる、という感じでしょうか?

 新しいパーツの評価をするテストなどでは、乗り方を変えると良い悪いという判断などが変わってきてしまう可能性があるので、その時は変えないようにしていますが、そうではない時、そういうことが許される時には乗り方を変えてみるということをしています。言い方を変えると多重人格のようになってしまうかもしれませんが、乗り方をパッと変えられる、もう一人のライダーになれる、というのが今の目標です。

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