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20211205“現在地”@太陽と虎

冬が好き。ちょうど今独りになろうとしていて、寒さで自分の輪郭がくっきりする感覚に気付いてから、好きになった。脳も耳も研ぎ澄まされるような。乾燥した空気と自分の中に、音楽がひたひたに染み込む季節な気がする。
2021年12月5日の日曜日、6年間追い続けた、世界一愛してるがらくたロボットの活動休止ラストライブだった。10月にそれが解禁されたとき、最初は信じられなくて、マイナスなことしか考えられなくて、落ち込んで落ち込んで、眠る前に今までのことを思い出しては少し泣いたりもした。結婚の約束をしていた恋人に振られたことよりも悲しかった。もっともっと寒くなればいいと思った、どうせなら。
彼らのことだから当日は絶対雨が降ると思ったけど、くもり。あたしの記憶の中で、大晦日はいつも曇りだった気がする。何かが終わって、新しく始まるのに相応わしい日になると確信した。

いつもの威風堂々ではなく、産声のみのSEで静かに登場した。ダイジロウは学ランにTシャツ、黒のバンテージパンツで、フウタはヒョウ柄シャツに革ジャンの衣装。
産声のみが鳴り続けるなか、ダイジロウのギターから「産叫」を演奏し始める。音源でも使われていたこの声は、ダイジロウが生まれたときのものらしい。これを演るたび、大人になったダイジロウもいつも産まれなおしてるのかもな、とか思ってしまう。
立て続けに「リケルトン・ブック」「塗りつぶせ」。疾走感ある曲でスタートダッシュを決め、またいい意味で客を置いてけぼりにさせようとする。目と耳の休む暇がない。
青い光で「Oh Yeah」が始まる。笑顔で楽しそうにピョンピョン跳ねながらベースを弾くフウタ。サビで後光が差すように真っ白な照明になり、それも加わって眩しかった。ダイジロウは空を指すみたいに、天井に人差し指をあげる。ギターソロが喜びのメロディみたいだった。というか、ダイジロウに弾かれるギターが喜んでいるように聞こえた。歌っていた。

真っ赤な照明に変わり「Heartful Murder」。ダイジロウが体を揺らしながらギターを弾く反動で、前髪で隠れていた顔がちらちら見えた。綺麗だった。

真っ暗になりわずかな静寂のあと、「Suicide」。これから先も進んでいくであろう人が「戻ろう戻ろう」と歌うのがちょっと不思議だった。ギターソロのアルペジオは、薄暗い中ひとつのライトだけが照らす。大サビでは一転、眩しい光に。そして「don't look back」と歌う。ああ、戻るのはこの曲の中だけで、今からは振り返らないのかと思った。

コソッとフウタと何かを話して「ハネル」。暗くてよくメンバーの顔が見えない。これ以上ないくらい優しくギターを弾くダイジロウ。「それしかないから」と歌ったあとのギターソロはもっと優しくて、本当にそれしかないのだと思った。これはずっと思っているけれど、本当にどこまでも行ってほしいと思っているし、フウタのベースも表情も、それに同調しているようだった。

そのまま「STOP」「砂時計」を演奏。砂時計ではいつもより間奏をたっぷり使い、ギターとベースの二人が近づいて各々のパートを弾く。会話をしているみたい。砂時計は個人的に思い出があって、この曲のお陰でいろんな場所に連れて行ってもらったな、としみじみ泣いてしまった。

楽器を下ろし、ダイジロウが「一旦換気タイムあるらしいんで、またあとでね」と言った。コロナ対策ではあるけど、気持ちを落ち着かせられたからありがたかった…
10〜15分くらいだったか、換気終了後、いつものSE「威風堂々」が流れ、また登場する3人。ダイジロウは白シャツに着替えお色直ししていた。一回のライブで違う衣装も見られて、再び換気タイムに感謝した。

聴き慣れないイントロだけど聴いたことあるメロディで、何かと思ったら「夜よりも」だった。あたしががらくたロボットで1番好きな曲。拍子とキーが変わっていた。同じ曲でここまでアレンジできるなんて!震えた。こっちも好き。でも、これからもっと聴きたかったな。

そして久々の「リンダ」「One Hundred Guns」を演奏し、ここ最近じゃすっかり定番になった「Out」で空気が一変。不協和音?不穏なベースラインが気持ちいい。最後の「アウト!」を叫んですぐ「君を待ってる」。いつも以上に爆発しそうなアウトロで、なんだか胸がいっぱいになった。

「I Bug You」「GET」頭を掻き上げるダイジロウ。うつむきながらエフェクターを踏む。長い長い前奏だった。チカチカする照明が

すぐさま「街」「ディストーション」と初期の曲を連続で。ディストーションはよくライブの最後の方にやっていたからか、なんとなく終わりを予感ししんみりしてしまった。作詞は元メンバーの曲だけど、がらくたロボットをよく表した、がらくたロボットというバンドそのものの曲な気がずっと前からしている。
ダイジロウは「ありがとう」とだけ呟くと「Strawberry Dreamers」を演奏。冬のことを歌ってるのもあって、今日という日にあまりにもぴったりな曲だった。寒い季節に終わりを迎えるのが彼ららしいなと思った。

アンコールに答え「Andy's Trying(Andy's Crying)」「My Way」「FLYING MAN」の三曲を演奏。どれも始まりの曲で、挑戦する、前へ進んでいく、飛び立つイメージ。ライブは終盤に向かっていたのに、どんどん新しくなっていくような姿がうかがえた。

ここで今回初めてのMC。フウタが先に出てきて「よおきてくれましたね、ありがとうございます。ひとりでしゃべれ言われたんで、喋ることないんですけどね」とニコニコ。「まあそんなしんみり…しんみりというかなんて言うんでしょうね、僕らやりたいことやり続けるだけなんで。この言葉信じてくれたらと思います」と目をきらきらさせながら話す。そして、「よかったでしょ?今日のドラム。誰やって感じやろうけど、ハマサキソウトです!ええドラム叩くし、この3人で行けるとこまで行くんで、よろしくお願いします」とこれからのことをさりげなく教えてくれた!この人たちは一生ワクワクさせてくれるな〜とニヤけながらうっかり目頭が熱くなった。
そう、サポートドラムは、元Purple Headsのソウトくん!ネタバレになるといけないと思い結局下書き保存したままだったのだが、前回10月10日のライブもソウトくんが叩いていた。それが本当に嬉しくて、これからがらくたロボットで叩くソウトくんが観れると思ってたから、活動休止とアナウンスされたときは本当に一時のサポートなのか…と落ち込んだので。Purple Heads時代はまだ中学生だったのに、(本人はどこかで叩いてただろうけど)空白の3年を経てますますいいドラマーになっていた。あの頃よりも髪が伸びて、髪までドラムと一体化してビートを刻んでるようだ。もはや楽器の一部。

ダブルアンコールは「ツキノアリカ」。アウトロ前の恒例の「シー」でベースもドラムも小さくなって、またどんどん大きくなる様は、荘厳な儀式みたい。今日はより一層そう感じた。外は曇りで月は見えなかったけど、晴れ渡るようなメロディと演奏で、気持ちの良いエンディングだった。この曲を演奏したら、いつも月が浮かんでいる。研ぎ澄まされていた。常々思っているのだけど、アルバムのエンディング曲ってオープニングっぽくも感じるなあ。

約2時間のワンマンライブは一瞬で、彼らと出会ってからの6年間の走馬灯のような時間だった。現在地とは、太陽と虎で、ツキノアリカはがらくたロボットが演奏する場所。この日見せたもの・聴かせたものが3人のリアルで、彼らの中では決して活動休止宣言や、決意表明の日ではなかったと思う。今までやってきたことをただ披露するだけ。でも、突然解散したら活動を辞めてしまうバンドもいる中、こうやってあらかじめ告知してくれてワンマンで終わらせてくれて、先のことも教えてくれたのは、誠実だと思った。そして、曲はもちろんだけど、活動休止という形にしてくれたことで、いつかまたがらくたロボットとしても会えるかもしれない、という希望を残してくれた。

終演後には「ティリ・バーンズの丘」が流れ、それはがらくたロボットというバンドのエンドロールだった。じゃあ、また次の現在地で。次の革命の日まで。その時は、たいして飲めないビールで乾杯しようね。ありがとう!

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