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冬の記憶

玄関先の鉢に植えられていたのは柊だった。
しばらくそれに気が付かなかったのは、柊の花が小さく香も控えめで造作の似ている金木犀のそれにくらべて少し地味だったからだろうか。はたまた、いつも慌ただしく出かけていくからだろうか。

その柊をはじめて認識したのは、雨が降っていた夜だった。雨に打たれた柊の花は一際香り立っていたようで、帰宅して傘をたたみ暗い玄関の鍵を開けようとしていた私の鼻に濃密な香りがもわんと漂ってきたのだ。その香りのもとを辿る様に、ふと目を下ろした。
緑の鋭くギザギザした輪郭の葉、清楚な白く小さな花。50cmほどの小さな木が鉢に植えられていた。冬に咲く花はみんな静かに咲いているような気がする。凛と。この柊もそうだった。

今朝はいい天気だったが、顔を近づけると先日の雨の夜と同じ優しくて甘い香りがした。
私はこの香りがとても気に入っている。

祖母はよく玄関先の植物を植え替える。まだ元気に咲いている花でも問答無用に引き抜いて植え替える。家の顔である玄関に枯れそうな植物を置いておきたくない気持ちも少しはわかるが、少々残酷ではないかと思う。柊は常緑樹なので、よほどじゃないと枯れたりしないだろうけれど、祖母の気分で引き抜かれては大変だ。
「玄関の鉢ヒイラギにしたんやね!ヒイラギは魔除けになるから玄関に置いとくと悪い事が逃げていくかもしらんね。良い匂いもしてるし、ヒイラギは一年中緑やねんで。緑が濃くてキレイやね。」 
柊を大プッシュしておいた。祖母は、うんうん、と聞いては居たが、知らない間に少し耳が遠くなったようだった。 

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