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玉田企画 夏の砂の上

五反田団『偉大なる生活の冒険』とコントライブ『夜衝』に出演し密かに気になっていた玉田企画の玉田真也。

「夏の砂の上」は90年代後半に書かれた長崎を舞台にした会話劇で、松田正隆さん初期の作品です。僕は、10年くらい前に初めて読んで、衝撃的に面白くて、いつかこんな作品を書けるようになりたいと思いました。10年経った今でも、力及ばず、そのとき思ったような作品は書けていないのですが、それ以降、僕の頭の中にこの作品が一つの基準としてあって、自分が戯曲を書く際にちょっとずつ影響を受けてきたと思います。松田さんはどうやら今作を今の僕と同じ年のときに書いたらしくて、なんて早熟な人なんだと驚き、それに比べて、自分はなんて幼いんだと恥ずかしくなります。演出することで少しでも学べたらと思います。

この公演の彼の挨拶文に興味を持ち期間限定の配信版を観た。

主人公がうちわで弁当を冷ましながら食べる冒頭のシーンから、妻とのぎこちないやりとり、気の強い妹の台風のような登場といきなり心を鷲掴みにされた。

一つの部屋で繰り広げられる会話劇に嘘、見栄、嫉妬など人間の暗部がぎっしりと詰まっていた。息子の死や妻の不倫、会社の倒産と主人公の抱える絶望が、妹が無理やり託した姪との生活を通して微かではあるが希望に変わる。濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』にも通じる喪失と再生の物語だ。

それにしても役者達の芝居を超えた複雑な人間力の交わりに圧倒された。そしてドラマや映画では出すことのできない演劇特有の生の臨場感が画面越しでもひしひしと伝わってきた。

水道がでなくなった夏の長崎に恵みの雨が降るラストシーン。鑑賞していた自分自身もこの雨とともに心が浄化される。

どんな時でも人間は呼吸し前に進む。