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濱口竜介 ハッピーアワー

愛する作品はその時々の心情や年齢によって捉え方が変わるから何年かに一度は観直したい。濱口竜介を知るきっかけとなったこの作品もその一つだ。

観る前は無名の演者と上映時間5時間越えというすこぶる高いギャンブル性に一抹の不安を覚えたが、観終わった後こんな作品を待っていたんだと心が震え確実に自分の人生が豊かになる貴重な体験をした。

30代後半に差し掛かった女性4人の友情が1人の抱えていた秘密と失踪をきっかけにゆっくり静かに壊れていく。各々パートナーとの関係や自分の気持ちを問い直し霧が晴れるような終わり方ではないが決して後味は悪くない。人生はほとんど地獄みたいだけど、たまに訪れる幸せな瞬間があるからこそそれを糧に生きていける。ワークショップや有馬温泉の思い出がこれからも彼女たち私たちの心の中に色濃く残るだろう。

豪華なアクションシーンがあるわけでもなく、どこまでも会話が中心にある脚本。そのテキストを演者もスタッフも絶対的に信頼しているから映っているものに嘘がない。浅はかな思惑や欲望は往々にして淘汰されるが、そんなものが一切ない無色透明な強固さに畏敬の念を抱く。

水槽の水を入れ替えるように自分の心が濁ってきたらこの作品を手に取ろう。