【備忘録】コミュニケーション能力の育成について
★コミュニケーション能力の育成
平成29年度 高等学校教諭授業力向上研修講座「教科・領域」
講義・演習 「コミュニケーション能力の育成」
東京藝術大学COI研究推進機構特任教授 平田オリザ
序 自己紹介
大阪大学で「科学者にコミュニケーション能力をつけさせるための教育」を担当する。
■青年団公式ホームページによる紹介
http://www.seinendan.org/hirata-oriza
Ⅰ ワークショップ
■ワークショップ1(20人対象)
① 動きながら、自分と同じ色が好きな人どうし集まる
② 動きながら、自分と同じ果物が好きな人どうし集まる
自分=参加者のコンテクストベース。ところが、参加者が思うように動けない
③ 「岩手」といって思い浮かべるもの
④ 今、行ってみたい国
教員のパーソナルベース。それでも、ワークショップに慣れない参加者多数。
・ここで、平田の仕事について略歴を話す
⑤ 「チョコレート」以外で思い浮かべるベルギー
「ビール」「ワッフル」などが参加者から出るが、実は「フライドポテト」が有名
・このパターンは、小学校などの「クラス開き」直後にすると、話すきっかけを掴める ・できれば授業内容にリンクするとよい
・ただし、中学1年生の面々はこの手のワークショップをやってくれない(日本の傾向)
・いきなりワークショップをやるとできない。どうするか?
→生まれ月でする。電話番号の末尾でする。
■ワークショップ2(35人対象)
① 生まれた月日が同じ人とペアにある(25人以上だと、1組以上ペア誕生の可能性) ・参加者の履歴を尊重するワークショップ
→「いつも声が小さいですか?」
→「きょうは小さい声でワークショップしましょうか?」(と対話する)
「ワークショップ万能!」と思い込むと、現場とのギャップに驚く
→本当は女子のところに行きたい男子
→ただし、積み重ねがうまく行かないこともある
・ワークショップの「文脈」があるか。「構造」があるか。
・「外国から見たニッポン」とは?
→スシ、ITの順らしい(「ゲイシャ」は減っている。「アニメ」の認知は1割程度)
→外からどう見えているか、性格に把握することを
・「ふたば未来学園高校」の話
→高校1年生対象にワークショップをしている。
→2011年3月以降、「福島」に対するイメージが変わってしまった。
→彼らの責任ではないが、これからの福島をどうするか選び、考える責任が彼らにもある
■ワークショップ3(20人対象)
① 「友だちとの力関係」
・「1」から「50」のカードを1枚ずつ用意し、カードの大きさによって役割を決める。
・4分で自分に近い趣味の人を探す
・5人以上で会話しない
・ゴールしたら(壁に寄ったら)会話に参加しない
・できるだけ会話する
・趣味の名前を話してよいが、与えられた番号は話さない
→ベストペア(1番違い)が2組
→ワーストペアは22番違い
→ふだん、われわれは8~9人を前に「病気が重い」「囚人かどうか」と会話している
→「自分に近い役」しかやらなくなってしまうのを防ぐためのワークショップ。
「市民が考える責任の重さ」と「専門家が考える責任の重さ」が違う
そもそも「活発さ」の基準が人によって違う
ゲームに勝ちたいと思ったら、相手がどんな思いで言葉を使っているかどうかを知る
→相手の趣味だけを聞く会話はない
→表面的なことだけ聞いてしまうことに問題がある
Ⅱ 劇作家としての平田オリザ
■アンドロイド演劇 http://logmi.jp/34537
■『幕が上がる』 http://book-sp.kodansha.co.jp/topics/makugaagaru/
■『現代の国語2』(中学2年用・三省堂)
https://tb.sanseido-publ.co.jp/j-school/js-kokugo/
・『対話劇を体験しよう』(戯曲)
今の生徒は『夕鶴』(木下順二)をやっても面白く感じない
劇でウソをつくこと(スベらないギリギリのところ)
そもそも「オヤジ」と言わないではないか
そもそも「わたし」と言わないではないか
脚本を変えすぎていいのか?
チャレンジはよかったけど、整合性がない件
(例)岩手にはみかん農家がないのに、「みかん」と言ってしまう件
「3年生になったら東京に行こうよ」
そもそも3年生は受験で動きが取れない
それなら全部書き直しではないのか
『対話劇を体験しよう』の使い方
1時限=台本を渡す→リライト
2時限=台本を作り、練習する
3時限=発表する
学力差と関係なくできる
これ、授業者は教えるものが何もないのじゃないか?
話しことばの多様化を認めないと「気づき」がない
教師はやたら教えたがる!
待つ勇気がいる
声がけのタイミングがむずかしい
※ 事実、兵庫県富岡市では「声がけのタイミング」の練習までした
「何話す?」と聞くと、シーンとなる
「けさ、何の話をしたの?」と聞くと、会話が成り立つ
寝ている生徒、遅刻する生徒の班がいると、圧倒的にそちらが面白くなる
表現がぐっと膨らむ
「読む・書く・聞く・話す」と言われている
「話さない」のも立派な表現(教育)
その勇気が試されている教育側
Ⅲ PISA調査が求めるもの~世界的に15歳の生徒ができること
『OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)』のポイント
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2015
※PISAについては公開問題と非公開問題がある
① 複数の回答があるのに白紙で答えてしまう(落書き問題)
a)許せる場合 きれい・「子どもが書いた」・「好きな人が書いた」・「明日壊される」「独裁国家だから」...
b)許せない場合 ダメだと思う
② 異文化理解能力
・フィンランドがずっと1位である
各単元の最後が演劇的である
インプットはさまざまでよい(他民族・他宗教)
ただし社会を構成するために、アウトプットは時間内にしなさい
アウトプットを誰がまとめるかは大事じゃないか?
③ 合意形成能力
A B C D E
\ \ | / /
✕ B ○F Bの意見にまとめるのではなく、
Fにまとめたことが評価されるフィンランド
ユニークな意見(単なる意見の一つ)がほめられるのでなく、
まとめることが求められる
多様性を認め合い、どう持続させるのか
日本は同質性が強い社会だが、30年後は持たない
30年後、母語を持たない人口が1割になる
・20~30年以内に、日本は多文化共生社会になる
「みんな違って(×みんないい)大変」
だからどうにかしなければいけない
とことん話し合っても、イスラム教はキリスト教にならない
④協調性から社交性へ
・今日中にいろいろなことを一度に決めなければならない
a)ジャンケンで決めること
b)5分で決めること
c)一晩で話し合うこと
a)~c)の区別をつけられるようにしないといけない
例)「メロンにする」「いちごにする」。3時のおやつまでどちらか決める必要がある価値観がばらばらのまま、「合意形成能力」を身につける必要がある
・「心からわかり合える関係」
→日本人でも、それができるかどうかわからなくなってきている
「すぐには、はじめからは、わかり合えない」と高校生にも言う時代!
・スタート → ゴール
どちらも違う。最悪な事態をどうするのかを考えるのがこれから。
「友だちにならなくていい」から、最初の15分を何とかする能力!
★「世界の人々にありがとう」と言える能力を伝えたい(達増拓也知事)
Ⅳ 大学入試改革
・基礎的・基本的な知識・技能
・思考力・判断力・表現力
・主体性・多様性・協働性
地域間格差が広がる危惧
<四国学院大学が行った「新制度入試」>
(参考)「新しい入試「2016年度推薦入学綜合選考」実施問題の公表について」
http://www.sg-u.ac.jp/news_20151104/
(例えば)
・レゴで巨大な艦船を作る
・組体操の危険度や対策を協議する
・小説を切り取って、紙芝居を作る
・AKBとももクロのビジネスモデルの違いをプロモーションする
・四国の観光プロモーションDVDのシナリオを作る
→社会につなげるための手段
→タイムキープを意識し、議論をまとめる
(実際の出題)
・2030年「デフォルト(債務不履行)」となった
・本四架橋の3本(神戸・鳴門ルート、児島・坂出ルート、尾道・今治ルート)のうち、
2本を廃止したい
・7人1組となり、香川・徳島・愛媛・兵庫・岡山・広島の6県代表、加えて議長の役
を分担し、「どの橋を残すのか」話し合うこと
・パソコンを2台与える
・7人は、全員初対面である
採点基準は「自分の役割を担えたかどうか」
受験生の特質を見る面接(受験者240名。3回に分けて実施)
ちゃんとした試験をするのが、大学の役割ではないか
(利点)
・午前中のやり取りを、午後の個人面接で確認できる
・受験生の素が見える
→カルテに残し、入学後の指導(伸び)を見る出発点になる
<大阪大リーディング選抜(2010年)>
(参考)「『大阪大学博士課程教育リーディングプログラム』とは」
http://www.iai.osaka-u.ac.jp/leadingprogram/
午 前 午 後 夜
1日目 アイスブレーク (6人で)ディスカッション 創作・発表
2日目 ディスカッション(6時間) 創作・試問 創作
3日目 創作・発表 最終面接
脳をフル活用させ、集団・個人の作業をさせ、局面に立っても能力が発揮されるかどうかをみる。
→すり合わせると『宇宙兄弟』 http://www.ytv.co.jp/uchukyodai/
クルーを集めるための試験
いろいろな人がいないと勝てない。
トップエリートの学校ほど試験内容を公開している。
情報を囲い込むことで何とかなる時代は終わった(ネット授業の進化)
それでも議論・学ぶことが大事
「何を」より「誰と」学ぶかが大事
全体でどう学ぶのか、というのが大事
これが「高大接続」ではないか
ミッション・ステートメント(社会的使命)を見るのが大事じゃないか
Ⅴ 大学入試改革の未来
受験の準備があらかじめ出来ない問題を作るのがむずかしい
→受験指導・進路指導ができなくなる
地頭の部分、AO入試に向いている生徒がうまくいくような問題
例)八戸東高校・表現科の成功例(AO入試・自己アピール入試での成果)
http://www.hachinohehigashi-h.asn.ed.jp/hyougen.html
1,2年の勉強では対応できない
身体的文化資本が問われる(20歳まで)
(「ジェンダー」、「平等」に目配りできるか)
→いいものに触れさせる(食べさせ続ける、目利きをさせる)
○センス、×論理
・パフォーミングアーツ(演劇・舞踊など、肉体の行為によって表現する芸術)は都会に行かないとむずかしい
例)『港区&サントリーホール Enjoy! Music プロジェクト』
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/enjoymusic/project/
例2)『世田谷パブリックシアター演劇部 中学生の部』
https://setagaya-pt.jp/workshop_lecture/201709engekibu.html
全国の高校に芸術科は50あるが、八戸東(青森。表現科)・いわき総合(福島。芸術表現系列)以外、東北ではコースがない。
→経済格差(発見すらされない文化)
子どもだけでは「美術館」「コンサートホール」には足を運ばない
地域・文化の格差が、大学入試・進路に直結している。
Ⅵ 豊岡市(兵庫県)の教育
「運動遊び」、「英語遊び」(幼稚園・保育園・こども園児対象)、平田オリザが監修するコミュニケーション教育の授業(小・中学生対象)。すべての幼稚園、保育園、こども園、小・中学校で行われる。
http://colocal.jp/topics/think-japan/local-action/20170327_93532.html
(参考)「平田オリザさん劇団の拠点、東京から豊岡へ移転」8/28 神戸新聞NEXT
https://www.kobe-np.co.jp/news/bunka/201708/0010501065.shtml
(参考)上記の記事を受け平田オリザのコメント
https://www.facebook.com/oriza.hirata/posts/1465219640239413?pnref=story
Ⅶ なぜコミュニケーション教育なのか
・コミュニティの崩壊(少子化・核家族化・情報化、地域社会の崩壊)
コミュニケーションがなくても生きていける
→大学や就職の際、いきなりコミュニケーション能力を求められても対応できない・産業構造の転換
サービス業中心の消費社会、付加価値を生む教育
・国際化
→「ごっこ遊び」を学校教育の中に組み入れる必要がある
(ここまで)
▼この講演は2017年8月2日、岩手県立生涯学習推進センターで行われたものです。平田オリザが講演したものを、山田の責任で文字起こししたものです。URLや用語について、補足したものもありますが、ニュアンスが変わっている場合もあることをお断りします。なお原則として敬称は略しています。
▽2017年8月30日 記事を公開しました(公開先限定)。
▽2017年9月1日 リンク先などを追加しました。
▽2017年9月2日 劇団青年団の移転について、平田オリザさんのコメント(リンク先)を追加しました。
▽2021年8月30日 noteに公開しました。基本的にはFacebookの内容をそのまま移動しました。
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