Rの軌跡 第十一話「ともお」
どうやら部活は俺が思っていたよりももっと早くから活動してもよかったそうだ。そこでK君は軽音部に入ったのだが、先輩部員は全員幽霊(籍だけあって活動していない)仕方なくK君が部長になったわけだ。
軽音部でのやり取りがあって数日後。休み時間に同じ中学のA君がやってきた。
A君:Tが呼んでるぞ。教室に来てくれって。
俺:T?ああ、あの目つきの悪い坊主か?
A君:はは、なんやそれ。そうそう、そいつ。Tな。
俺は昼休みに教室へ行った。何で俺が行くんだよ。てめーがこいや。と心の中では悪態をついてみるが、少しドキドキしていた。
(目つきの悪い坊主:俺とバンドでてっぺん取ろうぜ)
いよいよ動き出すんですね。だんなぁ~。
俺:(ガラガラ)T君いる?
彼は廊下側の席の真ん中にでかい態度で座っていた。周りに誰もいない。当然だ。バンドやってなかったら絶対に関わりたくない。
T君:おお、F。悪いな来てもらって。
俺:何の用だよ。
T君:F以外のメンバー。集めたから紹介するわ。
なんと、彼はこの数週間学校中を情報収集してメンバーを募っていたのだ。中庭に出るとそこにT君に召集された他のメンバーがいた。
T君:ドラムのD、ギターのG、ベースのB、でお前と俺な。
よく見るとベースのB君は、こないだあった涼しい目をしたイケメンだった。
俺:あれ?B君ってギターじゃなかった?
B君:うん。T君に説得されて。まあ前から興味あったし、いいかなーって思って。
おいおい。説得って本当に説得だろうな。怪しげな視線をT君へ送る。
T君:なんだよ、脅してねーぞ。Bがやるって言ってんだからいいじゃねーかよ。
ふん、なーんも言ってませんが怪しいもんだ。
俺:ところで何やる?ってかその前に名前考えたんか?
T君:ああ、バンド名な。「ともお」
俺:え?なにその団地に住んでそうな感じ。
T君:団地?何それ。
俺:いや、こっちの話。
B君:嫌だって言ってるのに。。。
え?なぜB君が?
B君:俺の下の名前が「もとお」でそっからとった。
はい?
T君:ええやんけ、そのまんまやないんやから。
結局ライブ予定の文化祭までにはまだ時間があるし、名前はいつでも変えられるから一旦は仮称ということでその場は収まった。賢明な読者の方ならお気づきだと思うが、こういう決定は得てしてそのままになることがあり、多分に漏れずこのバンド名「ともお」で文化祭に出演することになった。
数日後楽譜とテープ(懐かしい!)を渡され、練習の日取りも決まった。T君剛腕ですなあ。そして学校で一番うまいやつを集めただけあって練習も超スムーズに進む。ってかこんな奴らがおるんか?おらワクワクすっぞ。
練習した曲全てライブでやるのではなく、その中でも完成度の高いものをチョイスするというやり方。この余裕があるのも経験者ならでは。ってかT君のプロデュース力半端ない。
選曲はコブラ、Xジャパン、ガンズアンドローゼズ、スキッドロウとかなりハードなロックに偏っていたが見劣りしない出来栄えで、なかなかいいバンドに仕上がった。バンド名は「もとお」だけど。
ちなみにもう一人のギターであるG君は洋楽専門で俺とはジャンルが違った。おかげでぶつかることもなく互いにセッティングなど専門的な話ができて楽しかった。最初はチャラいやつだと思ったが、なかなかに男前な奴だったので許してやることにした(何を?)
そして一気に文化祭当日。
演奏の舞台となる北館の視聴覚室はどこから聞きつけたのか超満員の人だかり。この学校で一番うまいやつらが集まったバンドがあるらしいという噂が学校中を駆け巡っていたのだ。これもT君の仕業だろうか。
ふと舞台袖を見るとヒョロガリモジャ頭の軽音部部長が満足げな表情を浮かべて腕組をしながらうなずいている。(お前何かの役に立ったのかよ。。)
僕らは意気揚々とステージへ向かう。ギターを持って、セッティングを確認。メンバー同士で目配せ。T君がうなずいて、G君のギターからウェルカムトゥザジャングル(ガンズ)のイントロ。ステージの幕が開ける。
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