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Rの軌跡 第三話「新天地」

放課後にスタジオへ通う生活が続いたある日。ひょんなことから事件は起こった。

小雨の降る中、小走りで電気屋に到着。店内を覗くといつもならスタジオで準備をしているはずのメンバーが待たされている。

:あれ?どした?

メンバー:いや。なんかさぁ。予約取れてないって。

:え?なんでなんで。連絡したじゃん

メンバー:そうだと思うんだけど予約表見たら別のバンドが入ってて。

店の奥にあるスタジオへ上がる階段を見つめる。すでに低音のボコボコとした音が店内にわずかに響いていた。

予約していたはずのスタジオに既に別のバンドが入っている。

僕は電気屋のおっちゃんに抗議をした。「どういうつもりですか?」「ごめんね、ちょっとした手違いで」と申し訳なさそうに苦笑いをする。そんなおっちゃんを想像した。

しかし、いつも朗らかな電気屋のおっちゃんは血相を変えて怒り出し「君らにどういうつもりと言われる筋合いはない。何を勘違いしてるんや。ちゃんと予約してないそっちが悪いんや!」その声を聞いて店の奥から電気屋のおっちゃんのご両親が不安そうに顔を出し、こちらを見つめていた。

え?逆切れ?なんだよそれ。いつもニコニコしてたじゃん。ほほえましく若人の音楽活動を見守ってくれていたじゃん。だがおっちゃんの怒りは収まる気配がない。

僕らはしぶしぶスタジオを後にした。仕方ない。これ以上何を言い合っても解決しそうになかった。そしてこんな状態になってしまっては顔を出しずらい。僕らの練習場探しは振り出しに戻ってしまった。

Rの軌跡_3-1

個人の練習を進めつつ、どこか別のスタジオを探さないといけない。今ならグーグルマップでちゃちゃっと探せるのだがそんなものはなかったし、そもそもインターネットなんて影も形もなかった時代。僕らは知り合いの情報や町の看板なんかでスタジオを見つけるほかなかった。

青少年の健全なる育成に寄与すべく、大人たちよ、いや誰でもいい、俺たちに練習する場を提供してくれ!できれば近場で、リーズナブルなところにしてくれ!

そんな都合の良い場所なんてあるわけない。我々は情報収集の中で仕入れていた梅田にある練習スタジオへ活動拠点を移すこととなった。

さすがは梅田。一等地だけあってスタジオ使用料も高く(相対的に。今から考えたら結構安かったかも)電車賃もかかる。これだけでも中学生には痛い出費であった。

スタジオは駅の近くにあり、スポーツショップの2階にひっそりと併設されたスタジオだった。今から考えると何の目的で設置されていたのか分からないが、グランドピアノも置いてあった。何かの練習で使うのだろうか。

やれやれ。何とか場所は確保できたけど、今までみたいにダラダラとはできない。タイムイズマネーなのだよ諸君。

環境の変化もあってか演奏の腕前は上達した。ある程度の投資は人を成長させるのだ。

そして我々はこんなことを思いつく。

「学校の文化祭でライブをしたら、かっちょいいんじゃない」

クラスの出し物ではなく、今まで誰かがやってるのを見たこともない。果たしてそんなことが実現できるのだろうか?

翌朝、不安を抱えながら職員室へ向かう。一番話を分かってくれそうなO先生に相談する。

:あの、今度の文化祭で音楽ライブをしたいのですが。

O先生:んー、それは難しいな。

:え?なにか出来ない理由がありますか、、

O先生:実はお前らの3個上の先輩がな、バンドの練習代をカツアゲしたっていう事件があって、それ以来学校ではバンドやライブを禁止しとるんや。

くらくら~。僕はめまいを覚え、その場で倒れ込みそうになった。

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