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研究スキル売買に関して

はじめに

興味深い記事が出ていたのでちょっとコメントをかいておく。

スキルマーケットとは、個人が自分の得意分野のスキルを活かして業務を委託してもらい、それに対する対価をもらうものである。

例えば、プログラミングスキルを教えます、とか、イラスト書きます、とか、作曲しますとか、色々な人が自らのスキルを販売している。買い手はこうした人たちに、自分のしてほしい業務を委託することで売買契約が成立する。

今回問題となっているのは研究スキルをこのようなサイトで販売するのは問題があるのか、という点である。

記事によると研究スキルの販売が問題とされる理由は以下の通り
1. 匿名の研究者が他人の研究に介入する恐れがある
2. 研究スキルを購入する研究者が自分のスキルを偽装できる

それぞれに関してちょっと自分の考えをまとめておく

匿名の研究者が他人の研究に介入する恐れがある

1点目に関して、記事では「販売者が論文に関与した度合いによっては、著者の一人とすべき人物を隠す研究倫理違反行為と定めている「ゴースト・オーサーシップ」を助長する危険性が高い」と指摘している。

研究者は共著で論文を書くことが多く、それぞれの分野(例えば文献レビューだったり、分析だったり)を担当して執筆をする。そして、貢献度に応じて論文の著者名に順番がつく(first author, second author など)。

基本的にFirst author がその研究の代表者であり、貢献度が最も大きいし、論文に対する責任も大きく負っている。一方、このような研究スキルの販売は、実際には研究に貢献しているのにその人の情報が反映されないため、倫理的に問題なのではないか、というのである。

一方、下記の記事を読んでみると、そもそもゴーストオーサーシップにおいて懸念されるのは、利益相反がある人物が隠されてしまう場合のみなのではないか、という気がしてしまう。

上記の記事ではゴーストオーサーシップを「重大な貢献者の名前を著者欄や謝辞部分に入れないこと。このような人には、メディカル・ライターなど、利益相反があるとみなされている人が含まれる。」と説明している。ポイントは、利益相反があるとみなされる人が含まれる、という点である。

例えば「タバコは健康に害を与えない」という研究論文が仮にあったとして、その研究にタバコ会社の役員が大いに貢献していたものの、その人の名前を著者名に入れなかった場合を考える。

もし著者名の一人としてタバコ会社の役員の名前を書いてしまったら、おそらくこの研究論文は「タバコ会社の都合の良い結果を出しているだけ」と評価されるだろう。

一方、この役員の名前を伏せることで「タバコの害はないという客観的な結果が示された」と、180度異なった評価が研究に与えられてしまうかもしれない。

以上のように、利益相反がある場合にはゴーストオーサーシップはかなり問題となる。一方、それ以外の場合はどのような問題があるのか、個人的にはよくわからない(ので知っている人がいたら教えてほしい)。

多くの研究者が自分の部下や学生に仕事をさせていると思うので(しかもそうした人々は基本的に論文の著者には名を連ねない)、その範囲内であればこのようなスキルマーケットによる業務委託は問題ないと思う。

研究スキルを購入する研究者が自分のスキルを偽装できる

2点目に関して、たしかに自分の不得意な分野を他人にお願いすることによってスキルの偽装ができる。例えば、定量的な分析を不得意とする研究者がスキルマーケットで分析を代行してもらって結果をまとめて論文に発表することができる。

ただし、上記のことはスキルマーケットを使わずとも行われているわけで、例えば定量的な分析を不得意とする研究者が得意な研究者と共同で研究をして、分析部分を依頼する、ということは研究倫理には反しない。

しかも、論文には「この部分は○○が担当しました」と記載されるわけないのだから、分析が不得意な研究者であっても論文が発表された段階で第三者からは分析スキルのある研究者として認知されてしまうだろう。

また、文献のレビューを依頼する場合に関していえば、本当にその分野に精通していないと文献のレビューはちゃんとできないのではないかと思う。例えば自分の研究分野であるCSRに関しても、経営系とマーケティング系とファイナンス系ではおそらくレビューすべき文献は全く異なってくる。

また、自分の投稿するジャーナルによってもレビューすべき論文は異なってきたりする。例えば、ジャーナルによっては自分たちの収録した論文の引用がない場合はそれだけでリジェクトされてしまうこともある。

その意味で、文献のレビューに関してもかなりの専門性が必要であり、第三者に依頼することができるのかは疑問だし、依頼できたとしても出てきた成果物は使い物にならないのではないかと思っている。スキル偽装ができるほどのものが出てくるとは思えない。

まとめ

個人的に、こうした業務委託は個人の責任の範囲内で活用していくのは良いと思う。そもそもなんでも自分一人でやらなければならない、というのは古い考えだし、不可能である。

とりわけ、研究手法は複雑化してきており、自分の研究でもそろそろ機械学習等の技術を使って分析を行いたいとは思っているものの、実際にそれを1からやろうとするととんでもない時間がかかる。

だとするなら、こうしたサイトを利用して代金を支払って代行してもらってその結果を理解することに注力したほうが効率的だし自分の勉強にもなるんだよな。

まぁ、翻訳会社のように証明書みたいなものを発行してもらえると多少こうした市場の信頼性は上がるのかな。

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