ノンフィクションな日常

彼女は「パンパンッ」と柏手を打つように手を叩き、こう言った。

「はい、この話はもうおしまいっ」

そう言いながら、目の前に座った彼女はにこにこと微笑んだ。

その直前まで、彼女の話を聞き、最近自分の身の周りに起こった出来事と彼女の話を照らし合わせながら、頭の中で色々な考えを組み立てていた。

小学生の頃、理科の実験で使った小さいモーターのように頭は回る。

キュイーーーンと音を立てながらすごい速さで回っている。

正しい答えに向かっているのかも、何か突破口のようなものを掴もうとしているのかどうかも、分からない。

ミニ四駆に搭載して走らせたらコースアウトすると思う。

そんな頭で組み上げていく思考はジェンガのようだ。

脆いようで、意外としっかりしている。

穴だらけでも、意外と崩れない。

意外としっかりしているせいで「本当かどうか」も分からないのに、自分の中にこびりついた思考は崩れてくれない。

マイナスな思考であればあるほど、モーターはよく回る。

そしてジェンガは高く高く積み上がる。

彼女の発したその音で、目一杯まで膨らませた風船が割れるように「ぱちん」と現実に引き戻される。

頭の中のジェンガを一旦どかし、モーターはゆるゆると回転を緩めていく。

「すみません、お時間を取ってしまって」

「いいえ」といいながら、彼女はにこにこと笑った。

その日から、日常の中の「どうでもいい些細なことだけれどどうにもできないもの」が、心の中に黒く沈んでゆるゆると広がっていく時

彼女が手を打つその軽やかな音を、頭の中に思い浮かべるのだ。

関係ないけれど、彼女には今年高校2年生になるお孫さんがいると言う。

おあとがよろしいようで。では、また。



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