憧れの場所はいくつもある。
ひとつ選ぶなら、今回は。
「九龍城砦」
憧れの場所。
そして、もうこの世界に存在しない場所。
写真集が出ていたり、作品のモチーフにされる事はあるけれど、行ってみたいかそうでないかに関わらず、もう訪れることができない。
訪れることのできないその場所は、ゲームや絵画の中の世界のように、魅力的に映る。
あるゲームの中で何気なく描かれていた、床に散らばる潰れた炭酸飲料の空き缶、吸い殻で山盛りの灰皿。
解像度が高いとは言えない画面の中の、何気ない背景。けれどその世界の一部であるそれらに思いを馳せるように。
私の中の九龍城砦は、想像の世界にしかない。
写真集の中から。インターネットの中から。動画の中から。ゲームの中から。マンガの中から。絵の中から。
あらゆる作品に触れて、それこそ継ぎ接ぎに作り上げられていくその場所。
「九龍城砦」という実際にあった場所の名前を借りて、実際にあった景色も、創作の中の風景も、全部取り込んで。
私の中にだけある街。
そんなことを考えながら電車に揺られ、仕事に向かう。
電車から吐き出された人々は、それぞれの目的地へと足早に急ぐ。
そんな何人もの人々とぶつかりそうになりながらホームへ向かって電車に乗る。
頭の中には九龍城砦、現実はぎうぎう詰めの電車。
ふと書きかけのこのnoteから目を離して、頭をあげると、高速で流れては吹き飛んでいく、窓の外の風景。
雨上がりに濡れた草や木。
錆びた工場と組み立てられた鉄材。
茶色く変色した螺旋階段。
車の流れ、信号機。
現れては消えていく景色。
ゆるゆるとホームに着いた電車から私も吐き出されて、人の波の中に混ざる。
構内の弁当屋から漏れてくる、揚げ物の香ばしい匂い。
どこかから漂うアルコールの匂い。
そうか。
日常も非日常もぐちゃぐちゃに混ざり込んで。
私の中の九龍城はきっと、なんでもない日常からもつくられている。
改札を抜けた先からは、雨上がりのアスファルトの匂い。
なんだか少し晴れやかな気持ちになった気がしながら、変わらない日常の中へと歩き出す。
と、noteの中の私は歩き出したので、ここで終わりたいところだけれど、短い話になってしまった。
ここからは、九龍城砦に関わりのありそうなテーマを手当たり次第引っ張り出してくることにする。
私は「クーロンズゲート」というゲームが好きだ。
オープニングで流れるきらびやかなネオンサイン。
あのきらきらとしたカラフルな光。
そうだ。
ネオンサインがほしい。
早速、販売しているネオンサインを調べてみた。
「餃子」と書かれたネオンサイン。
めちゃくちゃ、ほしい。
「SEGA」や「nintendo」と書かれたネオンサインもあるらしく、こころおどる。
最近では、「PlayStation」と書かれたパーカーを買った。気に入っている。
冒頭でもゲームの描写の一部に触れたが、私はゲームが好きだ。
そういえば。
「九龍城砦を模したゲームセンター」が日本にもあった。
九龍城砦とゲーム。好きなものと好きなものを合体させた最強の施設。
残念ながら、そちらも今はもうない。
いつか行きたい場所の「いつか」は、いつまでも待っていてくれるとは限らない。
なんだか、そんなことばっかりだ。
この文章も、日をまたいだり、戻ったり、進んだり、また戻ったり、戻った先から拾ってきたり。
九龍城砦は、どんどんと継ぎ足しつぎたし、ビルを作り上げていったという。
私の書く文章も継ぎ足しつぎたし作っているけれど、ちゃんとビルになれているのだろうか。
いつか見た、夕焼けの中に浮かび上がる電柱のシルエットを美しいと感じたこと。
細く狭い路地に並ぶランプや提灯に目を奪われたこと。
思わず入りたくなるような、作品の中の世界。
これまで出会ったお気に入りの景色、これから出会うかもしれないお気に入りになっていく景色。
それらを拾い集めながら、これからも自分の中の街をつくっていくのだと思う。
おあとがよろしいようで。では、また。
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