ほんの一部スイカ (毎週ショートショートnote)
祖母の家で食べるスイカは、塩要らずの甘さも毎年お決まりだ。母となった今も、これ以上のスイカは食べたことがない。
風鈴の音と蚊取り線香の匂いがする縁側で畑をぼぅっと眺めている間に、祖母は娘の手と口を拭いてくれたようだ。
「夏はこれだわー。」
「あと何回できるかねぇ。」
「そんなこと言わないで。」
この会話も何度目だろう。でも、いつかそのときはやってくる。
「あ!ちっちゃいすいかみたい!」
ここでスイカは育てていないはずなのに。娘に歩み寄っても、それらしきものは見えない。
「どこ?」
「ここうごいてる!」
娘の指す方へ目をやると、たしかにとても小さなスイカが足取り軽く茎を上っていて、葉に着くと休憩を始めた。
「これはね…。」
人生のほんの一部だが、今日の記憶が娘の頭の片隅でも残れば嬉しいな。
大と内と静、小と外と動。それぞれと赤と黒、そして眩しい陽の光は、私の大切な思い出たちをつなぐ。
後ろからのパシャッという音に、私達は笑顔で振り向いた。
(410字)
※当記事は、こちらの企画への参加記事です。
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