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なぜ、上島拓巳を応援したくなるのか。

アビスパと柏レイソルとの繋がり

2015年。アビスパ福岡はプレーオフ決勝でセレッソ大阪と引き分け、J1昇格を果たした。
この時も今季と同じく堅守が武器。中でもレンタルで柏からアビスパに来ていた、GK中村航輔が軸だった。
スーパーセーブで何度もチームを救ってくれ、ボールをキャッチしたあとにくるっと一周する姿を含め大きな印象を残した。翌年柏に戻ってはしまったが、アビスパで多くの出場機会を得たことが転機となったことは間違いない。その後日本代表にも選出されるほどの選手になった。

あれからはや5年。5年周期で昇格しているアビスパは現在、残り5試合で昇格圏内につけている。そして今回もまた、レンタルで柏から来ている選手が守備陣の軸を担っている。

上島拓巳の表面

それこそが、今回紹介する上島拓巳である。

表面だけを見ると、漫画の主人公のような選手だ。
まず見た目はJリーグ全体でも一ニを争うイケメン。しかも身長は185cm。
それでいて非常にストイックで、サッカーへの情熱も凄まじい。

上島の経歴

だが実は、上島のサッカー人生は決して順風満帆なものではなかった。
幾度の悔しさを味わいながらも、「とある才能」をもって未来を切り拓いてきた経歴を、振り返ってみたい。

上島は小学1年生の頃サッカーを始めた。その頃のポジションはCFで、チームの王様として得点を量産していた。10歳で柏レイソルのアカデミーへ。しかし、それまでとは勝手が違っていた。サッカーエリートが集まるアカデミーにおいては図抜けた存在ではなく、守備のポジションでプレーすることになる。

そのままレイソルユースでのプレーを続けたが、中学生の頃はほとんど試合に出られず。高校2年生の頃にもAチームからBチームへの降格を経験している。
高卒でのプロ入りを希望していた上島にとって、高2でのBチーム行きは厳しいものだっただろう。
それでも、この悔しさも糧にした。これを機にサッカーノートを毎日付けることに。さらに、人と比べるのではなく自分自身の成長に集中。それによって成長曲線を引き上げた。

そんな中、1つ年上で仲が良く、同じCBとして横でプレーすることの多かった中谷進之介(現・名古屋)がトップチームへ昇格。中谷は1年目から出場機会を得ることにも成功する。
翌年、同い年で年代別代表の常連だった中山雄大(現・ズウォレ)もトップチームに昇格。対する上島は、懸命の努力にも関わらずトップチーム昇格はならなかった。

その後、中谷はプロ3年目にレギュラーを掴み、中山もプロ2年目にレギュラーに。

身近な選手達の躍進にも、自分自身の成長に集中する上島はブレることはなかった。
中央大学に進学し、高校時代から継続する全体練習後の自主練習を欠かさないことで、着実に進化を遂げていく。

だが、ここでも強者と、しかもやはり隣でプレーする選手と比べられることとなる。
1年時からレギュラーの座を掴んだ、渡辺剛だ。
渡辺の場合は同い年、同じポジションというだけに留まらず、同じ身長、同じ体重、なんと同じ誕生日でもあるから比べられるのも自然なことだろう。

ライバル兼仲間と切磋琢磨をし、プロサッカー選手になれることを信じて己を磨く日々。
それを愚直なまでに繰り返すことで、ついに柏から練習参加の声がかかる。そして2019年。ついに、念願だった柏レイソルの選手として、プロ生活がスタートした。

ライバル達

その頃、中山はオランダのズウォレへ移籍。6月のコパ・アメリカでは日本代表デビューを飾っている。

また、渡辺はFC東京へと入団。その後1年目の夏頃からレギュラーの座を掴んでみせ、12月には国内組で挑んだEAFF E-1サッカー選手権2019に出場する日本代表に選出され出場も果たした。

上島も負けじと1年目から出場機会は得たもののプレーの安定感に欠け、次第に出場機会が減少。結果的に10試合の出場に留まってしまう。

自らの横でプレーしていた選手が次々と飛躍していく。そして日の丸を胸に、日本代表としてプレーしている。その反面、自分は中々出場できなていない。その現実を受けて、いくら自分の成長に集中している上島とはいえ、全く気にしないというわけにはいかなかっただろう。
こういう場合に不貞腐れてしまい、ベクトルがマイナス方向に向いてしまう選手も多い。上島はしかし、その悔しさをも上を向くエネルギーに変えた。

上島の目標、決断

なぜなら上島の目標はW杯に出場すること。そして、イングランドでプレーすること。
学生の頃から上手くいかないことの多いサッカー人生だ。プロになれたのに、これくらいの挫折で諦めるわけにはいかなかった。

明らかに自らの目標に近付きつつある仲間に追い付き、追い越すため。上島が選んだ2年目の舞台はJ2。アビスパ福岡でのプレーだった。

遠回りにも見える決断だが、どこまでも上島は冷静だった。どうすれば自分も後々日本代表という輝かしい舞台に辿り着けるか。
絶対に必要なのは、まず出場機会。そして圧倒的な活躍である。

強い覚悟を持ってアビスパにやってきた上島は、1年目ながら副キャプテンに就任。見事、開幕戦からスタメンの座を掴み、その後完全に中心選手となった。
ただ、チームも上島も今季ずっと順調だったわけではない。
第16節の千葉戦を引き分けで終えた段階で、チームは22チーム中17位にまで低迷した。上位2チームしか昇格できない今季。昇格など夢のまた夢の順位である。
でも、上島は諦めなかった。諦められるわけがなかった。
希代の負けず嫌いらしく、SNSでも強気の言葉を何度も発し、チームメイト、何より己にプレッシャーをかけた。
その後、チームは12連勝をするなど一気に浮上し、昇格が手に届くところにいる。

その過程で上島は、リーグ屈指のCBとの評価を得て、J2の9月の月間MVPに選出された。だが、あくまでもJ2。現状に納得はしていても、満足はできないだろう。無論リーグを悪く言っているわけではない。上島が目指している位置は、更に上であるということだ。

ストイックさ

長年苦労した結果、手にしたものがある。
ハングリー精神とストイックさだ。
勝った試合、それも無失点で抑えた試合であっても納得していない表情をしていることがある。
最初は不思議に思ったが、より上の舞台での活躍を目指している上島にとっては、無失点であろうと納得できない出来だったのだろう。

また、貴重な休みの日であっても英語の学習をしたりジムに行ったり。ストレスの発散はしながらも、目標のための鍛錬を怠ることはない。

実際の姿

上島拓巳。その実は、昔話「うさぎと亀」の亀のようである。
ただし誰よりも負けることを嫌い、誰よりも努力する才能を持っている亀だ。
それらは最終的にゴールにまで辿り着くために必要不可欠な才能。その両方を持つ上島は、間違いなく東京五輪、さらに日本代表を狙える器の選手である。

アビスパをJ1に昇格させる。今はひたすらにそれを考えていることだろう。
来季はどうなるか分からない。(いちアビスパサポーターとしてはもちろん残ってほしいが。)
ただ、1つ言えるのは、更に大きく成長できる場=ゴールに近付ける場所、を選ぶのは間違いない。
それが柏レイソルなのか、アビスパ福岡なのか、はたまた他の国内クラブなのか、海外のクラブなのか。どこであれ、上島は更に上を目指すためにそこへ行く。

中山雄太も、渡辺剛も、日本代表になった。中谷進之介にも待望論がある。中山に至ってはすでに欧州に渡りオランダでプレーしている。

改めて言うが、上島の目標はW杯出場。そしてイングランドでのプレー。つまり、3人に追い付く、いや追い越してゴールに辿り着くまで、一歩一歩進めている歩みを止めることはあり得ない。

プロサッカー選手としては決して超人ではない彼が、地道に、着実に進むその姿がプレーに現れているからこそ、上島は多くのサポーターの心を惹きつけている。

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