彼はスーパースターなんかじゃない

彼はスーパースターなんかじゃないし、操り人形でもなんでもなく、生身の人間で、当たり前に思い通りなんかじゃない。
分かっているを前提にしても、些細な積み重ねにイライラして、日常のモヤモヤとも合間ってぐしゃぐしゃになって、頭の上部でしか考えられなくなって、ついに蓋が開いてしまった。
わたしは鬱だったから、たぶん今でも少しは鬱だから、お互い別れるなら今だなんてこと、言い合ってしまった。

散歩に行くと言ったらついてきてくれた。途中の酒屋で9パーのチューハイを買い、海まで歩く。道中にリードを外された大型犬に追いかけられたり、散々な目に遭いながらも、海の先っちょ、灯台の下に辿り着き、まだ肌寒い春の夜風にビュービュー吹かれながら残りのチューハイを口にした。こういうときは不思議と寒さに強いから、ハイだと思う。
湖みたいな海を、変わらない暗闇の景色を見続けながら、訳も分からない涙が出た。なんの涙なのかはもう分からない。先に帰ってと言ったけど、彼は近くで待っていて、人ごとのように物好きな人だと思ってまた泣けた。


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