【読書雑記】鈴木哲也『セゾン 堤清二が見た未来』(日経BP、2024年)

 この本のハードカバー版(2018年9月)が出版された時、書店の棚に平積みされているのを見て気になっていた本が、もう文庫版になったと思っていたら、すでに6年も経過していた。
 鈴木哲也『セゾン−堤清二が見た未来』(日経BP、2024年)。
 先日立ち寄った阿佐ヶ谷・八重洲ブックセンターの新刊書のなかにこの本を見つけ、即購入した。たまたま、昨年(2023年)の夏、池袋の西武百貨店が家電量販店のヨドバシカメラに売却されると報じられ、にわかに注目を集めたことは記憶に新しい。奇しくも昨年(2023年)は、かつて「ラーメン百貨店」と呼ばれた池袋の三流百貨店を「セゾン文化」なる流行の先端を行く百貨店・企業グループに作り変えた堤清二氏の没後10年目に当たる年であった。
 西武百貨店をはじめ、西友ストア、パルコ、ロフト、ファミリーマート、無印良品、リブロ、SMA(セゾン・ミュージアム・オブ・アート)、シネセゾン、J-WAVE等々、いまなお存在している数多くの企業を立ち上げ(それゆえ、いまセブンイレブンでロフトの商品を、ローソンで無印の商品を見かけると、如何ともしがたい違和感を持つ人がある世代以上には少なからずいるはずだ!)、「じぶん、新発見」や「おいしい生活」のコピーで有名な糸井重里氏を見出したのが、堤清二氏であった。
 学部時代、セゾングループの経営から退いた同氏(作家・詩人としての辻井喬氏)から「詩学」の講義をうけ、大学院に進んでからも(護国寺にあった)セゾングループの研究所「流通産業研究所」(のちのセゾン総研)に足繁く通い、修士論文の調査・作成・執筆をしていた。その意味で、「セゾン的」なものを見聞きした最後の世代といえるかもしれない。
 故郷にいる時分、パルコやロフトに代表される「セゾン文化」を仰ぎ見、上京後はそれを体感し、その残滓と少なからぬ関わりを持った自らの10代・20代と、経営者・堤清二氏の功罪やセゾングループの興亡とを重ね合わせ、省み、いまを考える1冊であった(2024年3月19日記)。

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