【随想】消費生活センター条例化の課題#9−いわゆる「すみわけ」論の問題点(9/10)

 消費生活相談を担う消費生活センターを条例上どのように取り扱うかが真の問題である。
 今回の法改正は、消費生活センターを設置する地方公共団体が、①消費生活センターの組織および運営に関する事項、②消費生活相談等の事務の実施によって得られた情報の安全管理に関する事項、③その他内閣府令で定める事項についての条例化を求めるものである。これを受けて、県は新たに「消費生活センターの組織及び運営等に関する条例(仮称)」を制定する旨を明らかにした。つまり、県は、神奈川県消費生活条例の改正によるのではなく、新条例により対応するとの選択をしたのである。
 その理由は必ずしも明らかではない。一つに、実務における業務量の多寡を理由とする見方がある。既存条例の改正は、他規定との整合性の確保や他部署との調整など、多くの作業を要する大改正となり得る。しかし、新条例の制定は法で求められた最低限の条項を定めることで足りる。そしてもう一つ、今回の条例化が消費者安全法の改正を受け、その委任を受けて制定されるいわゆる委任条例であることだ。新条例は、神奈川県消費生活条例のような地方公共団体の発意で制定される自主条例に関するものではなく、これと性格が異なる。だから区別して制定する必要があるとの理解だ(「すみわけ」論)。
 前者は、県側の都合であるから、理論的には考慮に値しない。後者についても、そもそも条例ごとに自主条例や委任条例といった性格づけを行い、その性格が異なるがゆえに別個に制定されなければならないとの見解はまったく理解しがたい。自主条例・委任条例の別は、個々の規定ごと、その性格を捉え、整理・検討するための概念である。だから、一つの条例の中において、両方の性格を有する規定が混在することは十分あり得る。とくに消費者行政のように、すでに県等の地方公共団体が国に先駆けて事業を実施している分野においては、なおさらである。
 消費生活相談を担う消費生活センターは、被害救済委員会や消費生活審議会と同様、条例本体のなかに書き込まれるべきであった。県の消費者行政にかかる組織は、消費生活条例のなかにこそ位置づけ、体系性と一貫性を保ちながら消費者行政が展開される旨を対外的に示すこと、これが条例制定の目的であるはずである(2016年5月5日記)。

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