【随想】成年後見制度を考える#6−急転直下の終結(6/6)

 裁判所事務官との面談において、いくつかの追加資料の提出が求められた。ここから先は、個別的な事情にもとづくもので、いわゆるマニュアル本とかには出ていない部分だ。
 実家は、いま、わたしの郷里で文房具店を営んでいる。いまは、弟が継いでささやながら事業をつづけているが、実はこのお店、店舗自体は法人所有だが、店舗が立地している土地は父の所有である。事務官の関心は、この土地について、父と法人はどのような契約を結んでいるかである。もし、本人である父の立場からすれば、法人から地代を受け取って然るべきで、それは父の医療費や生活費などのたしになる。
 だが、ここに明白な契約関係があったわけではないようだ。かつては、賃貸借として法人から父は地代を受け取っていた時期もあったようだが、文具店の経営が縮小した現在は、法人に対して無償で貸し出したかたちになっている。いつからそうなったのかは、いま事業をしている弟も知らない。
 いま大切なのは、現状がどうなっており、現状の取引関係をあらわす契約がないならないで、改めて整理しておかなければならないということだ。
 かねてより我が家の家業の経理を見てくれていた税理士と話をしながら、対応を協議し、数ヶ月が経った。そして、裁判所に資料がなんとか整い、あとは連休明けに提出だけというそんなとき、父の容態の急変を知らせる連絡が入院先の病院から受け取った。いや必ずしも急変というわけではなく、徐々に衰弱し始めたから、家族の者は覚悟をしておくようにとの連絡だった。休日の午後ということもあり、郷里近辺に住んでいる親戚は皆病院に集まった。すると父は急に衰弱しはじめ、その日のうちに静かに息を引き取った。
 なんともあっけのない最期であった。本人が亡くなってしまった以上、成年後見の手続きは取り下げざるを得ない。遠方にも関わらず、誠実にむきあってくださった裁判所事務官の方に、御礼の手紙をしたため、わたしの成年後見申し立て制度の体験的利用は思いがけない結末を迎えのである(おわり)(2019年8月5日記)。

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