【読書雑記】坂口謹一郎著『日本の酒』(岩波書店、1964年・2007年)#ブックカバーチャレンジ_06

 ブックカバーチャレンジの6日目に取り上げるのは、坂口謹一郎著『日本の酒』。だいぶん前に、たいへんな読書家であり、愛酒家の友人からこの本をすすめられ、彼がかつて買い求めた新書版を譲り受けたことがありました。
 当時は、日本酒には関心もなく、手元に置いたまま放っておいたのですが、ここ4〜5年、日本酒が美味しいと感じるようになり、久々に手に取ったのがこの本です。酒の観賞から始まり、生産や流通の問題、歴史や作り方まで余すところなく語られているのに、心地よく通読できる一冊となっています。醸造学の大家であり、歌人としても名高い坂口先生ならではの名調子。
 譲り受けた新書版を読み終わると、裏表紙に鉛筆書きで友人の名前と読み終えた日が記されているのを見つけ、10年振りくらいに友人に連絡をしてみることにしました。彼はちょっと変わった読書家で、読み終わったらすぐに本を処分するタイプ。彼曰く、本の内容がすべて頭の中に入っているからだと......。
 当時、1964年に刊行された新書版は絶版になり、2007年に文庫版が出ていました。わたしは、文庫版を数冊買い込み、彼に文庫版の一冊をお返しにプレゼントすることにしました。もちろん、版が変わっただけで新書版と内容は変わりませんが、小泉武夫先生による解説が付加されています。坂口先生と若かりし小泉先生のやりとりや、「琥珀」と並ぶ湯島のバー「エスト」と坂口先生のエピソード......。古い酒場や喫茶店の店主によれば、かつて上野や湯島は、本郷の先生たちが闊歩していたらしい。そんな風景が滲み出てくる解説となっています。
 昔の岩波新書は、わかりやすくも、古びない名著が多かったなぁと改めて(2020年5月5日記)。

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