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ウクライナ危機 国際支援はなぜ届かない

ロシアの軍事侵攻によって続くウクライナの人道危機。3月下旬、国境を越えてポーランドに到着したばかりの母娘。女の子は自分の置かれた状況などわかるはずもなく、支援団体に差し出されたお菓子を無邪気に選んでいた。この母娘にはこれから厳しい現実が待ち構えている。そこに手を差し伸べるはずの国際社会の支援は今も届かないままだ。

奥に見えるのがウクライナとポーランドの国境のチェックポイント

母娘が越えてきたばかりのウクライナとの国境のチェックポイント。ようやく国境を越えてホッとするのも束の間、言葉も通じない国での母と子供だけの生活が始まる。ロシアと激しい戦争をしているウクライナ政府は総動員令を発令し、18歳から60歳の男性の出国を厳しく禁じている。仮にウクライナ側のチェックポイントまで辿り着いたとしても国境の警備隊に追い返されてしまう。

支援団体のテントが並ぶ国境近く

ウクライナ国境のポーランド側には、地元や各国のNGOが設置した到着したばかりの避難民を支援するためのテントが軒を連ねている。国連や国際機関、各国政府、さらに赤十字が大規模に支援を展開している様子は全く見られない。

近くの一時避難所に向かうバスを待つウクライナの人たち

スーツケース1つで国境を超えたウクライナの人たちはここからバスに乗って近くの一時避難所に向かう。国境を越えた人たちのほとんどは女性と子供だ。ウクライナ人女性は国際的な人身売買の標的にされるケースが多いため、ポーランド軍や警察が厳しい目を光らせている。

大規模ショッピングモールを避難所に使用。天井が高く寒い

国境から2キロのところにある一時避難所。バスに乗ってウクライナの避難民が最初に訪れる場所だ。たまたま倒産したショッピングモールが放置されていたため、地元政府が借り上げて避難民や彼らを支援するNGOなどに解放している。ここでも人身売買を防ぐため、軍が厳しい警備を敷いていた。私たちも車で駐車場を出るとき「トランクに人は乗ってないか?」と車内を入念に調べられた。

廊下に並べられた簡易ベッド。プライバシーはない

だだっ広い施設の廊下に並べられた簡易ベッド。外は零下にまで気温が下がる地域だけに暖房の効いていない室内は非常に寒かった。簡易ベッドや毛布も自治体やNGO、そして地元の人たちが寄付で用意したものだ。ついたてがあるわけでもなく、プライバシーない。

障害者や高齢者のための車椅子。人道危機に際して最も脆弱な人々だ

施設には障害のある人や高齢者も訪れるため、車椅子も用意されている。大規模な災害や戦争などの人道危機で、最も避難が難しいのが障害者だ。東日本大震災では障害者の死亡率は障害のない人の2倍以上にのぼった。仮に避難できても避難所はバリアフリーとはほど遠く。視覚や聴覚に障害のある人たちは必要な情報を得ることができず、支援の枠組みからこぼれ落ちた。

ウクライナ関連の国連決議。Persons with Disabilities(障害者)への支援が明記された

過去の人道危機の反省を受けて、国連は3月21日のウクライナに関する決議で、障害者の避難や支援の必要性を強調した。これと時を同じくして、日本財団では、ウクライナ、イスラエル、オーストリア、アメリカのNPOでコンソーシアムを作った。アメリカの退役海兵隊員を数十人ウクライナに派遣し、取り残された障害者の救出を行う方針だ。支援の規模は約3億円を想定している。

筆者とポーランド人ボランティアのミレックさん

首都ワルシャワで会社を経営しているミレックさん。1か月以上に渡って、この施設でボランティアとして避難民の世話に当たっている。ボランティアのリーダー的存在だ。近くの住民が自宅を宿泊場所として提供してくれているそうだが、ここに泊まり込むことも多い。毎日15時間以上働いており、悲惨な状況の人たちを間近で見ているため、体よりも精神的に疲れ果てていると話していた。ここで働く人は国内外のNGOと地元ボランティア。それにポーランド軍の兵士も活動に参加している。

米国のNPOが避難民のために暖かい食事を提供

施設ではアメリカに拠点を置くNPO、「World Central Kitchen」が暖かい食事を提供している。ミレックさんによると、この施設は最大で2500人収容できるという。1番多かった時で1日に約1000人が訪れ、今も 約500人が入れ替わりで滞在している。大量の食糧や生活必需品などは全てポーランド人や、地元企業の寄付。それにNPOなどの支援によるものだ。ミレックさんは、各国政府や国連、国際機関や赤十字など国際社会による大規模な支援は全くないと憤っていた。大規模な国際NGOとも話をしてきたが、動きが遅く支援の要請は諦めたと疲れた表情で話していた。最前線で働くボランティアの人たちはすでに疲れ果てている。決して裕福ではないポーランド政府と国民に頼り切った支援は限界に来ていると実感した。

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